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第23話 ひとつ(車の)屋根の下

「あれ? 生徒会長さん?」


「あ、獅子吼くん」


それは偶然だった。

旭川はバスケ部、軽井沢はフットサル部と

それぞれの部活に行ってしまったため、

魔王とふたりで下校しようとした獅子吼瞳は

正門前で誰かを待っている様子の

百日紅世良に遭遇したのだ。


「待ち合わせですか?」


「いえ、迎えを待っているだけです」


「迎え?」


「その、うちの車を」


「ああ、なるほど。病院でも行くんです?」


「いえ、両親が過保護で」


噂をすれば、1台の黒塗りの高級車が

ふたりの目の前で停まった。

運転席から現れたのは、いかにもな制服に身を包んだ

ガタイのいいコワモテの大男だ。

運転手とボディガードを兼ねているため、

世良に近付く不審者を排除する役目も担っている。


「お迎えにあがりました、お嬢様」


「ありがとう丹波(たんば)


「へー。生徒会長ってお嬢様だったんですね」


驚いたように目を丸くする瞳に、

やはり覚えていませんか、と

チクリとした胸の痛みを覚える世良。

そんな主の微妙な表情を察した運転手の丹波は、

己を怖がるでもなく見上げてくる瞳を見下ろした。


「こちらの方は?」


「後輩の子です。偶然会ったので立ち話を少々」


「どうも、後輩です」


そんじゃ、とヒラヒラ手を振りながら

駅のある方角に去っていく瞳の背中に、

声をかけるべきか迷い、やめた世良。

伸ばしかけた手が行き場を失い、力なく下がる。

いつもの世良ならば、そんな態度は取らない筈だ。

少なくとも、さっさと愛想よく話を切り上げて、

逃げるように車に乗り込む筈だ。


だが、今日の彼女はむしろその逆。

逃げるどころか追いすがろうとさえしている。

そんな主の異変と暗く沈んだ表情に、

丹波はお待ちください、と瞳の背中に声をかけた。


「なんでしょう?」


「御学友の方。よろしければ駅までお送り致しましょう」


「丹波?」


「え? マジですか? いいんです?」


気を利かせたできる運転手に促され、

世良は迷ったように口元に手をあてる。

が、すぐにニッコリと笑みを浮かべた。


「勿論。よろしければ、ぜひ」


「それじゃあお言葉に甘えて」


後部座席にふたりを乗せ、高級車が発進する。

駅まではそう近くもないが、別に遠くもない微妙な距離だ。

会話なんてあっという間に終わってしまうだろう。


「ありがとう、丹波」


「いえ」


それでも小声で囁かれた感謝の言葉に、

自分の判断は間違っていなかったと丹波は思案する。


「わー。凄いですね。

俺、こんな高級車に乗るの初めてかも」


やはり覚えていないのか、と世良は目を伏せた。

無理もない。当時彼は4歳だったのだから。

幼稚園の頃の思い出なんて、

それほど鮮明に覚えている大人は少ないだろうし、

まして同級生の名前や顔なんて、

小中高と進学してきた今となっては遥か昔の出来事である。


「あーでも、むかーしなんか1回だけ

乗ったことがあるような、ないような」


「……そうなんですか?」


「なんで乗ったのかまでは覚えてませんけど」


それは世良がワガママを言ったからである。

ふたりが友達だった期間はとても短かったが、

一度だけ、瞳を実家に招待したことがあるのだ。

世良はその時のことをハッキリ覚えているのに、

どうやら瞳はおぼろげにしか覚えていないらしい。


(バドさん大丈夫? 狭くない?)


(問題ない。姿を変える程度朝飯前である)


そんな複雑な男心を全くよそに、

瞳は膝の上で寛ぐ赤毛に緑の瞳の猫を撫でる。

当然彼の姿は世良や丹波には見えてはいない。


幾ら黒塗りの高級車と言えどもさすがに

身長2m超えの巨漢を乗せることは難しかったため、

白猫のキラちゃんを模倣して赤毛の猫に変身したのである。


確かにそこに存在するのに瞳にしか観測できない

不可視の赤毛の大きな猫は、

瞳の横顔を見つめる百日紅世良の顔を見上げた。


悪気はなかったとはいえ異世界をメチャクチャにし、

魔王バドワイズがこの世界にやってくるきっかけを作った令嬢。

それに名前も顔もソックリな少女の存在は、やはり気になる。

が、彼女からはなんら特異な力は何も感じられない。

身構えていたのが拍子抜けする程に、ただの人間である。


(我の杞憂であれば、それでよい)


にゃあ、と魔王の化けた猫は、勇者の膝の上であくびをした。

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