第二十話 ラトガト到着
ラトガトに到着した俺たちだが、予想通り門衛に身分証を持っていない俺とアリアの二人分の銀貨要求された。
これでいいかしら、と涼やかな顔で有り金の銅貨を手渡すアリアに門衛は足りねーよと銅貨を突き返した。俺は二日前に盗賊の死体から拾った銀貨を握らせて通してもらった。
アリアは「お金あるなら言いなさいよ!」と騒いでいたがアルヴィは特に何かいう事もなく言及してこなかった。
こいつがこういう反応をするときは大抵、言いたいことはあるが仕方ないと考えている時だ。俺も好きでやっているわけじゃないと知ってるから言ってこないのだろう。
門をくぐり最初に目に飛び込んできたのは、遥か先にある巨大な白亜の台座とその上に鎮座する目が眩むほどの輝きを放つ黄金の宮殿。
次に視線を周囲に向けると、活気あふれる人と街。
教会領とは比べ物にならないほど色鮮やかな街だ。
二人も活気の圧力にあてられたようで門の前で固まっている。
「おい、早く行ってくれ!後がつっかえてるんだよ!」
おっと。
後続のお叱りを受けたので街の中へ進んでいく。
「さて、まずはギルドへ行こうか。今の手持ちじゃ今日の飯代だけでなくなってしまう」
アルヴィの言う通り、ここ数日はまともに飯を食べていないためみんな空腹が限界状態だ。銀貨一枚と銅貨三枚なんて塵も等しい。
一刻も早く金貨を回収せねば。
「ギルドへ行くのは賛成よ。でもあなたこの街に来るの初めてなのに場所を知ってるの?」
アリアはこてんと首を傾げる。
「確かに」
「知らん。だけどギルドの位置ってのは大体街の中央って決まっているんだよ。それでも分からない時には誰かに聞けばいい」
常識だ、当たり前のことだ、とその口調から伝わってくる。
人に聞く‥‥‥。
全く浮かんでこなかった。
帝国に来てからというもの、嫌なこと続きで人を頼るということを忘れているように思えてくる。
なんかショックだ‥‥‥。
急に黙り込み地面を見つめながら歩く俺にアリアは心配そうな目を向ける。
気付けばギルドに着いていた。
街の中央にあるなどと言っていたが歩き出して精々数分。これでは中央どころかその半分にまで余裕で至っていない。
「じゃ、すぐに終わらしてくるから」
といいアルヴィはギルドの中へ入っていった。
思い詰めても無駄、とトーマは自分に言い聞かせ視線を上げると、そこにあったのは傾いた廃屋だった。
‥‥‥あれ?
なんかボロい。
看板の塗装は剥げて、建物はくすんで手入れされてないのがよく分かる。
これが冒険者ギルド?
「おまたせ。
さて、これからどうする?飯行く?」
教会領のものとは似ても似つかぬ外観なので報酬がちゃんと支払われるか心配になるがそれは杞憂だったようだ。
アルヴィは受け取った金貨で手遊びしながらギルドから出てきた。
「賛成。私、お腹空いたわ」
俺も賛成。
と言いたいところだが先にやらなきゃいけないことがある。
宿の確保だ。
前に一人で宿を取ったとき、一泊で大銀貨二枚取られたことがあった。一月泊まろうとすると金貨六枚もすることになる。
ここの物価が分からない以上、下手に金を使って宿が取れませんでした、なんて事態は避けたい。
なので。
「まずは宿探しだ」
ーーー
「金貨三枚だ!」
「おいおい吹っ掛けすぎだろ!まだまだ高すぎるわ!大銀貨六枚だ!」
「冗談じゃねぇぞガキ、それじゃ商売あがったりだ!金貨二枚!」
「大銀貨八枚!」
「金貨一枚!」
「‥‥‥わかった。その金額でいい」
宿屋のおっさんとアルヴィの熱い値切り交渉をそばで見守ること数分、ようやく決着がついた。
最初、金貨六枚を要求してきたおっさんにアリアが高すぎると噛みついたのが発端だったのだが、相場というものを知らぬアリアはすぐに丸め込まれ、代打としてアルヴィが投入された。
結果、一月の宿泊、朝晩の飯付きで金貨一枚となったのだ。
流石、没落商家の跡取り息子。アルヴィくん大勝利!!
それにしても一月金貨一枚かぁ。
じゃあ俺は随分とボッタクられていたわけか。
「部屋は二階の一番奥の大部屋だ」
隅っこで呆然としているアリアを引っ張って案内された部屋へ入る。
「普通だな」
机が二つとベッドが四つ。それだけ。
なんてことのない部屋だ。ただ寝に帰るだけの宿。
「宿なんてそんなもんだ。さ、飯に行こうぜ」
わずかな荷物を置いて三人は街に繰り出す。
適当に入った店は地元では結構有名な店らしく大勢の客で賑わっていた。
空いている席に座っていくつか注文した後、アルヴィが「この後どうする?」と切り出す。
「そうだな、いろいろやらなきゃいけない事はあるけど資金調達と情報収集はやっておきたいしなぁ。
俺は街を散策でもしようかな。お前たちはどうする?」
「俺はギルドにでも行ってるよ。アリアは?」
「私もギルドへ行くわ。冒険者ってどんな感じか知りたいし」
「了解、ただギルドに行ってもお前が考えてるような魔物の討伐依頼とかないと思うぞ」
「わかってるわ」
「待て、討伐依頼がないってどういうことだトーマ?」
アルヴィは疑問符を顔に張り付けて尋ねる。
「そのまんまの意味だ。ここに来るまでの道中に一度でも魔物に遭遇したか?してないだろ。
何故だかは知らないけど依頼が出されるほどの魔物はいないし、教会領みたいに魔物の生息地も近くにはない。ギルドがボロボロなのもそういうのが原因じゃないのか」
「なんて冒険者に優しくない街なんだ‥‥‥」
魔物の討伐依頼の理由は大体被害が出ている場合と素材が欲しい場合の二つだ。前者はさっきも言った通りそもそも人に被害を与えるような魔物がいないため依頼数が少ないと予想でき、後者は前者の理由から近辺の素材を依頼に出す理由がなく遠方の一ヶ月単位の依頼が主だと考えられる。
ただの金儲けに来たのならそれでもいいが、俺たちの目的はそうではないため長期間離れるのは許容できないのだ。
アルヴィはガクッと項垂れる。
ここで料理が到着。
テーブルに並べられた品々に、久しくちゃんとしたものを口にしていなかった俺たちは目を奪われた。
その瞬間、俺たちの口は言葉を発することを止め、目の前のご馳走を味わう事だけにのみ使われた。
数十分の後、食事を終えた俺たちは店を出た。
当然会計はアルヴィ持ち。
「ごちそうさまでした!」
「おう。
じゃ、こっからは別行動だな」
そう言うアルヴィの横でアリアはソワソワしていた。
目が輝いているとでもいうのだろうか。
基本的に必要最低限のことしか話さない奴だが、結構感情が表に出て分かりやすい。
ギルドへ向かう二人を見送り、俺も適当に歩き始めた。




