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滅亡の軌跡  作者: 部屋で独り
第一章 
9/9

第九話 上手くいったんじゃないかと


「あれよ」


 建物の影からマルタが指さす家。そこに元王女が囚われている。

 

「私はここで待機してるから。頼んだよ」


 俺たちはコクンと頷いて屋敷に近づく。

 屋敷の前に立ち「いくぞ」と正面の入り口の扉を開こうとするとアルヴィが慌てて止める。


「バカお前、潜り込みに来てるのに正面から入る奴があるか!」


 小声で怒鳴られるが確かにそうだ。

 しかし、侵入できる扉など他にはない。それこそ窓でも叩き割って強引に侵入するしか‥‥‥。


 俺たちは屋敷の周辺をぐるりとまわり、ガラス窓を覗いて人のいない部屋を探す。

 

「見つけた。アルヴィ、これだ」


 そこは一階にある薄暗い一室。屋敷の裏側にある物置部屋の小さな窓を覗きアルヴィを呼ぶ。


「どうすんだ?割るか?」


「音を立てずに出来るか?」


「できん」

 

 どうするか。

 トーマは少しの思案の後、試しに目の前とその部屋の中に『門』を出そうとすると。


「おお!これがあったか」


 『門』は何の抵抗も無く出現した。

 もしかすると『門』の使用条件は複数あるのかもしれない。

 今朝の検証からは、『門』は現在地と既に訪れたことのある目的地との間の「移動」を省くことで事実上、一瞬で移動することを可能とする能力と思っていた。

 しかし、それでは外から覗いただけで部屋の中へ移動することはできない。部屋までの道程は解らないからだ。だが実際は可能だった。

 考えるに、『門』は俺の視界に入った場所にのみ移動できる能力ということだろう。目的地を知っていても移動経路を知らない場所へ移動できないのは、その間に俺の視界に入ってない場所が存在するためか。

 わからない点がまだ多く残っているが納得はできる仮説だな。


 少々興奮気味のアルヴィに先に門をくぐらせ安全を確かめてからトーマも入る。

 

 潜入成功。音は出してないからバレてない。


「慎重にいくぞ」


 扉を少し開けて周囲を確認し、音を立てないよう移動する。

 

 光の魔道具に照らされた廊下を警戒しつつ進んでいると。


「上がるぞ」


 階段を発見し、二階へ上ろうとするとアルヴィが待ったをかける。


「なぁ、おかしくないか?」


 屋敷を入ってから口を開かなかったアルヴィが浮かない顔で話す。


「外からなら何人も確認できたのに入ってからはまだ一人も見てない」


 言われてみれば‥‥‥。

 顎に手を当てて思い返そうと顔を上げると。


「うん?」


「どうしたトーマ」


「今、人影が通った気がしたんだが‥‥‥いや、勘違いかもしれん」


 トーマの確証のない発言をアルヴィは受け止める。


「いや、急ごう。嫌な予感がする」


「わかった」と返し、二人は急いで階段を駆け上がると最奥の部屋へ黒のローブを着た男が入っていくのが見えた。


「チッ、やっぱりか!」


 舌打ちするアルヴィと奥の部屋へ向かおうとすると、背後から気配が二つ。

 ここは二手に別れるべきだな


「アル!後ろの奴は任せた」


「ああ」


 『門』で部屋の前に移動し、ドアを開ける。

 同時に『門』の中から槍を取り出す。


 四方に一本ずつ蝋燭が灯っているだけの薄暗い部屋。その中に先程の黒いローブの暗殺者が二人、それと女が一人、いや、後ろにもう一人いるか。


 この部屋で間違いない。

 速攻で終わらす。


 まずは俺に手前の奴の喉を槍で貫く。

 引き抜くと同時にもう一人に『ファイア』を放つ。初級魔術だが使い慣れていることもあり威力は高い。

 

 仲間をやられたというのに全く動じない暗殺者は余裕そうに躱し、手に持つ短刀を俺の首に向ける。

 

 俺は自分の足元とヤツの頭上に『門』を開き、

 足元の『門』に槍を突き立てると頭上の『門』から穂先が現れ、身体を穿つ。

 

 我ながら恐ろしい能力だと思う。死角からいきなり攻撃が飛んでくるんだから。


 そんなことよりも今は元王女を連れて脱出しなければ。

 と、歩み寄ると。


「そこで止まりなさい」


 手負いの女が暗殺者の短刀を手に言う。

 後ろにいる元王女は守られてはいるものの毅然とした態度で俺を見つめる。

 殺人の現場を前にして大した度胸だ、と感心していると手負いの女は続ける。


「助けて頂いたことには感謝する。しかしいかに恩人であろうとも素性の知れぬ者を姫様に近づけさせるわけにはいかない。名と目的を答えなさい」


 強気の声色。それにどこか聞き覚えがあるような‥‥‥。

 それは今はいいか。

 この手の人間は下手に逆らうと一層面倒になる。

 ここは素直にそれっぽい返事をして、


「失礼しました。私はトーマと申します。此度は王女殿下救出のため参上しました。危害を加えるつもりはありません、ですのでどうか刃をお納めください」


 右手を胸に当て、軽く頭を下げると王女様が前に出る。

 

「頭をお上げください。私はシャーロット・バルガスといいます、この子はクリス。先程は助けて頂きありがとうございます‥‥‥‥」


 顔ははっきりとは見えず、届いてくるのは発せられた鈴のような声のみ。

 しかし、なぜかやけに俺の顔に視線が向けられていると感じる。

 気のせいだろうか?

 

 こほんと咳ばらいをして気を取り直す。


「いや、礼には及びません。

 では、お二人を安全な場所までお送りいたします。急ぎますので少々乱暴になってしまいますがお許しください」


「わかりました。あと、敬語は使わなくても結構ですよ。くだけた感じでお願いします」

 

 使い慣れてないこと見抜かれてたみたいだな。

 正直助かる。


「わかった」


「姫様!?なりませんよそんなこと!!」


 クリスはギャンギャン騒ぐがシャーロットはまぁまぁと宥める。


「移動しようか」


「はい。お願いします」


「じゃあ失礼して、よいしょ」


 彼女らを両脇に二人を抱える。


「えっ?えっ?」


「おい!何をする!無礼だぞ!!」


「あっ、コラ暴れんな」


 敵の数も分からない中で姫様方のペースに合わせてる余裕なんてないんだよ。


 抱きかかえられ困惑するお姫様の柔らかな感触とやかましいクリスの硬い筋肉を堪能しつつ部屋を出る。

 

「アル、姫様は無事だ。下がるぞ」


 そう呼びかけ、アルヴィと交戦中の暗殺者二人に岩石弾(ストーンキャノン)を放つ。

 アルヴィが逃げる隙を確保しつつ、念のためにヤツらと俺たちの間に土壁を発生させる。


「今のうちに撤収する」


 『門』を出すと抱えられている二人が目を輝かせ大人しくなる。

 さっきも使ったけど暗かったせいで見えてなかったのかな?


 「なんという魔術ですか?」とか「このようなもの見たことない‥‥‥。」とか呟いているが今は撤退優先。


 いきなり出現した『門』から出てきた俺たちにマルタちゃんは驚くが、両脇に抱えられている者を見ると状況を理解したらしく、集合場所まで案内してくれた。

 


 そこはすぐそばに貧民街があるあばら家のような安宿の地下。

 来るときに通った秘密通路を使うのだと思っていたのだがどうやら違う様子。 

 そこそこ広いその部屋には既にアリウス班やコルン班が到着しており、助けた子供たちを落ち着かせていた。


 俺も警戒を解いて二人を下ろす。

 お姫様は身なりを正すと俺に迫る。


「トーマ様さっきの魔術は何ですか!?あのようなもの見たことありません!教えていただけないでしょうか?」


 上目遣いでお願いしてくる姫様にNOを言えないトーマ。

 加えて、そこにマルタちゃんも「私も知りたーい」と参戦してくるんだからもう。


「仕方ないなぁ。少しだけだぞ」


 頬を緩ませながら門を出してその説明までしていると、ちょうどクロウがやってきた。

 アリウスとコルンの報告を受けているクロウからただならぬ気配を感じ取ったのか、姫様はトーマに耳打ちする。


「あの方々は一体?」


「俺たちのリーダーだよ。怒らせるとスゲー恐いから後で挨拶しときな。俺もちょっと行ってくる」


 アルヴィを連れてクロウの下へ行く。

 そういえばクロウさんは何の用があってここに来たんだろう?


「二人とも無事だったか」


「ちょっとありましたけど何とか」


「姫様もあの通り無事です」


 クロウはアルヴィの目線の先へと視線を向ける。

 微笑みながらぺこりと頭を下げる姫様方に頷きで返す。


「そういえばクロウさんはどうしてここへ?」


「ああ、俺たちもちょっと用事があってな。

 イザノバのそろそろ来ると───って来たな」


 タイミングよくやってきたイザノバは少し難しそうな表情だ。


「クロウ、少し急いだほうがいいかもしれん。騎士共が警戒体勢に入っている」


「流石に勘付かれたか。ふむ、遠回りになるが安全なルートを進もう。問題は子供たちがついてこれるかどうかだが」

 

 どうしてあの地下通路を使わないんだ、とも思ったがクロウさんのことだから使えない理由でもあるんだろう。

 

「クロウさん、あとは帰るだけなんですよね?」


「ああ」


「なら俺に任せてください」


 と言い、『門』を出す。 

 これでも元騎士見習い。街の巡回でこの辺りの造りは大体頭に入っている。

 今朝に『門』で拠点から教会領までの移動が出来なかったのは、森に入ってから拠点までの正確な道が分からなかったため。

 しかし、それももうちゃんと記憶している。


「それでこの人数を送れるのか」


 作戦前にも『門』については現段階で判明している限りのことを説明したが、この人数を一度に移動できるかは未知数。

 しかし、ここで「‥‥‥多分」なんて言えない。

 さっき、任せてくれなんて言ってしまったからだ。

 ならば答えは決まっている。


「出来ます」


 即座の首肯にクロウは信じてくれたのかその場にいる全員この中へ入るように指示し、

 俺の初任務は無事終了した。

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