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グレイ  作者: 家端独
第二章
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第二十一話 君、強い?

 

 ラトガトに着いてから一週間が経った。

 アルヴィとアリアは良い依頼がないと文句を言いながらも、連日にわたりギルドへ赴きゴブリン討伐や薬草取りといった低級の依頼をこなしており、俺はその間に街の散策を進め、大まかな構造や施設の配置などを記録していた。


 ラトガトは丘を囲うように造られた巨大都市で、その頂上には街の代名詞ともいえる黄金宮殿がある。

 黄金宮殿を中心に北は居住区、東は商業区、南は工業区、西は生産区とおおまかに区分されている。

 区分されているからといって、都市住民のすべてが居住区に住んでいるわけではないし、すべての商店が商業区に集まっているわけでもない。

 都市のなかで比較的住居や商館が多く集まっている場所を居住区だとか商業区と呼んでいるに過ぎない。これは工業区も生産区も同様だ。


 ちなみに、黄金宮殿にはこの都市の領主である(いかずち)の竜騎士が住んでいるのだとか。

 居住区は第1~第4に分けられており第1、2は貴族、第3は平民、第4は貧民と数字が若いほど地位が高く、竜騎士の住まいに近い。

 大きな都市のため一週間でこの程度しか分からなかった。

 そのため今日から本格的な調査をしようと思う。


 まず、居住区と生産区は調査範囲から除外する。

 居住区には騎士や兵士の兵舎があり、下手なトラブルを避けるため。

 生産区には農地しかなく、主要な施設がなかったためだ。


 まぁ調査と言っても大層なことはしないし出来ない。やったことが無いから。

 街を巡る中で気になった場所へ行き、どんなものか見に行くだけ。


 最初の目的地は図書館だ。

 商業区と工業区の間という近場にあり、なんとこのオルグス帝国で二番目の蔵書数を誇るのだとか。

 調べたいことが山ほどある。心が躍るというものだ。


ーーー


「では利用料として銀貨一枚をお願いします」


 カウンターで淡々と作業を進める受付に一文無しのトーマは固まるしかない。


 利用料?


「ないようでしたらご用意されてから改めていらしてください」


 トーマの反応から察した受付に促されるまま大図書館を後にし、近くの公園のベンチに腰を掛ける。

 視界に入るのは、幼い少女と母親。彼女たちは仕立ての良い服に身を包み幸せな時間を共有している。

 向こうにそんな気は無いだろうに、勝手に金無しの自分との差を実感してしまい自然と視線が下がる。


「はぁぁぁ」


 金かぁ‥‥‥。そりゃ当然必要だよな、慈善事業でもあるまいし。

 一回の入場につき銀貨一枚。一度に知りたいことすべて調べるなんてできるわけもないから、何度も払わなきゃいけない。まとまった金が必要になる。

 どっかに割のいい仕事転がってないかなぁ‥‥‥ないよな‥‥‥。


「はぁぁぁ」

 

 二度目の嘆息に先程の幼子がこちらに駆け寄る。


「おじさんだいじょうぶ?」


 純粋で素直な心配だ。体調が優れないと思っているんだろう。

 違うよ。ただお金が無いだけなんだよ。

 何て言えるわけもない。


「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 ポンポンと少女の頭を撫でていると、母親もトーマへ寄り案じてくれた。


「本当に大丈夫?顔色が優れないようだけど‥‥‥」


 親子共々善人のようだ。この人に育てられるのならこの子は優しい子になるに違いない。

 俺はこの幸せ空間を破壊せぬよう、早々に立ち去ろうとした瞬間───。


 ぐぅううううーーー


 と、低音がよく効いた腹の音が響いた。

 

 ふむ、朝食から既に数時間経っている。そろそろ腹が減ってきていたところなのだが、このタイミングで鳴りよるか。


「いやー、恥ずかしいところ見られちゃいましたね。お腹も空いてきたことですし戻るとします」


「もしよければ家で食べていく?簡単なものならすぐに出せるけど」


 まさかの食事の誘い。

 マジか!宿に戻っても飯は出ないし、金もないからどうしようかなと思っていたんだ。

 安宿の飯にも飽きてきた頃。

 二人の身なりからして多分金持ち。良いものが食えるだろう。

 

「いいんですか?」


「もちろんよ。じゃあ行きましょうか」



ーーー



 第2居住区にあるパラディース男爵家の屋敷に通された俺は、テレシアお手製の紺青のローブを椅子に掛けて出された料理を堪能していた。


 公園からの道中に彼女らが貴族だと知った。

 このパラディース家の祖はもともと上級貴族に仕える騎士の一人に過ぎなかったそうなのだが、街に侵入してきた強力な魔物を単独で討伐したとかで男爵位を賜ったのだとか。そのため祖先から受け継いだ他愛の精神を忘れないように心掛けているとのこと。

 だから空腹の俺に飯を振る舞ってくれるのか。


 男爵夫人のセレナは俺の向かいに座り、たくさん食べる俺を微笑ましく眺めている。

 

 傍から見れば異様な光景だろう。平民が屋敷にいて、あまつさえ貴族と同じ卓を囲んでいるのだから。

 

 それにしても。


「うん、うまい」


「お口に合ったようで良かったわ」


 おっと心の声が漏れてたみたい。


「特にこのスープがおいしいですね。肉と野菜の旨味がよく出ていて。

 それとこれは香草でしょうか?不思議な香りですけどいいですね」


 白みがかっており、濃厚な山羊のミルクを使っていると思われる。


「マリアもこれ好き」


 夫人の子女であるマリアは口元を僅かに汚して美味そうに同じスープを味わっている。

 

 おいしいね、などと言って和んでいた。


 ───そんなとき。


「「ただいま戻りました」」


 と青年と少女が帰宅したのは。


 俺は食事の手を止め、声の主へ視線を向ける。


 黒髪で凛々しくも優しさを感じる双眸。純白の騎士服に身を包む青年。

 金髪で元気溌剌、好奇心旺盛を地で行きそうな可憐な少女。その身は白シャツに青のスカート、紫紺のローブとまるで魔術師のような装いだ。


「おにいちゃん、おねえちゃんおかえり」


「ただいまマリア。──ッ!?」


 青年が俺を目視すると一瞬驚いた表情を見せた。


「お兄様どうしたの?──って、お客さんだ!」


 青年の肩からひょいっと顔を出した少女に挨拶する。


「お邪魔してます」


「お邪魔されてまーす!」


 うーむ。快活な子を見ているとこっちまで明るくなる。それにしても黒髪のお兄様の視線が気になるな。


「あ、あの───」


「君、もしかして強い?」


「はい?」


 想定外の問いに言葉を詰まらせているとセレナが青年を注意する。


「ユリウス、貴族たるものいついかなる時も礼節を忘れてはいけません。レイラ、あなたもです」


 少女──レイラは、「はぁーい」と気のない返事をし、ユリウスという名の青年は「改めます」と反省の示し、改めて俺へと振り向く。


「すまなかった。久々の里帰りでね、気が抜けていたようだ。

 僕はユリウス・パラディース。よろしく」


「あ、ああ。トーマです、こちらこそよろしく」


「‥‥‥」


 にこやかに俺を観察するユリウスに少しのいこ心地の悪さを覚え、残りのスープを一気に飲み干す。


「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」


 とセレナへ感謝を伝え、帰り支度をしようとローブを羽織るとユリウスがある提案をする。


「トーマ、このあと時間があるなら僕と手合わせしてくれないか」


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