第十九話 戦闘参観
アルヴィとアリアが金物屋へ向かって数十分後、二人は苦々しい顔で戻ってきた。
その表情から、結果がどうだったか窺い知ることは容易だ。
だがまぁ、本人の口から聞くことにする。
「どうだった?」
「ダメだった。取り付く島もないって感じ。しまいにゃ、騎士団を呼ぶぞって言いやがるし」
「今この街で騒ぎを起こすわけにいかないから‥‥‥大人しく引いてやったわ」
「その判断は正しい。‥‥‥仕方ない、歩いていくか」
金が返ってこないということは馬車を借りられないということ。
ため息の一つもつきたくなるがグッと堪えて重い腰をあげ、今いる南門付近から北門へ移動する。
この教会領という都市はとても広く、感覚的には王都の2~3倍ほどの面積だと思う。
それ程までの広さを持つ故、教会領には領内の移動を効率よくするため教会を中心に縦横に伸びる大通りが存在するのだが、これがまぁ長い。
そういった理由があって現在、夜。
北門は既に閉ざされ、俺たちは街の中に取り残されていた。
アルヴィによると次に開くのは明日の朝だという。
ん~困った。
一泊どこかに泊まろうにも金がないし、野宿しようにも冬が近いこの時期は夜風が厳しい。
「どうする?」
俺は二人に問いかけるが難しい顔をしている。
「『門』で向こうに移動するとか?」
アルヴィ君、君、俺の力のこと知ってるよね?
教会領の城門は一般的な落とし格子ではなく開閉式の鋼鉄扉。ぴったりと隙間なく閉ざされているため隙間から城門の外を覗き見ることは出来ない。
「見たことない場所には移動できん」
改めてこの絶対条件を教えてあげると、アリアが閃いたかのように俺に振り向く。
「つまり見たことのある場所には移動できるってことよね。ならあんたを上に飛ばしてこの門の向こうを確認させればいいんじゃない?」
妙案ひらめいたり、とばかりの笑みだ。
しかし甘い。
「壁の上には常に見張りがいるし、もしバレなかったとしても『門』を使うときの魔力を気取られるかもしれない。そもそも『門』を使うなら上に飛ばさなくても宙に『門』を出して頭だけ突っ込めばいいだろ」
「じゃあそれでいきましょう。ついてきなさい」
自信満々のアリアに言われるがまま、俺たちは少し離れた路地へ入る。
ここなら確かに人目は無い。
「トーマ、あんたのその『門』って能力は竜の力でしょ?」
鋭い視線が向けられる。
「やっぱり気付いてたか」
「はぁ?二人とも何言ってんだよ、何だよ竜の力って」
疑問か怪訝か、アルヴィからはそんな色が見える。
そりゃ、冗談言ってると思われたって仕方ない。俺でさえちゃんと整理できているわけではないんだから。
「安心なさいアルヴィ、トーマにはあとでしっかり説明してもらうから。
それよりも今は『門』のこと。私がなんでそんなこと聞いたのかと言うと、竜の力による魔術というのは一般的な属性魔術と違って必要な魔力量が極端に少ないのよ。だからもしそうなのであれば、余程の至近距離でもなければ他人に気付かれることは殆どないって言いたかったの」
衝撃の事実をさらりと言ってくれる。
今に思うと、姫様救出の夜は何度も『門』を開き、十数人を移動させたというのに魔力の消費をほとんど感じなかった。
なるほど、原理は知らんがそういう事か。
この力、後で詳しく聞く必要があるな。
「『門』が気付かれにくいことは分かった。でも頭が空に浮かんでたら駆けつけてくると思うぞ」
「不可視化の魔術をかけるから大丈夫よ」
俺の正面に立ったアリアが一秒ほど目を瞑り両手をパンッと合わせると、俺の姿が足元から消えていった。
「「すげぇ」」
俺とアルヴィの声が重なる。
相手に視認されなくなる魔術なんて絶対強いに決まっている。今までに相対してきた魔術師の誰もがこの魔術を使ってこなかったってことは、おそらく上級、最上級の魔術に違いない。
ただ、動いてもアルヴィの視線がこちらを追ってくるってことは気配までは消せてないってことが分る。
あとで教えてもらおうと固く誓い、『門』で壁の向こうを確認し、俺たちは無事に教会領を発った。
ーーー
教会領を出てから二週間が経過した。
その間にアルヴィとアリアには俺が竜人である事を告白した。自分でも知らないことが多い状況で要領を得ない説明だったと思うが、二人はそれでも真剣に聞いてくれた。
スレイズ加入以前の俺を知っているアルヴィは俺の身の変化に納得がいった様子だった。
旅の方は昼に移動し、夜には魔術で作った土のかまくらで休む。基本はこれだ。
アリアが掴まされた鍋は装飾を剥いで使用していたのだがもうボロボロだ。やはり粗悪品だったようだ。
途中、ゴブリンやコボルトのような低級の魔物はちらほら見かけたが、それ以上の魔物は一度も見なかった。そいつらは基本集団で行動しているが、わざわざこちらに襲い掛かることもなくそこら中に自生している草を引きちぎって食べていた。
草食のゴブリンなんて初めて見る。
アルヴィによると元は大森林に生息するヤツらと同じ生態だったようなのだが、人間を襲うと割に合わないほどのしっぺ返しを食らうと学習して、長い時間をかけて肉食から草食へとシフトしたのだとか。
言われてみると森のヤツらのようなギラついた肉食獣の目をしておらず、穏やかな老人のようだ。
買い込んだ食料は思ったより少なく、一月持たないことが早々に判明したので日が暮れてから『門』で移動することにした。そのおかげであと数日でラトガトに到着というところまで進むことができたのだが。
そんな中、日中に街を目指して歩いていると遠目に誰かが戦闘しているのが見えた。
近くの岩陰に身を潜めて窺う。
剣士と魔術師 対 盗賊三人
冒険者ら─おそらくだが─の方が人数不利だというのに盗賊たちを翻弄していた。
盗賊らの連携された時間差攻撃を剣士は華麗に捌き、浅くはあるが盗賊らに幾つもの傷をつけていく。
剣士の持つ剣は一般的な剣より短くナイフよりは長いという特徴的な形をしており、その扱いやすさ故の細かな動きが盗賊らの攻撃を上手く流すことを可能にしているのだろう。
盗賊らだって決して弱くはないのだが、剣士とのレベル差のせいか盗賊の動きが直線的過ぎるように見える。
それに、
「アル、さっきから剣士が投げているアレはなんだ?」
剣士の腰にある小袋についても気になる。
何かの粉が入っていて、剣士がそれを投げつけると盗賊たちが必要以上の回避をしている。中の粉に触れることを嫌がっている。
「緑‥‥‥ということは恐らくシビレダケの胞子だな。目や気管に入ると一瞬だけ激痛が走るんだ。魔物避けに使われる物だが、まさか人に投げるなんて‥‥‥」
その時々に合わせて道具を使い分けることで戦闘を自分のペースに運ぶ、か‥‥‥。
アルヴィの説明を聞いていると決着がついた。
盗賊たちに疲れが見え始めると剣士はそれを見逃さず、流れるような動きで次々に盗賊たちの首を刈り取ったのだ。
あの盗賊たちも決して弱くはなかったというのに剣士は結局一人ですべて片付けてしまった。
「──ーマ、おいトーマ!」
戦いに見入っていて声を掛けられていたことに気が付かなかったようだ。
「‥‥‥ああ、どうした」
「どうしたじゃない。ほら街まであと少しなんだ、さっさと行くぞ」
「ああ」
立ち上がり、先を歩く二人の後を追うと。
首のない遺体の横を通り過ぎる。
三人の首は依頼達成の証拠として持って行ったんだろう。
盗賊の遺体‥‥‥。
「ちょっと用を足してくる。先に行っておいてくれ」
そう言って俺は遺体の下へ寄り金がないか調べる。
アルヴィと違い、身分証を持ってない俺とアリアは金がないと街に入れないかもしれない。
アリアが持ってる銅貨三枚では頼りない。要は保険だ。
「おっ、あった。銀貨が‥‥‥五枚か。まぁこれくらいあれば大丈夫だろう」
血濡れた銀貨を生成した水で洗い、二人の下へ戻る。
二日後、ラトガトに着いた。




