第二十六話 新技完成
さらに一週間が経った。
徐々に秋から冬に移り変わろうと気温は下がっていく。
そろそろ厚手のローブでも買おうかななんて考えながらトーマは固定化された日々を送っていた。
朝
「ついにやりました!トーマさん見てください!」
レイラの魔術の練習。この日初めて無詠唱で初級水魔術の水弾を発動することに成功した。
お兄ちゃんも隣で大喜びしている。
昼
「今日も来たよー」
「「「「やったーー」」」
第3居住区のとある広場の隅でトーマは群がってくる貧民の子たちにお昼ご飯を振る舞う。
三兄弟のココ、モモ、ドドに、クロとアオ。クロは髪が黒いから、アオは瞳が青いから周りからそう呼ばれている。名付けが適当なのは、単に子供に関心がないからだろうか?
最初こそ警戒されていたが一週間も経てば仲良しさ。
夜
「トーマァァァ‥‥‥。早くそれを消してくれぇぇぇ」
なかなか寝付けないアルヴィが指さすのは、宙に浮かぶ眩い光球。
トーマが魔術教本を読むために発動している光魔術だ。
と、こんなルーティンで生活している。
そして今日、俺はアルヴィの睡眠という犠牲を払うことで一つの魔術を完成させた。
その名も聖樹結界。
これはもともと存在していた足止め用の魔術の魔法陣を改造することで規模や強度、発動時間の大幅な短縮などを実現した俺専用の魔術だ。
なぜ専用なのかというと、俺はこの聖樹結界を誰の手も借りずに独学で作り上げたのだが、当然、素人の俺は効率のいい改良法など知らない。なので元になる陣の周囲に、欲しい効果を付与する式を詰め込めるだけ詰め込んだ。
結果、魔法陣は不細工に肥大化し、必要とする魔力量が元の必要量の数十〜数百倍にまで膨れ上がってしまったというわけ。
まぁつまり、俺ぐらいしか発動できない仕様になってしまったから俺専用なのだ。
しかしこれは言うなれば使用前の想定値。
実際どのくらいの魔力量を必要とするのかはわからないため、明日の空いた時間にでも二人を誘って試してみるつもりだ。
ーーー
レイラの修行と貧民の子どもたちへの給食を終えた俺は、暇そうにしていたアルヴィとアリアを誘い、『門』でスレイズの拠点近くの深い森へ移動し術のお披露目の用意をしていた。
「おいトーマ、何もこんなところまで来なくたっていいんじゃないか?」
「『門』で一瞬で来たんだから文句言うな。
それに今から使う魔術は結構魔力消費が激しいからラトガトの近くじゃ騎士どもに勘付かれる可能性があるの」
「そんな事いいから早くしなさい」
文句をたれるアルヴィに再度の説明をするトーマ。呆れ顔で急かすアリア。
というかこいつらほんと何もしねーな。
一応、情報収集の任務を課されてるんだからもう少し頑張ってくれてもいいんじゃないか?2週間もあってどんな情報持ってきたよこいつら。
急に湧いてきた怒りを抑えながら慎重に魔法陣を描いていく。
「よし、こんなもんか。
それじゃあ二人とも少し離れてくれ」
魔法陣から距離を取るように呼びかけると、トーマは右手を伸ばし魔法陣と魔力の通路を形成するとその瞬間───。
「こ、れは‥‥‥」
「何が起きた‥‥‥?」
アリアとアルヴィが困惑の色を見せた。
それもそのはず、二人は魔法陣に意識を向けていたというのにほんの瞬きの一瞬のうちに3メートル程の巨大で極太の蔦が出現していたのだから。
しかし。
トーマも同じ現象を目撃していたのだが彼はそれどころではなかった。
「くっ‥‥‥あ‥‥‥」
全身から力が抜けていく感覚を味わいながら膝をつく。
まずいぞこれは‥‥‥。
魔力が半分近く持っていかれた。
いや、魔力のことはいい。それよりもこの脱力感だ。
トーマは膝に力を入れてくっと立ち上がる。
足の速い相手を捕まえるための魔術だというのにこれでは自分も動けなくなってしまう。
実戦で使えるものじゃないな。要改良だ。
それにしても二人とも聖樹結界に夢中で俺のことを忘れるなんて薄情な奴らだよ。
「どうだ二人とも。これが俺の新技『聖樹結界』だ。驚いたか?」
「ああ‥‥‥」
「全然捉えきれなかった‥‥‥」
「ふふん。そうだろうとも」
胸を張るトーマは二人の反応を満足気に聞いていた。
この聖樹結界は馬鹿みたいな魔力量を必要とする代わりに規模、強度、発動時間を大幅に強化という設計になっている。
今ので規模と発動時間は検証できたので、あとは残る強度のみ。
そこでトーマは未だに巨大な蔦を眺めてる二人に協力を求める。
「それでなんだが、二人にはコイツの耐久性の確認のために攻撃をして欲しいんだ」
それこそがわざわざアリアとアルヴィを連れてきた理由だからな。
「勿論全力で」
大人しく聞いていたのに俺の一言がやる気を煽ってしまったらしい。
侮られたと感じたのか二人は青筋を浮かべた笑みで俺に忠告する。
「いいけど、簡単に壊れても文句言わないでよね」
「一刀両断にしてやるからそこで見てろ」
まずはアリアだ。
一歩前に出るとつきだした人差し指に魔力を収束させていく。
トーマの記憶にもある聖光という中級光魔術だ。
全力を出すとは言っていたが大技を撃つつもりは無いらしい。
アリアは聖光を的に向けて発射した。が、それは極太の蔦の表面を軽く抉るだけにとどまった。
「なっ!そんなことっ!」
「ふふ、アリアさん残念でしたね〜」
トーマはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて驚愕しているアリアへと声をかけると彼女は顔を赤くして指に溜めた魔術をこちらへと向けて撃つ。
しかしトーマはいとも容易くそれを『門』の中へとご招待。
「くっ‥‥‥相変わらず厄介な能力ね!」
「よ~し次は俺の番だな」
と今度はアルヴィが前に出る。
アリアの一撃。魔術の階位こそ低いもののその威力は十分だったのに関わらずあの程度のダメージで済んだのは見かけ以上の強度を持つが故か。
アルヴィはそう思考し、蔦の前で剣を構える。
それに見たトーマはある事に気付く。
「なあアリア、あいつ剣持ってたっけ?」
「知らなかったの?こないだあんたに貰ったお金で買ってきたのよ。いい店を見つけたってえらく喜んでたわ」
へー、と適当な相槌を返しアルヴィへと向き直った直後、彼は高速の一閃を抜いた。
しかし───。
「くあっーー。これでもダメかあ!」
彼の剣は蔦を切断するには至らず、半分ほどを切り裂くに止まった。
悔しそうな声を上げるアルには悪いが俺の気分は最高だよ。
なんせ、こんな力比べでお前に勝つのは初めてだからな。
「よし、これで強度もクリアされた。あれだけの魔力を持って行ったんだ、当然だな」
「ちくしょー、結構マジだったんだけどな‥‥‥。へこむわ‥‥‥」
演技の謙遜も今のアルヴィには届かないようでしっかりショックを受けている。
「ふん、あんたも大したことないわね。あんなに意気揚々と出たくせに」
「そっちだって表面焼いただけだろ」
今のアルヴィにはアリアの挑発を流すだけの余裕がなく、彼もまたアリアに効く一言をチクリと言い返した。
トーマはまぁまぁといがみ合う二人を落ち着ける。
「ところで二人はこれからどうする?俺は一度クロウさんに報告しに戻るけど、一緒に来る?」
彼らは一瞬悩むそぶりを見せるが首を横に振る。
「了解。じゃ先に戻っていてくれ」
俺は『門』を開き、二人をラトガトへと帰す。
同時に『門』をもう一つ追加して彼らを見届けたあとに、俺はスレイズの拠点へ向かった。




