第十八話 旅支度
涙を浮かべながらベンチに座り込むアリアを発見したのはトーマとアルヴィがギルドを後にしてからおよそ一時間後のことだった。
様子がおかしい。
アリアの足元には食料が入っている紙袋や大鍋などが置かれている。
一見、彼女に任せていた食糧調達という任務を見事達成したように思われたが‥‥‥。
‥‥‥食器が無い。確かアルヴィは十分なお金を渡したと言っていたが‥‥‥。
「アリア、どうかしたの───」
「違うの。これは違うの!」
「お、おい。まだ何も言ってない‥‥‥うん?お前、その口元の汚れはなんだ?」
「うわっ、ホントだ」
弁明しようとしていたんだろう。顔を上げて言葉を発した瞬間、俺は気付いてしまった。
俺の指摘にアリアは急いで口元を拭く。
あ~わかった。理解した。これはあれだ。
「アリア、お前買い食いしたな」
ビクッと肩を震わせ、目線をそらすように俯くアリア。
アルヴィは少し引いている。
キツそうな性格してるくせに、露店の匂いに釣られるとか可愛いところもあるじゃないか。それを悪いと思ってシュンとしているのもポイント高いぞ。
「で、今いくら残ってる?」
「銅貨3枚‥‥‥」
食ったな。
「怒ってないから顔を上げろ」
罪悪感からかその目は潤んでいた。少し可愛い。
「なっ!?」
アルヴィは驚いた表情を見せる。
アリアを責める気でいたようだ。
「別に擁護するわけじゃないけどさ、お前もアリアの身の上を知っているだろ?」
アリアがうちに来た日、俺たちはアリアから自身の過去を聞かされた。
アリアは幼少期には孤児院、育ってからは教会と行動の自由がほとんどなかった。竜騎士になってからはほぼ軟禁状態だったらしい。
「それは‥‥‥」
「そんな奴をいきなり街に放ったら暴走するに決まってる。そこを読み切れなかったお前にも責任の一端はあると思うぞ」
「くっ、無茶を言いやがって‥‥‥わかったよ。何も言わない。これでいいだろ」
不服そうな表情のアルヴィを横目に俺はアリアが買ってきた大鍋を見つめているとある事に気付いた。
「ああ、それにお金が消えたのは買い食いのせいだけじゃないだろうし」
「どういうことだ?」
俺はアリアの買ってきた大鍋を取り、アルヴィに投げる。
「うおっ、これがどうした?」
「それ見てどう思う?」
アリアも一緒にのぞき込む。
「ん~。鍋にしたら少し大きいとしか」
「取っ手や鍋底に装飾が施されているわね」
俺はうんうんと頷く。
「二人とも正解。この鍋は調理用のものじゃないんだ」
「はぁ?じゃあ何に使うんだよ」
アルヴィは何言ってんだと言わんばかりに問い返す。
「これは女避けに使われるものだな」
不思議がる二人。
それもそうだ。これはとある地域に伝わる風習に使われるものなのだから。
「俺の故郷を含む王国南部の村々は、近くの大森林から現れる魔獣のせいで男の数が少なく、女たちによる男を取り合いがよく起こっているんだ。この鍋はその時使われる。
一早く男を捕まえた女が、『この男は私がもらった、この家の炊事場は私が預かった』っていう証に、外から見えるように玄関や家の壁に鍋を掛けておくんだ。そうするとその家の男に対して目立ったアプローチは行われなくなる。まさしく女避けだな」
「へー」
「じゃあ私、関係ないもの掴まされたってこと?金貨3枚もしたのよ」
鍋一つにそんな大金払うなよ、と心の中で呟くが世情を知らなければ仕方がないのかと自分を納得させる。
「鍋にそんな大金使うなよ」
アルヴィには遠慮というものは無いのだろうか?
「し、仕方無いじゃない。相場なんて知らなかったんだから‥‥‥。旅行用のもの頂戴って言ったらそれを渡されたんだし」
「完全に騙されたな。普通の人間はそんな装飾ゴテゴテのを調理用のものとして出すはずがない。アリア、その店の場所は覚えているか」
「ええ」
「アルヴィ、アリアとその店に行って金を取り返してこい」
おう、と返し二人は店に向かった。
俺はというとここで食料のお守りだ。
ドカッとベンチに腰掛ける。
二人が帰ってくるまで本の続きでも、と思ったがそういえば本は『門』の中だった。
二人が戻ってくるまで大人しくこの景観を眺めて待つことにしよう。




