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瑠夏とヒカリ

「おい…私の部屋になぜおまえが居るんだ。」

「瑠夏お姉ちゃん!眠くなるまでいっしょに遊んで!」

学校から帰ると、すでにヒカリはわたしの部屋にいた。

「わたしの手品が見たいのか?」

「それも楽しいけど~」

「ちょっと社会科見学したいな!」


わたしはフィジカル世界に降りた。ベッドから起きると重い身体を引きずって着替えた。芽依はその辺に座った格好になっているのでわたしのベッドに寝かせた。

芽依のベッドも作らないとあのままでは可愛そうだ。ヒカリに言えば調達してくれるかもしれない。


身支度を整えるとメガネをかけ部屋の扉を開ける。そこにはヒカリのフィジカルボディがあった。

「行こう。ところでお腹は空かないのかい?」

「妾には食べ物は不要じゃ。気にするでない。まずは街へ行ってみよう」

わたち達はいつも買い物をしている街へ出向いた。屋台が軒を連ね、その先で酒をあおる者、大人数で食事する者、騒いでる者。にんにくやらニラの匂いやら甘い匂いやらでわたしを雑踏と喧騒の只中にいざなわれた。

「お主はこの情景を活気があると思うておろう?」

「わたしの精神を読んだか」とヒカリを睨んだ。


「気を悪くしたか?これでも管理者だからの。許せ」

「話を続けるぞ。この眼の前の光景、妾には現実逃避をしているように見えるのじゃ」

ヒカリは続けた。

「この街の子、人々は不憫じゃ。本来であれば全員ネットワークの世界で生きるはずなのじゃ。それが、ここで自分たちの使命も忘れて暮らしておる。この街はもともと、ただの通路じゃ。通路に勝手に露店を並べて集まって明るく飾ってバカ騒ぎしておる。これはなんというか妾のせいだと思うておる。この場所は街として作ったつもりはないのじゃ」

「フィジカル世界もお前の管理下なのか?」

「そうじゃ」

「妾の子の一部には、ネットワークへ行くことを拒む者、ネットワークからこちらに戻る者、そしてチップ不適合者など様々な理由でフィジカル世界におる」

「本来、お主たちには役割がある。お前たちの子孫がはたしても良いのじゃが、最終的には人類を生存させ銀河系に生活圏を形成することじゃ」

「いや、話が壮大過ぎてついていけんのだが…」とわたしは言った。


「お主ほどのカンがある者なら気がついているはず。このフィジカル世界は地球ではないと」

「あ、ああ。それはなんとなく…な」わたしは戸惑った。

「地球ではなく、一言で言えばいわゆる宇宙船じゃ。おぬし達は宇宙に漂う船におるのじゃ。行き先は決まっておる。我々の旅の目的は地球型惑星への移民じゃ」

「ただ…」ヒカリは続けた。「光で40光年、かなり遠い。そこへ、長い時間1000年ほどを掛け移動するプロジェクトじゃ。そのため古の人類は都市型宇宙船を作った」

「ほほう…大人たちも教えてはくれないぞ…」

「まだ200年ほどしか立っておらんが、皆、その使命を忘れてしまった。こんなところで人類同士で暴れているヒマは無いはず。到着するまでこの宇宙を観測し、移民先の研究をし、テラフォーミングの技術を磨き、血を繋いでいかなければならぬ…それを忘れこの有様りじゃ。情けない」

ヒカリが少し悲しげに見えた。

「お前も泣くのか?」

「妾は感情を持たぬわ!こっちを見るな」

ヒカリに足を蹴られた。


近くの人混みからボコンッ!と大きな音を煙が上がった。きゃぁぁ!と人垣をかき分けて警備ドローンに追われながら男が走り出てきた。

その男は手を伸ばしてくる。わたしはヒカリをかばうよう身を捩った。

わたしの手を引いて男が屋台のウラに立てこもった。屋台の包丁を手に取った男は私の腹に当てた。わたしを締め上げてくる。

「ネットワークにも入れず、ここでも金もなく、希望もねぇ、この少女はオレと付き合って死んでくれるってよぉ!」警備ドローンに向かってそう言った。


フィジカル世界はつまるところ貧困層なのだ。


そしてお腹に冷たいものを感じた。わたしは刺されたのだ。わたしのネットワークスーツが赤く滲んでいた。ぐうーっと力が込められた。

歯がガチガチ鳴った。わたしはここまでかなのか、とそう思った瞬間、包丁が抜かれた。

「いいかオレは本気だぞ、脅しじゃねェ。どけッ。道を開けろ。ついてきたりしたらコイツ殺すから」


「まて、お主、その少女を傷つけてどうとも思わぬのか」とヒカリ。


「はっ?知ったことかよ。オレは職もなく食うものもなく未来もねェ!」男が怒鳴った。


「人を殺したら、お主はもう人ではなくなるぞよ。それに生涯その業を背負って生きることになるが耐えられるかの」

「オレももう終わってるんだよ!システムに保護されてぬくぬく生きているおまえらに分かるかよ!」


「その少女は妾の大切な子じゃ。乱暴はさせぬ」

「お主、名を坂口誠というのじゃな、お主は死ぬ必要はない。その子を殺す必要もない。離せ」ヒカリは男を睨んだ。

「それに主にも気を許せる仲間がおるではないか。一緒に暮らしている仲間が妾には見えておるぞ。楽しそうにメシを囲んでいる姿が見えるぞよ。お主の言うような全て失った姿には到底見えぬ。一度落ち着くべきじゃ」


男の力が緩んだ。そのスキに私は腕から抜けた。私は自分の血で足が滑りその場に倒れた。

その瞬間、バンバンッ!と警備ドローンが発砲。男は倒れた。


「わたしもお前にとって大切なのだな。意外だ」ヒカリはわたしに駆け寄り手を取った。

「若い娘はすぐ勘違いしおるわ。あれは油断させるために言ったまでじゃ。それとも妾に惚れたかえ?」ニヤッと口の端を歪めた。

「そんなことより、妾を庇ってこのような事になってすまんかった。大急ぎで病院じゃ。こんなことで死なれでもしたらさぞかし夢見が悪い」

救急隊が駆け寄ってきた。わたしはすぐさま病院へ運ばれた。フィジカルボディはしばらく治癒だ。ネットワークの世界に戻らず2,3日こちらに居るよう言われた。


「あの男を読んだんだな?」

「うむ。可愛そうな男じゃよ。つらい思いをしていたことは事実じゃ。ああいった思いを産まないような世界にしたいのじゃ」

「芽依のようにネットワークに強制的に住まわせないのか」

「バカをいうな。現在のあの男の精神状態でネットワークに繋いだら、お主らを刺して周るぞ?精神的に落ち着いて、ネットワーク世界に繋いで良くなったらもしかしたらそのようなチャンスがあるやもしれぬ。それを願うばかりじゃ」


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