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第22話 トゥルー・ラブ・トゥ・トラブル

(やはり、覚えてませんよね)


百日紅(さるすべり)世良(せら)はため息を吐いた。

授業中にため息を吐くなどあまり行儀のよい行為ではないが、

今朝のことを思い出すだけでちょっぴり憂鬱になってしまう。


(ひーくん……)



「やーい! 滑り猿! だだ滑り猿ー!」


「猿じゃないもん!」


幼い頃、具体的には幼稚園児の頃。

百日紅世良はいじめられっ子だった。

お嬢様めいた大金持ちというわけではないが、

それなりにお金持ちの家の子で、美人。

いわゆる大人にとって都合のいい子ちゃんだったため、

滑り猿などと呼ばれていじめられるのが常だった。


「さっきからうるせーんだよ! おめーの方が猿じゃねーか!」


「んだとお!?」


「やんのかゴラァ!」


そんないじめっ子から助けてくれたのが、獅子吼瞳だ。

まあ、彼は助けてくれたつもりはないのだろうが。

幼い頃の彼は、わりとガキ大将気質の乱暴者だった。

いわゆる自己中なクソガキで、どうしようもなく世間知らずで。

それでも女の子をいじめて泣かせるクソガキ共を、

無視しない程度の良識は持ち合わせていた。


「泣くなよウザイから。俺が泣かせたって思われるだろ」


「ごめんなさい」


「泣いてる暇があるなら逆に泣かせりゃいいんだよ。

大丈夫大丈夫、せーとーぼーえーだから。

血が出なけりゃセーフって姉ちゃんも言ってたし」


「それもどうかと思う」


家が近所というほど近所でもなくそこそこ遠かったが、

通っている幼稚園が同じだったため世良は瞳と仲よくなった。

元々幼稚園児の頃から優等生で、周囲の女児からは

"世良ちゃんウザイよね。いっつもいい子ぶっててさ"などと

遠巻きにというか仲間ハズレにされていた世良には

全く友達がいなかったため、瞳が初めての友達だった。


「初めまして。瞳のお姉ちゃんの愛です」


「百日紅世良です」


「知ってるよ。いい子ぶりっこの世良ちゃんでしょ?

ごめんごめん、そんな顔しないでよ。

別にいい子が悪いことだなんて思ってないからさ」


「姉ちゃん性格悪い。いつものことだけど」


「あんたに言われたかないわ!」


いじめられないよう瞳とつるむようになってから、

彼の姉の獅子吼愛とも友人になることができた。

現在3年生の世良は年長さん。1年生の瞳は年少さん。

一緒に過ごした時間は半年もなかったように思う。


すぐに卒園して小学生になってしまった世良と

別の小学校に行った瞳は疎遠になってしまい、

世良が獅子吼家に遊びに行くことも

彼ら姉弟が百日紅家に遊びに来ることもなくなってしまったが、

あの頃の思い出は今でも大切に覚えている。



(今更、なんて思われたら迷惑かな)


再会した幼馴染みは、わりとかっこよくなっていた。

昔からかっこよかった、と思うのは贔屓目かもしれないが、

少なくとも1年の教室でバッタリ再会した時、

彼女は瞳から瞳を逸らすことができなかった程度には。


それはたぶん容姿云々がどうというより、

異世界帰りの修羅場慣れした、

大人びた雰囲気が周囲の同級生たちに比べ

人目を惹いていただけかもしれないが、

もしかしたらそれだけではないかもしれない。


(恋なんかしてる暇、ないもんね)


百日紅世良は高校3年生。受験生だ。

もし仮に告白してOKをもらい、付き合うことになったとて、

すぐに自分は大学生になってしまう。

あの頃と同じように、すぐに離れ離れになってしまう。


それでも、と彼女は教室の窓ガラスに映る自分の顔を見る。

折角の女子高生生活ラスト1年なのだ。

真面目で堅物な優等生、なんて陰口を叩かれる自分だが、

思春期らしい恋愛に憧れないわけではない。

人生で一度ぐらいは彼氏がほしい、という願望もある。

受験生なんだから恋愛にうつつを抜かしてないで、

彼氏なんか大学で作れと言われればそれまでかもしれないが。


(そもそも向こうは私のことなんか覚えてないだろうし。

忘れてるんだとしたら、なんとも思ってないだろうし)


幼稚園一緒だったけど覚えてる?

実はあの頃からちょっと君のこと好きだったんだよね、なんて。

見知らぬ女にいきなり言われても気持ち悪いだけかもしれない。


そういえば、と世良は幼少期の記憶に想いを馳せる。


(どこかのお城で、私はお姫様みたいなドレスを着ていて。

それで、泣いている私のところにひーくんが助けに来てくれて、

なんて、そんな夢を見たことがありましたね)


夢の話を今でも覚えているぐらい記憶に残っているのは、

この私があんな古典的なプリンセスな夢を見るなんて、と

よっぽど恥ずかしかったのか、それとも。


(思いきって声、かけてみようかな。

でもそれで変な女だと思われたらやだし……)

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