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滅亡の軌跡  作者: 部屋で独り
第一章 
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第七話 響く声


『おき──、──い。はや────いそ───!』


 またか、静かにしてくれよ、疲れてんだから‥‥‥。


『だ──。そん────。』


 はぁ‥‥‥。わかった、わかったから、もう起きるから‥‥‥。


 ゆっくりと瞼を開き、上体を起こして見回す。

 やっぱり部屋には誰もいない。

 最近このような声が聞こえてきて目覚めが良くない。


 魔術の指導が始まってから二か月が経った。


 『最高の魔術師に仕上げてやる』という発言を実現すべく行われた教育は苛酷で、はじめの数日こそ魔術の基礎知識を詰め込むだけの楽なものだったが、その後の実戦訓練は酷いものだった。

 最初のノルマは初級魔術のすべてを五日以内にマスターすることだった。

 一つの属性でさえ、初級でさえ、複数の魔術がある。

 俺が唯一使える火属性なら、非攻撃性の種火(ファイア)と攻撃性の火弾(ファイアボール)だ。

 普通の術師は火水風土雷の基本五属性の内の一つを自身の才能、適正と照らし合わせて伸ばしていくのだが、俺はその全てを使用できることを課された。

 

 無理だと思った。自分にはそんな才はないと。

 今思い返すと、これは、五属性の内、何が使えるのかで教育方針を決めようとしていたのではないのか。

 しかし出来た。出来てしまった。

 それが彼女に火をつけた。


 次に課されたのは五属性の中級魔術を全て使用可能にすることだったのが、これまたすぐに出来るようになった。

 テレシア曰く、俺には物凄い才能があるらしい。

 俺としては、ただ教本に書いてある詠唱文を読み上げるだけで魔術が発動するため、なぜこれが出来ないのか分からないほどだ。


 そして一番苦労したのは、五属性の初級中級魔術の全てを無詠唱で発動させることだった。

 無詠唱するには発動する魔術の明確なイメージを必要とする。

 さっきも言ったが、俺は書いてある詠唱文をただ読み上げただけで発動できてしまっていたため、何も考えて無かったのだ。


 1.発動したい魔術をイメージ。何も起きない。

 2.詠唱して魔術を発動。頭に焼き付ける。


 これをとにかくひたすらに繰り返す。

 そうして何十、何百と繰り返し、魔力が尽きて気絶すればまた翌日に。


 この二か月はそればっかりだった。

 たまに入るテレシアとの実戦訓練は、ストレスの発散にはちょうど良かった。

 そのおかげで現在では中級までの魔術は大体無詠唱で発動できるようになった。


 ただ予想外だったのは魔力切れが続くと疲れが取れにくくなることだ。

 このおかげでいつも気怠い。


「今日は何するんだろうか‥‥‥ん?」

「おっ、ちょうどいいタイミングだな」


 嘆息して寝台から下りているとドアがガチャリと開き、アルヴィが入ってきた。


 アルヴィもこの二か月間非常に厳しい訓練を課されておりクロウから剣術、イザノバからは体術の指導を受けていた。

 今ではすっかり見慣れたが至る所に青痣が確認できる。

 今日も朝から訓練か。

 テレシアさんで良かったよ。ホント。

 

 まぁしかし、

 

「ノックぐらいしてくれ。それで‥‥‥何の用?」


 机に向かって座り、昨晩のうちに淹れておいた紅茶をすすりながら尋ねた。


「今晩の作戦に俺たちも加わることになったからその報告にな」


「本当か!」


「ああ、だから昼からの作戦内容の説明をするから来いってさ」


「わかった」


「それで、これからどうする。俺は朝飯食いに行くけど」


「あ~、どうしよっかな。テレシアさんから出された宿題が終わってないからな。もしよかったらすぐに終わらすから待っててくれる?」


 と机上にペンと紙を出す。


 アルヴィも首を縦に振ってくれたので急いで取り掛かる。

 テレシアお手製の問題だ。

 昨晩にほとんど終わらせていたのだが、残りの数問を面倒くさがり残していた。

 魔術の相性の問題だ。火は水に弱いとかそんな感じの。 


 数分の静寂の後、宿題を終えたトーマはふぅと一息ついてガバッと立ち上がる。

 空腹のせいか勢いよく立ち上がったトーマはうっかりティーカップにぶつかり落としてしまう。


 「ヤバッ」


 割れる。片付けが面倒。腹が減っている。片付けが面倒──。

 そんな一瞬の思考。

 せめてカップだけでも、と手を伸ばすと────。



 「「は?」」



 宙に出現した黒い穴のようなものがカップとその中身を飲み込んでしまった。


「な、何だ、今何をしたんだ!?」


 アルヴィが驚嘆の顔を浮かべる。


「知るか!何だ今のは!?」


 恐る恐る再度試してみる。

 が、今度はなにも起きない。


「何も起きんぞ」


「ふむ」


 そういえばさっきの黒い穴、あれを出したとき僅かではあるが魔力を消費した感覚があった。

 もしあれが魔術だとしたら、イメージを固めてみれば発動するのでは?

 訓練のおかげか強烈にイメージするということに慣れてしまっている。

 出来ぬわけないッ──!


「すぅ‥‥‥ふぅ‥‥‥」


 深呼吸。

 手を突き出し、神経を集中させる。

 みぞおちの辺りからグツグツと噴きあがるような魔力を感じると、頭の中で黒い穴を強く思い浮かべる‥‥‥。


「フンッ!‥‥‥成功」


 目の前に黒い穴が出現した。


「おおっ!!」


 アルヴィは興奮して目を輝かしているがトーマはいたって冷静。

 

 いろんな魔導書を呼んできたがこんな魔術どこにも記されてない。

 これがどんなものか詳しく知っておく必要があるか。


「‥‥‥アル、悪いが朝食はパスだ。俺はこの魔術についてもっと知っておきたい」


「それは分かるが、まさか一人だけでやるなんて言わないよな?」


「フッ‥‥どんな影響が出るか分からないし外でやろうか」


「了解、簡単に食えるもん持ってくるから先に行っててくれ」




ーーー




 二十分後、合流したトーマらは拠点から少し離れたところで新しい能力の検証を始めた。


 それにあたり俺たちはこの黒い穴のことを『門』と呼ぶことにした。


 その理由はあとで説明するが、その前にいくつか判明したとをまとめる。


 まずこの門には大きく分けて二つの能力がある事が分かった。

 一つは物質や魔術を収納,放出する能力。


 この能力の特徴は二つあり、『門』の中では時間の経過がなく収納された”物質”の状態が変化しないことと、収納される速度と放出される速度は同じということ。


 ただし、生き物は”物質”として認識されないという制限がある。


 もう一つは、『門』を通じて人や物質の移動ができる能力だ。


 しかしこれにも制限はあり、現在地と目的地にそれぞれ最低一つ『門』を出す必要がある。

 加えて、現在位置と目的位置を正確に把握し、そこに至るまでのルートを記憶しておかなければいけない。

 つまり、『門』は現在地から目的地までの移動を端折る能力というわけだ。

 なので、気絶している間にスレイズの拠点に連れてこられた俺は、ここがどこなのか正確には知らないため教会領や故郷の村へは移動できない。


 ちなみにこの力を門と命名したわけは、場所と場所を瞬時に移動できるという能力が、神話に出てくる転移門を想起させるかららしい。

 無学なトーマに代わり博識なアルヴィが命名。

 


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