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字で語る鉄道旅〜幼き日〜

作者: ユータ

私は小さいときからずっと、祖父のことを「お父さん」、祖母のことを「お母さん」と読んでいる。

これはまだ幼かった私が母の言葉を意味も知らずそのまま覚えてしまったからだろう。

そんな「お父さん家」にはよく家族で行っていた。

私の家族は何処に行くにも車を使っていた。

だからこそ、たまに一人電車に揺られながら向かう「お父さん家」への道のりはたまらなく好きだった。

家を出ると走って最寄り駅『千里中央駅』まで行った。

子どものときには、この駅の素晴らしさには何ひとつ気づかなかったことが信じられないくらい便利な場所だった。

当時は地下鉄「御堂筋線、北大阪急行」の始発駅であり、大阪モノレールの駅。その上阪急バスも0~12番乗り場まである程の大きな駅だった。

そんなことも知らず、急ぎ地下鉄改札で切符を買い、電車に乗った。夕方の駅舎には大阪市内から帰ってきた人々で列車内はぎゅうぎゅう詰めになっていた。

そんな中、やはり変わり者の私は人で混み合った通勤電車であっても目を輝かせて見ていた。

発車のメロディが鳴り、電車のガタンという音が地下に響くといよいよ発車だ。

大阪の大通り御堂筋を滑らかに走っていく様は心地よいことこの上ない。

線路の両脇には新御堂筋が通っており、夕方の渋滞と車のブレーキランプのせいでさながら真っ赤な大蛇のようだった。

『車多いなぁ、混んでいるなぁ』

と他人事のように思っていると、いつしか自分の周りも大人達でいっぱいになっていた。

新幹線との乗り換え駅「新大阪」を過ぎ、沈みゆく夕陽に照らされた淀川橋梁を越えると梅田の街並みを見る前に列車は地下に潜ってしまった。梅田の駅は凄かった。隙間という隙間が人で埋まり、移りゆく車窓はいつしか真っ黒のスーツしか見えなくなってしまった。もっとも、地下に潜ってからは車窓も何もあったものではないが、子どもながらに大人の大変さを少し理解したのだった。

大混雑の地下鉄をやっとの思いでおり、「難波」についた。

さあここからがお楽しみ行事、「乗り換え」が待っている。

難波はJR、大阪メトロ、近鉄、南海電鉄と多くの鉄道が集まる駅。数ある列車の中で私は奈良行きの近鉄奈良線に乗ることになる。しかし、鉄道に不慣れだった当時、案内看板や地図を見ても何処がどこだか意味不明だった。

地下道からの乗り換えのだったため、右も見ても左を見ても景色が変わらない。おしまいには自分の位置すらわからなくなる有様だった。こうなっては自分一人ではどうしようもない。近くの案内所を必死に探して駅員の人に助けてもらい、なんとか近鉄の改札まで来ることができた。

ここで私はある重大な決断をしなければならない。

それは、特急に乗るか、乗らないかという側からしてみればバカなのかと言われてしまいそうなことだが、私の頭の中はその事でいっぱいになってしまった。

近鉄特急は以前、三重への家族旅行で乗ったことがあり、そのときは伊勢志摩ライナーに乗った。黄色と白の美しい塗装に大きな窓。尖った先頭車がとてもカッコ良い列車だ。あまりの格好の良さ、乗れることへの嬉しさというダブルコンボを喰らった私は、興奮のあまり列車に乗っただけで高熱を出すという離れ技をしてしまったことがある。

言ってみれば、近鉄特急はそのくらい素晴らしい車両だということだ。

さて、脱線した話を元に戻すと、私はものの数秒立ち止まっただけで、すぐさま特急券売り場の前まで行き、しれっと特急券売り場の列に並んでいた。「決断」とは言っているものの、これはあくまで母への建前みたいなものだったのかもしれない。

特急に乗るには特急券という追加料金が発生するため、最初から特急に乗ると言ってしまうと母に断られてしまう。そんな問題を解決するために私が考えた策は、

『もしちょうどの列車があって乗れたら、特急に乗っても良い?』

と言うことだった。こう言ってはいるが内心乗る気満々だ。

前の大人達が次々と「名古屋」や「大和八木」までの特急券を買い、いよいよ私の順番が回ってきた。

『大和西大寺までの特急券を一枚下さい。』

若干の小声だったが、特急を購入することができた。

乗車する特急にはまだ時間がある。奈良方面の乗り場近くに「御座候」という店があったので、甘いもの好きの祖父に手土産として買っていくことにした。

手土産を片手にホームへと降りた。乗車10分前のホームにはまだ列車が来ていないので、手当たり次第に止まっている列車を見て回った。

一番近くにはアーバンライーナーnextが止まっていた。

この列車は特急列車で、大阪難波ー名古屋を結んでいた。

アーバンライナーに気を取られていると、反対側のホームに二階建ての大きな列車が入線してきた。

近鉄が誇るビスタカーの3代目、ビスタ3世である。

近鉄のどの特急よりも歴史が古く、近鉄特急の始まりであると言っても過言ではない。

普段目にすることができない素晴らしい車両達に囲まれたことで、胸が高鳴った。

しかし、こんなときこそ時間とは皮肉なものであると感じるものだ。今回の乗車電が入線してきた。

列車の扉が開いた瞬間に私は飛び乗った。列車は近鉄スナックカー。オレンジ色に紺の帯が1番良く似合う車両で、

このとき既に車齢50年近いベテラン電車だった。

停車したと思ったら列車はすぐに発車。

もっと他の車両を見ていたいという私の気持ちを尻目に列車は加速していった。

『本日も近鉄をご利用下さいまして、ありがとうございます。この電車は特急 奈良行きです。』

近鉄のお馴染み車内放送が鳴り始めた。近鉄の車内放送は肉声の優しい声で、何処か懐かしさを感じさせるような

ものだった。

大阪上本町を過ぎ、列車は久々の地上へと駆け上がり、

鶴橋に停車した。コリアンタウンでお馴染みの鶴橋は大阪環状線との乗り換え駅でもあり、大阪から奈良への帰宅客が大勢乗ってきた。いつしか座席の8割が埋まっており、

車内は賑やかになっていた。

鶴橋発車時には、スナックカーの発進が先ほどより遅く、

頑張ってモーターを回している様子に人間味を感じた。

やっと加速したと思ったら、次は生駒山の峠越えでまた

列車の速度が落ちた。ゆっくりと登っていく列車の車窓からはもう頭しか見えていない夕陽と、ビル群のライトが夕暮れの中にひかり、なんとも綺麗な景色をつくっていた。

そんな車窓を眺めていると、列車は生駒駅に停車。

反対側から来る新型の通勤電車がスイスイと坂道を登っていく様子を見て

『新型車ってやっぱりパワーあって凄いなぁ』

と、安直な感想が頭に浮かんできた。

さあ、生駒駅を発車すると降車駅である大和西大寺駅まではすぐである。頑張って登ってきたスナックカーも

『後は下りだから楽だぁ〜。』

と言わんばかりの快調さで坂を下っていた。

もう夕陽も完全に沈み、夜の闇が段々と濃くなってきた。

下り坂が終わると、列車は大和西大寺駅に到着。

列車を降り、奈良駅まで走るスナックカーを見送った。

それにしても大和西大寺駅のポイントの数はいったいいくつあるのだろうか。迷路のようにレールが入り混じり、何処が何処へ繋がり何処へ行くのか検討もつかない。

そんなことを考えながら、改札を出た。

駅のロータリーまで行くと

『おかえり。道中お疲れ様。』

「お父さん」と「お母さん」が駅まで迎えにきてくれていた。

私は走って

『ただいま〜』

と声を張り上げて祖父の車に乗り込んだ。早く今回の旅の話をしたいという気持ちで頭がいっぱいになっていた。

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