表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/28

第11話 悪役令嬢の涙の価値は

よかれと思ってやったことが裏目に出てしまい、

結果的に残念な結果に終わることが人生には多々ある。


「御報告致します!

魔王城を監視中であった駐在兵より火急の伝令!

魔王バドワイズ並びにその謎の協力者1名が、

最北の街ホワイトブルグに姿を現したとのことです!」


報告を受けた元聖女一行、即ちセルベセリア、

ハイネ王子、カスケード、そしてモトゥエカ。

4人は王宮内の会議室にて、

予想外の展開にそれぞれの反応を露わにする。


「北国に? 何故?」


「恐らく魔王城を奪還しに行ったのでは?」


「だが、あそこにはもう何も残っていない筈だが。

地下にあった宝物類も、全て押収しただろう?」


「魔王は長期戦を選んだのかもしれません。

セルベセリアには私たち3人が護衛として付き、

同時にケルン王国軍の戦力もその多くを

王都の防衛に回しておりますので、そのせいで

短期間で決着をつけられないと判断したのならば

まずは拠点を確保し、時間をかけて魔王軍を編成。

然る後に攻勢をかけてくる、というのは

現在の魔王の戦力的にあり得ない手ではないかと」


「かつては100万の魔物を束ねた魔王も、

今となっちゃ謎の協力者とふたりっきりなんだろ?

憐れを通り越して、笑っちゃうぐらい惨めだね。

それで見苦しく足掻いて、一体何を企んでいるのやら?

ま、どうせ全部無駄だろうけど。

なんせこっちにはセルベセリア姉様が付いてるんだし」


3人に視線を向けられ、セルベセリアは微笑む。

本当は顔を背けるか俯いてしまいたいのだが、

そんなことをすれば3人は不審に思うだろう。


「確かに魔王を討伐するだけならば可能でしょう。

ですが、何度討伐しても復活してしまうのであれば、

いつまでも根本的な解決にはなりません」


「では如何様に対処するおつもりで?」


「……鍵は聖女にあるとわたくしは考えております」


「なんか知らないけど、聖女聖女ってうるさかったもんね。

でも、聖女はとっくに死んじゃってるけど。

どうする? 埋めた場所を探して墓でも暴く?」


「さすがにそれはどうかと思うが」


「さすがにお墓を掘り起こしても、

出てくるのは遺骨ぐらいのものでしょう。

或いはまだ骨だけになっていな……ごめんなさい。

とにかく、お墓を暴くのは却下です。

今わたくしたちに必要なのは、情報。

歴代の聖女と魔王にまつわる情報を集めませんか?」


夢の中で、彼は邪魔だけはしないでと言っていた。

であれば、セルベセリアにできるのは時間を稼ぐこと。

彼に騙されている可能性がないわけではないが、

少なくとも彼が嘘を吐いているのだとしたら、

もう少し真剣みのある態度で嘘を吐くと思う。

仮にもし魔王バドワイズが善良な人間を騙して

利用しているだけだとしても、もう少し選びようがあった筈。

それに。他力本願でどうにかしてもらえるのなら、

どうにかしてくれという一種の逃避願望も混じっている。


「では、北の大地に現れた魔王は放置すると?

それにはあまり賛成できません、セルベセリア様。

時間を与えれば与えた分だけ、敵の戦力は強化される」


「いや、数日から数週間かそこらで

そこまで急速に魔王軍の再編成が進むこともないだろう。

セルベセリアがそう判断したのであれば私は賛成だ。

……聡明な君のことだ。何か考えがあるのだろう?」


ハイネ王子の言葉に、セルベセリアは微笑んだ。

まさか考えと言われても、とは言えないし、

具体的に何を、と問われても困るので、

微笑んでおくことで受け流せるのは淑女の武器だ。


「ま、僕もセルベセリア姉様の案に賛成かな。

姉様の判断に間違いがあるとも思えないし」


「では、最低限監視の目だけは強化しておきましょう。

万が一あちらで異変が起きた場合は、

真っ先に報せるよう指示……

いえ、それでは間に合いませんね。私が向かいます」


宰相の息子、今は若き賢者と呼ばれる

モトゥエカの言葉に、3人が驚いた表情を見せる。


「ケルン王国から北の大陸までは距離があります。

聖女亡き今、我らは聖鳥の協力を得られません。

最速で向かうにしても、間に合わない可能性が高い」


「だけど、独りで大丈夫なわけ?

ヴァイツェンは返り討ちにされちゃったんだよ?」


姉様を狙うライバルが消えてくれるのなら、

僕としては万々歳だけど、とは言わないカスケード。


「軍の一部を借り受けます。

相手が魔王といえど、少なくとも頭数がいれば

時間稼ぎぐらいはできるでしょう」


「モトゥエカ様……

くれぐれも無茶はなさらないでくださいね。

ヴァイツェン様だけでなく、あなたにまで何かあったら、

わたくし……わたくし……」


「勿体ないお言葉です、セルベセリア様。

大丈夫、これ以上あなたを泣かせることは赦しません。

必ずや、我らの手で世界に平和を取り戻しましょう」


「ちぇー。姉様の前でいいかっこしちゃってさ」


セルベセリアの言葉に嘘はない。

彼女にとって今のモトゥエカは大事な旅の仲間だ。

彼を助けたこともあったし、彼に助けられたこともあった。

これ以上仲間が欠けてしまうことなく、

事態を収束させられるならそれが一番いい。


だからどうかお願いします、と彼女は天に祈る。

なんとかしてくださいと、心の中で勇者に祈る。


自分は頑張った。一生懸命頑張ったのに。

どうしてこんな理不尽な目に遭うのか。

自分の選択ばかりが裏目に出続けるのか。

もうそろそろ救われてもいいじゃないか。

報われてもいいじゃないかと、泣き叫ぶように祈り続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ