第18話 嵐を呼ぶな生徒会長
『あの、すみません。どこかでお会いしたことありませんか?
前世とか前世とか異世界とか夢の中とかで』
なーんて本人に直接聴けたら楽だったのだろうが、
さすがにそんな電波なことは言えないよな、と瞳は
真面目に授業を受けながらチラチラと視線を向ける。
灰座杏。今朝このクラスにやってきたという転校生。
いきなり転校生が来るなんて、とも思うが、
よそ様の家庭の事情にあれこれ言えた義理ではない。
(ただの同姓同名って可能性は?)
「あそこまで容姿が似通っているからには、
全くの無関係、ということはない筈だ。
恐らく死後この世界に転生したか、
或いは来世であちらの世界に生まれ変わるのかは知らぬが、
我の魔王せんさーが彼女に反応しているのは紛れもない事実」
(魔王センサーなんて機能付いてたんだ!?)
「うむ。実は魔王には聖女や勇者といった、
光の者の存在を探知する機能が備わっている。
そういった機能のことを、この世界ではせんさーと呼ぶのだろう?
この機能を使えば、聖女や勇者の住む村を
ぴんぽいんとで焼き払いに行くことができる」
(なるほど? 順応が早くてさすがだね)
授業中にベラベラお喋りすることもできないため、
ふたりは魔王の力で脳内会話をしている。
なおバドワイズは教室の後ろの方に腕組みをしながら立ち、
興味深そうに学校の授業を受けていた。
「この世界の教育水準は著しく高いのだな。
学校など、我の世界には世界に数えるほどしかなかった。
それも通えるのは限られた一握りの人間のみ。
それがこちらの世界では、これほど広く門戸が開かれるとは」
授業が終わり、昼休みである。
瞳は友人の旭川と軽井沢と共に、教室で弁当を広げた。
この学校には給食がない代わりに学生食堂や購買がある。
「ねえ灰座さん! よかったら一緒にお弁当食べようよ!」
「うん!」
転校初日ながらに、灰座杏は無事クラスに溶け込めたようだ。
あのコミュ力の高さは聖女ならではのものなのかな、
いやさすがに関係ないだろうな、と瞳は久しぶりに食べる
母親の手作り弁当の味を噛み締める。
さすがにバドワイズも一緒に食べるわけにはいかないため、
後でおやつか何か買ってあげよう、とつらつら思いつつ
チラチラ灰座杏の方に視線をやっていると、
動けるデブの旭川がこっそり顔を寄せてきた。
「何々? 瞳ちゃんは転校生が気になる感じ?
解るわー。あの子可愛いもんね。俺もあんな彼女欲しいー」
「瞳ちゃんはやめろし。つーかあさっち、彼女いるだろ」
「あー、別れた。なんか最近冷たいって振られた。
軽ー、また新しい女の子紹介してくれよ」
「駄目だ。お前を紹介すると俺の株が下がる」
「なんでだよ!?」
「自覚がないのが問題だと気付け」
なんて食事をしていると、だ。
「すみません、灰座杏さんはいらっしゃいますか?」
(うお!? 今度はセルベセリア!?)
「驚いたな、よもや彼女まで現れるとは」
金髪縦ロールじゃなくなった悪役令嬢セルベセリア……の
ソックリさんのご登場に、再び瞳がその瞳を瞠る。
「あの、灰座は私ですけど、何か?」
「お昼休み中にごめんなさい。
私、生徒会長の百日紅世良と申します。
転入書類の件で不備が見付かったそうで、
四十万先生にあなたを呼んでくるよう頼まれまして」
聖女アンと瞳は直接会ったことはないが、
セルベセリアとは夢の中で一度だけ邂逅した記憶がある。
そんなふたりのそっくりさんが現実世界で喋っているのを、
彼はなんだか不思議な気持ちで眺めていた。
「!」
「?」
灰座杏と百日紅世良。
ふたりが連れ立って教室から出て行こうとする直前。
ほんの一瞬、百日紅世良の視界に獅子吼瞳が入ったのだろう。
彼女は目を見開き、驚いたような顔をした。
「あの、百日紅さん? どうかしましたか?」
「え? あ、ごめんなさい、なんでもない……の」
何あの反応、と瞳は百日紅世良の反応に戸惑う。
あきらかに何かに驚いた表情だが、それは彼の考えるものと
同じもの、であるのだろうか。
もしそうであるならば、一体何故、と首を傾げてしまう。
「フ。生徒会長、さては俺の豊満ボデーに見惚れてたな?」
「お前の前向きなところ嫌いじゃないけど、
自分で言ってて虚しくならない?」
「ちょっとだけ」
そんな瞳の後ろで旭川がボケて軽井沢が突っ込む。
いつも通りの日常だが、だからこその違和感。
入学してから今まで生徒会長の顔や名前なんか
全然気にしていなかったからこそ、
あんな奴うちの学校にいたんだ、と驚いてしまう。
むしろちゃんと知ってたら異世界に行った時に、
逆に"なんで異世界に生徒会長が!?"と驚いたかもしれない。
因果とは不思議なものだ。