表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗ソルシエ 〜雨ノ森市とお気に入りの喫茶店〜  作者: 冲田


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

第5話 喫茶・時間旅行

 怪盗騒ぎのあった翌朝。“喫茶・時間旅行”に、平べったくて抱えるほどの包みをもった昴が来店した。

 喫茶・時間旅行は雨ノ森駅の南側、商店街に店を構える喫茶店だ。昔ながらの、レトロな、そんな言葉が似合う、古いけれど小綺麗にしている、こじんまりとした落ち着いた店。

 昴はおよそモーニングの時間に この喫茶店を訪れていた。この街に来て出会った、お気に入りの店の一つだ。


「やあ、おはようございます」


「いらっしゃいませ」

 若い女性の従業員が愛想良く昴を迎え、カウンター席へと案内した。


 彼女はマスターの孫なのだと他の常連客から聞いた。大学生なので、平日のこの時間にいるのは(めずら)しい。

 マスターはカウンター向こうで素知(そし)らぬ顔でコーヒーを()れている。


「ねえ、マスター。今日はあなたのコーヒーに敬意を込めて、贈り物を持ってきました」

 昴は、案内されたカウンター席に座る前に マスターに声をかけた。


 いそいそと手に持った包みを開けると、中から額縁に入った絵画が現れる。


「口止め料ですよ」

 昴はマスターにだけ聞こえるよう、ひそひそと言った。


「なんのことでしょう?」

「とぼけんなよ、オッサン」


 不敵な笑みを浮かべながら黒縁眼鏡の奥で細めた目は紅く光り、彼の黒いはずの髪は窓からさす日を反射して金色に輝いた──ように、マスターには見えた。実際は、幻覚だったのかもしれない。


「とはいえ、現金化できるもんでもないけどね。この店に来る連中だってレプリカとしか思わないさ。けど、コイツを所有してるっていう優越感や愉悦感(ゆえつかん)は格別だよ?」

「そんなたいそうなもの頂かなくても、誰にも言いませんよ」

 マスターもつられて、コソコソと小さな声を出す。


「そうだろうとは思いますよ? けど、俺様は確かな約束が欲しいの」

「とはいえ、これはさすがに……受け取れません」


「わ、“ゴッホのひまわり”? でもよく見るやつとはちょっと違うような……? 贋作(がんさく)ってやつですか?」

 マスターの孫娘が興味深げに絵を(のぞ)()む。


「これが“よく見るやつ”の贋作なら、もっと本物のように似ているはずですよ。ゴッホのひまわりって、その“よくみるやつ” つまり、日本の美術館にあるものとは別に、何枚も描かれてるんです」

「言われてみれば……聞いたことがあるような?」

「と、いうわけで、その中の一枚となります」

「へぇ……そうなんですね」

「でも画商としては()()()()()()()()代物(しろもの)だし、それならお店に飾ってもらおうと思ったんですが……。君のおじいさまは遠慮して受け取ってくれないんですよ」

「売り物にならない……? えーと、レプリカなのかな? でも……なんで突然絵のプレゼントなんですか?」

「ああ、そうですね。申し遅れました。私、こういうものです」


 昴は彼女に名刺を渡した。その様子をマスターは苦い顔で見る。

 マスターの表情の変化を確認して、昴は交渉のターゲットを変えた。一瞬にやりと口角をあげると、人好きのする営業スマイルを作る。


「ギャラリーと画商をやっておりますのでね。このような品に縁があるんです。

 絵画にご興味がおありでしたら、ウチのギャラリーにご案内いたしましょう。ああ、一緒に美術館巡りもいいですね。その後どこかでお食事にでもお連れします。今週末などいかがです? 日曜日なら学校も休みで……」

「わかりました! 受け取りましょう!」


 マスターが(さえぎ)り気味に言った。


「大変助かります」

 昴は満面の笑みで手揉(ても)みをする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ