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第20話 文無し魔王と白猫

にゃーん、と白猫が鳴いた。彼女の名はキラちゃん。

獅子吼家で飼われている雑種の白猫である。


「ふむ、そのナリでキラーの名を冠するとは。

実は侮れぬ実力の持ち主、というわけか」


「違うよ! 目がキラキラしてたからキラちゃんだよ!」


「冗談だ。彼我の戦力差ぐらい自ずと判る」


バドワイズがこの家にやってきた頃は酷く警戒し、

鳴き喚きながらドタドタ逃げ回っていたものの、

最近はようやく新参者に慣れてきたのか、

はたまた彼が自分を害する存在ではないと理解したためか、

標準的な日本のマンションには些か窮屈な巨体を縮め、

ちょこんと胡坐を掻いて座っている魔王の

丸太のようにぶっとい脚に乗ってくるようになった。


魔王の存在はこの世界の人間には視認できないが、

人間以外の存在からは普通に見えている。

よって、外を歩けば近所の犬に吠えられることもしょっちゅうだ。

動物園に連れて行ったら大騒ぎになりそう、とは瞳の弁だが、

一度は浄化されきちんと無害化された魔王であれば、

彼の想像するような酷い結果にはなるまい。


「我が魔王軍に虎の魔物や二足歩行する獣人はいたが、

仔猫はいなかったように思う」


「仔猫じゃないよ。キラちゃんはとっくに大人だよ。

普通の猫まで人間を襲ってくるのはやだなあ」


小さくも力強い生命体を傷付けてしまわぬよう、

注意しながらバドワイズは膝の上で寛ぐ猫を見下ろす。

撫でようとするとぴょんと跳び下りて逃げていくため、

長く愛でるためには辛抱強く忍耐することが肝要だ。


「話は変わるが勇者よ。我がこの世界で金銭を稼ぐ方法だが」


「何かいいアイデアは見付かった?」


「うむ、そなたのぱそこんを借りて調べてみたのだが。

どうやらえふえっくす? やでいとれーど? なるものが」


「さすがにそれは危ないと思うよ!

ある程度の元手も必要になると思うし」


物理的に干渉することはできるが人間には見えない、

見えるようにすることもできるがそんなことをすれば大騒ぎ、

という状態でお金を稼ぐというのはなかなかに困難だ。

そもそも働き口云々以前に彼には戸籍も身分証もない。

あったとしてもコスプレで誤魔化すには無理のありすぎる

異形の魔王を雇ってくれるお店はまずないだろう。


「であればさぶすくや動画投稿さいとに我の出演動画を流し

そのすぱちゃとやらで生活するというのはどうであろうか」


「それはもっと危ないからダメ!

そもそもただ本物の魔王ってだけで有名になれるほど、

インターネット界隈も甘くはないよ」


俺もキラちゃんの写真で一発バズろうとしたことあるけど、

3人ぐらいにしか注目されなかったことあるし、と

自分の過去の苦い経験に想いを馳せながら、

瞳は魔王の膝の上で寛いでいた白猫を抱き上げる。


にゃーん、と鳴く姿はとても可愛らしいが、

なんだか"なんだよ邪魔すんじゃねーよ"とでも

文句を言っている風に聴こえるのは気のせいではなさそうだ。


「難しいな。この世界は」


異世界にいた頃は人間から奪えばそれで済んだのだが、

魔王の権能を使って強奪しても足がつくし、

瞳が奪った金をどこかで使えば即バレる。

そもそもが強盗カツアゲ窃盗は不味いでしょ、と

諭されてしまえばそれはそうとしか言えない。


「この世界のカジノを利用できればよかったのだがな」


「俺はまだ未成年だから入れないし、

入れたとしても海外まで行かないとないもんね」


「であれば、しばらくはそなたに世話になるしかない、か。

すまない勇者よ。己の無力さを不甲斐なく思う」


「いいっていいって。猫と違って食費もかかんないし、

おやつ代ぐらいなら俺の小遣いとバイト代でどうとでもなるよ」


我はペットではないのだが、という言葉を魔王は呑み込んだ。

現状何を言っても実質ペットみたいな存在でしかないからだ。


ふむ、と彼は顎を擦る。

世界に順応するためには順守すべきルールの理解が必要だ。

この世界では軽率に殺してはならない、奪わってはならない。

この世界の秩序をみだりに乱してはならない。

でなければ瞳にも迷惑をかけるだろう。

こちらの世界の倫理観とあちらの世界の倫理観を照らし合わせ

目の前の存在を基準にその線引きを見極める。

この国の法に則さない金を彼は決して喜ぶまい。


さてどうしたものか。

生きていくだけならば独りでも可能だ。

むしろ独りで生きていく方が好都合迄ある。

が、それではこの世界に来た意味がない。

魔王と勇者が手を取り合って、こちらにやってきた意味がない。


「まあよい。取り急ぎ全てを解決する必要はないのだから」


「そうだね。しばらくはのんびりと、こっちの世界について

色々知って、学んで、それから見に行けばいいと思うよ」


「そうだな。のんびり行くとしよう。

……フフ。魔王と呼ばれた我が、のんびりとは」


瞳の腕の中からピョンと飛び降りた白猫が、

魔王の足元にじゃれついてくる。

こんな風に穏やかに過ごせる日が来るとは、と

夢のような心地で、彼は白猫の耳の裏を優しく掻いてやった。

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