毛むくじゃらの Hairy
ぼくは、お母さんと一緒に三時のおやつを食べています。おやつはみかんです。皮を剥いた瞬間、とたんに甘い香りが漂って、ぼくはそれがたまらなく好きです。でも、お母さんのほうがもっと好きです。
「お母さん、ぼくにも一つ、下さいな」
「あら、欲しいの」
「欲しいです」
「じゃあ、あぁん」お母さんは一口分のみかんを摘みます。それをぼくは舌を上手に使ってキャッチしました。口いっぱいに甘い果汁が染み渡ります。普段のお菓子より、ずっと味が濃くておいしいです。
「もう一つ下さい」
「まだ欲しいの」
「はい、食べたいです」
「はい。あぁん……、おっと、落としちゃった」
なんの平気です。ぼくは絨毯に落ちたみかんをそのまま口に入れます。絨毯にシミがつかないように、なめておきました。
「みかん好きなのねえ」
「こんなに甘い食べ物は初めてです」
お母さんは、笑顔でぼくの頭を撫でました。お母さんが喜んでくれることが、ぼくのなによりもの幸せです。そうやってお母さんの顔の眺めていると、口元から甘い香りがしてきました。ぼくはたまらず、お母さんの口の周りに何度もキスをします。
「うぶぶ、うぶぶ」お母さんは顔を顰めます。「ちょっと、ウー君。やめなさい。ぺっぺ」
「ああ、おいしかった」
「さて、散歩でも行く、ウー君」
「え、散歩ですか。わぁい、行きますとも行きますとも。やった、やった。うっほほぉい」
「ちょっと落ちつきなさい。こら、ちょっと。もう、つけられないじゃない……。リードつけないと、お外行けないよ」
「わかりました」ぼくは大人しくお座りします。
「はい、よい子ですねえ」
「ワン」