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ヒカリ

挿絵(By みてみん)

いつものカフェ、「サンドイッチ花咲」で学校帰りに私たちはいつものように話し込んでいた。

「みんなで海行こうよ!海!わたし海成分吸収しないと!夏始まんないよ!」とわたし

「イイですね、海でいきたいです!」凛が言った。

「じゃあ、行く前に水着選ばないと行けないかな」リッカが言う。

「お、わたしの水着幾つかあるから着てみる?あ、おっぱいのサイズが合わないか!」

きゃっきゃっとおっぱいの触り合いっこが始まった。


その端の席に見たことがない少女が座っていた。

膝におおきなクマのぬいぐるみを抱いていた。

「あの子、あんなおっきいヌイグルミ抱いてる」私は瑠夏に言った。

「可愛らしい子、透き通るような肌だね」


瑠夏はしばらく見つめたあと、私にだけ聞こえるよう耳打ちした。

「あの子、多分ヒトじゃない。システムそのものだ…悪いものじゃないはず。皆に言わないよう…」

システムそのものというのも今一つピンとこなかったが、人でないものと分かる瑠夏も瑠夏だ。何者なのだ、瑠夏。



次の日、学校へ行くと先生はひとりの女の子を連れてきた。

「転校生の、ヒカリです」とペコリとお辞儀をした。

昨日の女の子だった。私たちは顔を見合わせた。

「そしてこの子はクマのよもぎ」

大きなぬいぐるみを抱いた女の子ということで皆の興味を引いたようだった。

「どこから転校してきたの?」

「趣味はなんですか?」

「どこに住んでるの?」

「クマ抱かせて!」

「よもぎならどうぞ可愛がってください」と言って皆に渡した。

「父の転勤でこちらの街に来ました。新しい街なので不安で…皆さん仲良くしてほしいな!」一度下を俯いてからパッと皆に笑顔を振りまいてみせた。

「おおーご両親居るんだ!」

「ええ~いいな~。わたし達親いないんだよ~」

両親がいて、しかも可愛くて、ちっちゃい。この中で一番若いんじゃないだろうか。みなの注目を一層集めた。

寧々、凛と年齢が近いんじゃないだろうか。

二人とお辞儀していた。



でも、彼女がここに来たのは偶然ではないと直感で思った。多分、私?瑠夏?誰かに会いに来たんだと思った。

瑠夏に耳打ちしたが、彼女も同じ見解だった。

「偶然ここに来たわけじゃないよね…」

「そう思う。それにシステムだから両親は居ないと思う…なぜウソを言うんだろうか」

私と瑠夏は二人だけでヒソヒソ話した。

ヒカリはみなに気づかれないよう目だけ私達に向けた。口元からは先程の笑みはなかった。ゾッとした。



お昼、瑠夏と二人で屋上で座り込んでいた。

「何が目的で来たんだろう。誰かを捕まえに来たのかな」

「その場合来るのは警官でしょうね。少女の姿で来るくらいだから私達の中に入りたいということだろうね。しばらく普通にふるまってて」


「おねえちゃん達は私のことが分かるみたいね。まぁそれも楽しみで此処まできたのだけれど」

と言いながらヒカリがやって来た。


なになに!?ここまで私達を追ってきたの!そして、なにやら私達のことを知っている風な言い回しだった。


「特に瑠夏おねえちゃん、面白い術を使うように見えるの。どういう術なのか興味あるわ」

ヒカリは目を細め威圧するように睨んできた。


彼女が抱いていたヌイグルミが一瞬閃光を放ったとおもうと大きなカマ…死神が持つような内側に刃がついた大きなカマに化けた。そのカマを手にとって私達ににじり寄ってきた。


「妾の邪魔だてをするようなら容赦はせぬぞ」

凄い言葉の圧力だ。言葉遣いはいつのまにか代わっていた。

「まって、あなたの言ってる意味がわからないわ!」と私は言った。

「そうか?瑠夏は理解しているようじゃが?不穏な企てを考えておるまいな。妾に隠し事は通じぬぞ」

ヒカリはそう言いながら私達に近づいてきた。白い髪が逆立ち口は耳まで裂けていた。その姿、すでに人ではなかった。

この子は一体…生唾を飲み込んだ。冷や汗が脇を流れた。


「何が目的なの?この学校に潜んで私達をどうする気?」

彼女は僅かに浮いていた。足を動かさずこちらに近づいてきた。そしてギョロッとした目で睨んでいる。

「お主たちに聞きたいことがある」

もはや少女の言葉遣いではない。それは長年生きた年配の言葉遣いのようだった。

私は身体が固まってしまった。と思ったら、手足が彼女の白い髪にとらわれていた。

そして喉元にカマが当っていた。私は抵抗しなかった。


「可愛らしく細いから、少し力を入れただけで刈り取ってしまいそうじゃな。それはそれで見てみたい気もするが。さて、もう一度問おう。システムに危害を加えるつもりか否か?」

彼女の瞳から怒りを感じていた。そして髪の力は強く身動きが取れなかった。

「この世、つまりシステムのスキを狙い改変を行うなど言語道断!」

「ま、まて。ヒカリの言う意味が分からないんだ」

刃が当たっている首筋に冷気を感じた。血が流れた。殺される!私は怖さで全身がすくんだ。


「お主ほどのものが何を言うかッ!もう少しはわきまえてると思っていたが、妾を陥れようとは飛んだアバズレじゃのう!由紀、お主はシステムから排除だ」

「なにもしていない由紀を殺すのはさすがに意味がわからない!私が身代わりではダメか?」と瑠夏。私を案じてくれているのだ!


私を縛っていた力が急に抜けた。カマの刃は私の血を吸って赤く濡れていた。

私は顔がぐちゃぐちゃになっていた。刃が当てられていた首から一筋の血が流れた。怖くて涙が止まらなかった。パンツも足もお尻も濡れていた。開放された安心感で気が遠くなりそうだ。

そこを瑠夏が抱き起こしてくれた。


「ふむ、そこまでいうか。話を聞くことにしよう」

顔も髪も元のヒカリに戻っていた。


ヒカリは瑠夏にこういった。

「妾はシステムそのものじゃ。そして瑠夏よ、われわれはお主の能力は把握しておるぞ。システムの感知する範囲内の使用なので目をつむっておったが。お主の行動はかなり怪しい。それで監視しておった」

「君がシステムだとは分かっていた。そしてそんな君がわたしの手品を見にわざわざ来たとは思わなかったが、手品がそんなに怪しいのか」

「手品とな?言い得て妙じゃの」フフフと笑った。「お前もわかっておるじゃろ、システムに登録されていない子、芽依の事じゃよ」


「妾は芽依や瑠夏に興味があって来たのじゃ。どんな存在なのか理解しようとな。それはそうじゃろ。あの子はわれわれが把握していない存在なのだから」


「あ、ああ、彼女は行政を通してこの世界に来たわけじゃないから…」

「正規の手続きをせずこのシステムに侵入できた、それが怪しいというのじゃ」

「彼女はVRゴーグルからログインしている。問題ないはずだが?」

「VRゴーグル装着者はかなりの制約があるはずじゃが、彼女にはそれがない。自由じゃ」


「ところで、君がシステムだという証拠を見せてほしいのだけれど、それは可能だろうか」

「そんな事が必要かえ?」

「お前たちはDNAをシステムに提供しておる。つまり自身の設計図を妾にあずけておる」

「この設計図から面白いことができる。これはどうじゃ」といい、瑠夏に手のひらを向けた途端、瑠夏は徐々に幼くなった。小学生くらいだろうか。確実に若返りしている!なにこれ!わけがわからない。そのまま退行する。もっと小さくなった。幼稚園くらいだろうか?

「どうじゃ感想があるようなら答えてみよ、早くせぬと喋れないくらい若くなるぞよ」

「ちょっと待って、これはやりすぎだわ」

「これは、いわば妾の手品じゃ。証拠を見せろっていうから見せたつもりなのじゃ。怖がらせるつもりではない」


術を解くと瑠夏の姿はもとに戻った。一時はどうなるかとほっと胸をなでおろした。


「妾の名はヒカリ。ヒカリとは人の上に火を持つ者のこと。聖なる火を携え、その光で迷える人を次への道へ先導する者のことじゃ。覚えておけ」


瑠夏と顔を見合わせた。

「そういうことなら話をさせてほしい。芽依のことでわたしたちも困っている。利害は一致すると思うから聞いてほしい。そして、こんな相談できるかい?」と瑠夏は言った。

「実はわたしは芽依のボディをフィジカル世界に置いたまま、精神をこちらに吸い上げ住まわせた」瑠夏は続けた。

え!?精神?瑠夏の手品って何なの?何を言っているのか理解できなかった。


「彼女はネットチップの拒否反応者で、チップは入れていない。そんな彼女をこちらに呼ぶ方法としてそんな手段を選んだんだ。なので彼女は悪さをしないし、こうしてわたし達と一緒に暮らしているのでシステムをどうこうするということはしていない」

「そういう事かい」


「そして、相談はここからなのだが、このように精神を強引に連れてくるのではなく、普通にわたし達と同じような手順と方法でこちらに住めないものだろうか。それができれば、システムの制御下置かれるし行政的にもそれが望ましいはず」

「システムを騙し、損害を与えるようであればこの世から消し去るつもりじゃったが…ひとまずシステムを侵す意思がないのは理解した。が、システムの制御下に無いのは問題だわ。先程は乱暴してしまったがお主たちはシステムのかわいい子だ。その願い無碍にする気はない」とヒカリ。


「それに芽依の精神を排除したところで、瑠夏がまた導くなら意味がない。相談にのってやらなくもない」

そしてもぞもぞとある装置を取り出し、わたし達に見せてくれた。

「特殊な端末じゃ。首、手首、足首、背部の皮膚の上から神経とつながることができる。インプラントとかいう面倒くさいことはなしじゃ。しかもシステムの一部がプログラムされておりシステムと繋がる力は強い。言うなれば妾が直接芽依をこの世界につなげる。確実に繋がるし安全じゃ」


なに、その強力な端末は!


「あ、あなたが直接…」

「うむ。なので、このタイプは沢山は配れん。妾の処理能力がこの端末に割かれる分、妾の能力が落ちてしまうからな」

「あ、ありがたいのですが、それはやり過ぎでは?」

「システムは…妾はお主たちのためにある。これでも妾はお前たちを“子”のように思っとる。我が子たちを苦しめるのは本意ではない。本当ならば下の世界の全ての子らをこの世界につれてきたいくらいじゃ。路頭に迷っている子が多すぎて恥ずかしながら妾では全て救うことはできぬのじゃ。今回は妾が興味を持って近づいた。縁だと思うてもらって良い。すでに数名この端末の使用者はおる。安心せい」


ヒカリは私に顔を近づけて微笑んだ。そして口調は元の屈託のない声で言った。

大きなヌイグルミを抱いた可愛らしい女の子だった。

「さっきは怖がらせちゃってごめんね!ヒカリ反省してるの…もう二度としないから仲良くしてね!由紀お姉ちゃん!」

ヒカリに頭をなでられた。

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