第14話 勇者様本領発揮
「勇者ビーム! 勇者レーザー! 勇者サンダー!」
おおよそ光っぽいものなら大体操れるのが光の勇者、
そして光の聖女の権能のひとつである。
聖女アンも世界を救うための旅で、
目からビーム、口からレーザーを放ったのだろうか。
「つ、強い!」
「怯むな! 相手はたった独りだ!」
「数の暴力で押し潰せ! 多勢に無勢ですり潰すんだ!」
やらねばやられる。であれば躊躇う理由はない。
瞳は日本人である。ので、日本に帰りたい。
ここで死にたくない。殺されたくない。だから戦う。
「なんでこうなっちゃうかなあ! 痛え!?」
剣や槍で斬られたり刺されたりしても、
癒やしの光が傷付いた勇者の体を癒やしてくれる。
が、痛いもんは痛いし辛いもんは辛い。
一瞬で治るから包丁で刺されても平気だよ、と言われて、
それならよかったーと喜んで包丁で刺される奴はいない。
「チクショウ!
殺していいのは殺される覚悟のある奴だけだぞオラあ!
俺にはそんな覚悟ねえぞこの野郎!」
勇者に貸与された光の剣で、人間を斬る。
勇者が放つ光の魔法で、人間が蒸発する。
見た目だけならピカピカしていて綺麗なのだが、
その実態は綺麗さでは誤魔化し切れないぐらいの
現代日本人にとってはまあまあの地獄絵図だ。
ドス黒い球体の中で詠唱を続けるバドワイズ。
暗黒の扉の修復はまだ終わらないのか。
兵士たちのうちの幾人かは勇者ではなく
魔王の結界を破壊しにかかっているものの、
あの暗黒の瘴気は聖女or勇者以外に
どうにかできる代物ではないため、放置でいい。
だがこっちは放置できないんだよなあ、と瞳は泣く。
そりゃあ、泣くしかないだろう。
だが泣いても助からないし、どうにもならないのなら。
泣きながらでも戦うしか、ないじゃないか。
「信じてくれないのも無理もないのもさあ!
この世界のためになることなんだから、お願いだから
邪魔しないでって言っても無駄なのもさあ!
頭で解っちゃいるんだけど、それでも腹立つう!」
これは成功報酬としてチート能力ぐらい
日本に持ち帰らせてもらわなければ割に合わない。
「皆さん離れてください!
アブソリュート・ゼロセール!」
「勇者バリアー!」
全てを凍結させる絶対零度の氷の呪文。
賢者モトゥエカ・ライムが放つ最強の必殺呪文。
だがそれすらも、勇者の光の前では弾かれる。
もし彼が称号的な飾りではなく本当の意味での勇士、
即ち運命に導かれ、聖女と心を通わせ、
聖女を護衛する光の勇士であったならば、
勇者の放つ光が聖女の力と同じものであることに
気付くことができたのかもしれない。
だが、"前回"ならばともかく"今回"の彼は違う。
聖女アンは聖女としての役目を果たせなかった。
聖女の光は希望の光、この世界を、
そこに住む全ての命を守りたいという願いの光。
なので、どれだけ頑張っても自分を冷遇し、
セルベセリアと比較してことある毎に
ボロクソ貶してくる奴らに囲まれて、
ストレスフルな旅路を余儀なくされた聖女が、
"私が命を懸けてまでこいつら守る価値あんの?"と
冷めてしまったら本来の力は発揮できないわけで。
聖女本来の力を発揮できないせいで、
更に彼女の立場は悪くなり、それが原因で拗れ揉め、
余計に聖女としての輝きが失われていく。
そんな悪循環の最高潮にあったがために、
モトゥエカたちは聖女の持つ救世の輝き、
この世界を照らす真の光を知らない。
「ごめん!」
斯くして勇者の剣が彼の胸を貫いた。
既にケルン王国軍の兵士たちはひとり残らず全滅。
勇者の光(物理)に焼かれ、跡形もなく蒸発した。
「ここまでですか……無念です」
恋愛にのぼせ上がって目が眩んでしまって、
大事な聖女を死なせてしまった時点で、
何かを致命的に間違えていたのかもしれない。
それを認めてしまうのが怖くて、
目を背けていただけなのかもしれない。
大丈夫、大丈夫、と自分たちに言い聞かせて。
だが、実際には全然大丈夫じゃなかった。
そんなことはとっくに理解していたのに、
それを認めたくなかった。どうしても認められなかっただけ。
ただそれだけのことだったのだ、とモトゥエカは微笑む。
「……すみません、異界の勇者殿。
僕は臆病で、愚かで……自分の弱さ、
自分の過ちを認めることが、死の間際までできなかった。
そんな僕が言えた義理ではないかもしれませんが……
この世界を……よろしくお願いします」
「はあ、はあ、クソッ!
どいつもこいつもおせーんだよ!」
戦闘が終わって、アドレナリンが切れたのだろう。
帰り血まみれの勇者と、勇者が殺した勇士の亡骸。
そうしてようやく呪文を完成させた魔王バドワイズ。
死んだイケメンの胸から光の剣を引き抜き、
呆然と項垂れて号泣し始める彼の目の前で、
魔王の体が噴出した暗黒の瘴気が、
瓦解した巨大な扉を元通りに修復していく。
「ううう! うあああああ!」
「瞳!」
大きな仕事を一仕事終えて、いい汗掻いたバドワイズは
項垂れ号泣する勇者と、その傍らに転がる勇者の剣、
そして勇士の亡骸を見て、全てを察するのだった。