早朝の1ゲーム
わたしこと六花は早起きして対人対戦ゲームをしていた。銃で撃ち合う試合だ。わたしひとり所属のゲーム部の朝練だ。もっとも学校に部活の類は無いのだが。なにかのときはゲーム部って言うことにしている。
登校前というわけではないけれど制服姿で参加してみた。わたしの学校は人数が少ない、イコール、レアな制服なので目立つかなと思って。
ゴーグルをかけた白いブラウスの学生服姿はここでは斬新だった。試合前に何人にも声掛けられた。ゲームなんだし、おしゃれしないとね!強い服装といえば地面と同じ色を着るのがセオリーなんだろうけれどわたしにとって地味すぎてツライ。可愛く行きたかったのだ。
そして、今はすでに試合中盤を過ぎた頃だった。今回わたしは運がなくいい感じの銃に出会っていない。フラググレネードとスモークグレネードは幾つか手に入ったのと、大型のハンドガンそれに大型ナイフが手に入った。
しゃがんで敵対するターゲットたちに見つからないよう慎重に移動した。背を低くして木の陰、草の影に身を置き、じっとして息を殺し周囲を伺った。中距離遠距離のゲームなのにハンドガンが頼りとは分が悪い。戦闘は避けたかった。
そして息を殺して周囲に警戒を向け、木の陰に身を潜めた。
このシダ植物も生えていたので、多分遠くから見えにくいだろう。一息ついた。
この状況を乗り切るために作戦を頭で整理する。
そこに唐突にお尻に衝撃が走った!撃ち抜かれたと思った。
「!!!!」
目から★がでた!心臓が出てもおかしくないくらいびっくりした!
振り返るとそこには同じように制服姿にゴーグルをかけたサヨがいた。
サヨにお尻を蹴られたんだ!
「びっくりさせないでよ!今死んだかと思った!」
「ごめんごめん。それにしてもゲームで会うなんて奇遇だわ!共闘しようよ。ボクたちは停戦でなかよくしましょうよ!」
「いいけれど、そこに立たれると良い的になるからしゃがんでよ!!それに…」
「勝ちに行くつもりなんだけれど、わたしについてこられる自信はある?」
「ふふふ。リッカこそ自信たっぷりじゃない!オーケー勝ちに行きましょう」
わたし的には接近戦になると体力の点で不利なのだが二人で共闘すればなんとかなるかも。そう思い手と手で静かにタッチした。
トランシーバーの周波数を教え合い、使えることを確認した。
「ぶさいくサヨちゃん聞こえる?」
「え?美少女サヨちゃん?テレるわ」
おし、バッチリ!親指を立てた。
この間もパパパパッと銃撃音が空の向こうから響いた。空気が震えていた。やりあってますな~。
このゲームは100人で撃ち合って最後まで立ってたら優勝する。いわゆるバトルロイヤル形式のゲームだった。その中でも個人戦だ。自分自身意外全て敵。最後まで立っていられたプレイヤーが優勝だ。
「サヨいい?あの赤いレンガの建物に何人かいるの。それを排除したいの。その右のプレハブの建物は敵が居ないことを確認してるからそこから狙撃お願い」わたしはターゲットのレンガ建物に指をやり、つづいて狙撃ポイントとなるプレハブも指さした。
「オーケー」といいながらスナイパーライフルをぽんぽんと叩いて見せてくれた。
「わたしが走りまわって、スナイピングできる位置に追い立てる作戦で!」
親指を立ててサヨはその建物へ悠々と胸を張って歩いていった。ああやって悠然に歩いてたらスナイプされるって。しゃ・が・め!とトランシーバー越しに言っておいた。
それはそうと、自分の怪我の状況を確認する。ここに来るまでに受けた銃槍に薬を塗った。一瞬で完治するのはゲームの出来事だからだ。このゲームではヒットポイントがゼロになったら強制的に待合室に飛ばされ、そこに設置されてるモニタで泣きながら観戦することになる。
わたしは移動を開始した。背を低くしてなるべく草にかくれての移動だ。そして目標のレンガ建物を一旦通り過ぎるよう反対側へ移動していった。わたしから逃げた敵をスナイプしやすくするための位置どりだ。ここまで撃たれなかったのは運が良かったと思う。
トランシーバーを確認した。
「美少女1号から美少女2号へ。聞こえる?その建物はわたしがさっき漁ったけれどスナイパーライフルの弾残してあるから使って」とわたし。
「CカップからAAカップへ。感度良好!了解ですよ!前衛は頼むわね」とサヨが応答。
あとでシバいてやる!と言って通信を終えた。
目標のレンガ作りの建物までは隠れる場所もなく、開けていてどこから見ても良い的になってしまう。向こうからも見えてると思うので、ジグザグに走って近寄る。撃つな撃つなと唱えながら。
心臓はバクバクだ。撃たれるにしても頭はやめてねと祈った。頭が吹き飛んだ自分など見たくない。神経がピリピリする。恐怖を抑えてさらに詰め寄る。門の塀に貼り付くことが出来た。
「サヨ、建物侵入する」
「オーケー。しっかり見えてるよ」
ぶしゅう~という音が聞こえた。サヨは攻撃力が上がる薬を自分に注射したのだ。音が独特なのでわたしには伝わった。そしてその意味するところといえばスピード勝負ということだった!
15秒ほどサヨの感覚が鋭敏になる。なるべくならこの間に戦闘を終わらせたい。
こういう物音がしない場合敵は建物の中でじっとしていることが多いのでスモークであぶり出すことにした。
走りながら侵攻開始!
窓を撃って壊した。ガシャンガシャンと音がする。そこにスモークグレネードを投げた。煙を発生させるので周りが見えなくなり、それにたまらなくなった敵はスモークの外に出てくる。それを撃てたらいいなという具合だ。
バンッ!バンッ!ダダダダッ!スモークを投げ込んだが、煙が出るよりも早く黄色いヘルメットをかぶった男が走り出てきた。予想より行動が速かったのがちょっと予定外。
わたしの右腕に2発命中。このくらいなら致命傷ではないので平気だ。このまま走って建物の壁に沿って滑りそうになりながら建物の陰に隠れるように移動した。わたしについてきてほしかった。わたしの尻を追ってくれ!そして後方から聞こえる敵の足音からして多分食いついてるのは感じた。いいぞ、男は女を追ってナンボだよ、そのまま付いてきてくれ!
「リッカしゃがんで!」
その声が聞こえたと同時にわたしは地面に伏せた。頭の上を風いや弾丸が通った!銅のジャケットをかぶせた弾丸。貫通力を最大限に高めた弾丸だった。
それはレベル3のヘルメットを割り、男の頭部に命中!見事なヘドショットだった!頭から上がなくなるのを瞬間的に見てしまった!オエエーーッ!
「もう一発ぅ!」
すかさずもう一発援護射撃があった。わたしは気が付かなかったが左側から近寄った男がいたらしい。そいつも倒れ込んだ。
「やぁぁったぜ!」トランシーバーからサヨの声!
「ナイスすぎる!」
さすがに二人も倒したのでこれ以上いないかもしれないが、建物の安全を確認することにした。
「そっちに向かうわ」
サヨの移動する間に室内の確認を終わらせた。ここの安全を確認した。
「個人戦だし、この二人の戦いにわたし達が横槍を入れたのかもね」と言いながらサヨが到着。
「あの破壊的なショットはなかなかできるもんじゃない!」
「ウマイことバフを重ねまくれたからね!」フフン!と誇らしげに言う。
そこにシステム通知が来た。
「エリアが縮小します。次のエリアまで移動してください」システムはわたしたちを休ませてくれないなぁ。
「さくっと漁ってエリア移動しよ」
サヨはスナイパーライフルを手放し、床に転がっていたショットガンを拾った。次のエリアが最終ラウンドであり、スナイパーライフルの出番はなさそう、接近戦になるとふんだのだろう。
「おお~いいもの見つけたわ!リッカ、バイクあるよ、後ろ乗って」
サヨがモーターを始動させ調子を見ながらそう言った。電動バイクは二人で乗れた。わたしはまたがるとハンドガンのマガジンを確認した。20発ある。マガジンを戻しスライドを引き薬室内に弾薬を押し込んだ。
腕をサヨの腰にまわした時にあれ?と思った。まさかと思い胸に手をやった。
「サヨ、また成長したんじゃない?」
「ヘヘヘ。気が付いた?うらやましいだろ~」
胸を鷲掴みにした。うわぁ中身がぎっしり詰まっていてかなり重い!うらやましい…
「そんなふうにしたら痛いよ」
「こんど見せて!」
「興味あるの?」
「ある!」
「ボクを嫁にする気があるなら…」え?なんか急にしおらしくなった。こんな面もあるんだとサヨの顔を覗いてみようとしてみた。
顔が向こうへ逃げてしまう。
「なに赤くなってるんだよぉ~」
「う、うるさい!」
サヨは急発進させた。わたしはバイクから落ちそうになって、あわててサヨの腰に手を回した。私たちは荒野を突き進んだ。
ゲームにはエリアという概念があって、指定されたエリア外では徐々にヒットポイントが奪われる。今はエリア内なのだが今現在徐々にエリアが狭まっている。
つまりこの付近はエリア外になるので、いそいで次のエリアにはいる必要があった。それまで猶予は2分。
しかし、エリア内と外の境界線上も戦場になりやすい。継続ダメージで苦しむ相手を安全な内側から鼻歌を歌いながら痛めつけるのはよくある光景だ。
なので、そんなことにならないためにもここは一つ慎重になる必要があった。こちらも相手を蹴落とすチャンスでもあるのだし。
鼻歌を歌いながらなぶり殺しにする側に一度はなってみたい。
ゲームを進めるたびにエリアは縮小していく。そしてそのエリアはすでにかなり小さくなっていた。
そして縮小するエリアの壁が背後に迫ってきた。あの壁の外が継続ダメージエリアだ。バリバリを雷のような電気が走っており、いかにも痛いですよーと主張しているのだった。
現在の生き残りは9名。次のエリアでは大乱闘になりそうだ。
最初に仕掛けたのは見えない相手からだった。バイクで走るとかなり目立つので多分むこうからよく見えるのだろう。遠くに見える建物からだと思う。
しかしそんな超距離からでは当たらない。多分相手は遊んでいる。
撃つという行為は他人に自分の位置を教えているようなものだから、ほっておいても誰かが倒してくれるだろう。
大体あちらさんもまだエリア外だ。そして射撃が止まった。たぶん移動したのだろう。
見つかりにくいようになるべく高さが低いへこんだ地面を選んで走る。
エリアが目前に迫った。右側にわたしたち同様エリア目指して走っている黒い影をみた。それに向かって数発ハンドガンを打ちこんだ。あっちいけ!
「サヨ、右に敵が歩いてた」
「前にも敵がいるし、一旦左の建物の陰に入ろう」
「わかった」
建物の陰にバイクを止めた。そして、縮小中のエリアの端っこをしめす透明な壁がわたし達を通り過ぎていった。
ついにわたし達に継続ダメージが加わる。身体にシビレが加わる。HPゲージが減り始めた。前進してあの壁の内側に入らなければ。
こちらの建物の壁が弾けた。わたし達を狙った弾丸がはねたのだ。位置バレしてるのでここにあまり長いこと留まると、グレネードが飛んでくるかも。
「うひぃ」
サヨが声を上げた。まだだ。まだ移動しない。目の前でエリアのはしっこを示す壁は止まった。そこが最終エリアだが、下手に動いたら撃たれる。エリアまでの20メートルがやけに遠い。
足音はガチャガチャと聞こえたあと、シーンと静まり返った。右前方の小屋にでも入ったか。今だ。あの小屋で人数を減らそう。
わたしは走ると決めた!
スモークで身を隠すため、小屋の方へスモークグレネードを投げた。けん制するためハンドガンを撃ちながら飛び出す。サヨも続く。スモークに入れば安全だ。相手からは正確な位置がわからなくなる。スモークに飛び込む。
ババババンッ!
反撃された。やっぱりいたんだ。相手も継続ダメージ中だ。1発当てれば倒せる!視界が悪い中敵の背中が見えた。たまらず走り出したようだった。
バンバンと背中にハンドガンをお見舞いした。
背中見せちゃだめでしょ。初心者かな。
音とスモークに反応して、左右から銃撃を受けたが、スモーク内はそうそうカンタンには当たらない。銃撃が続く。多分エリア内の安全圏からの銃撃だ。
わたし達お互いは離れ離れにならないよう手をつないだ。スモークグレネードをさら投げ、銃撃音が無い方へサヨと走った。
おびき寄せるためわざと銃撃しない罠かもしれないがこれは賭けだ。
罠回避のため走る方向へフラググレネードも投げた。
着弾&爆発!
途端システムの生き残りは7から6名へ減った待ち伏せが居たんだな、危なかった!
そしてエリア内へ走り込んだ!無事到着!小さい塀があったので陰に入った。
「た、助かった…」
「まだだよ、わたし達も回復しないと継続ダメージでヤバイ」
「回復はもうこれ一個…」サヨはわたしに回復スプレーを使った。ヒットポイントが半分くらいまで回復した。これなら2,3発くらっても平気だ。
もう足音がそこまで着ていた。早くも敵が襲ってきたのだ。
「わたし回復ない…サヨの分まで頑張るから」
サヨは壁の右側から地面に低い姿勢で飛び出しショットガンを打った。
わたしは左側から低い姿勢顔を出し、敵の姿を確認した。サヨのショットガンを回避するよう左奥へ逃げると読んだ。私から距離があるので、私はそいつに向かって走り始めた。読みは当たり私に吸い寄せられるかのごとく向かってくる格好になった。
ナイフの距離だ!
私の大型のごついナイフは相手を捉えた。読みが当たると倒すのは造作もなかった。
そこへすかさず低い姿勢でババババッと打ちながら男が飛び込んでくる。ナイフを引き抜くところを見計らって襲ってきたのだ。
わたしはナイフを引き抜くのをやめ、その腕をつかんだ。その勢いを利用してエリア外の方へ男を投げた。キレイに投げれた。
重量でまさる男を投げたということが驚かせたようだ。悔しそうな顔をしてエリアの外へ消えていった。
振り返るとサヨがドンッ!ドンッ!と撃ちながらもう一人の黒い防弾コートとやりあっていた。
さらにそのサヨの背後からハンドガンで狙う漁夫狙いがいた。まさに引き金を引く瞬間だった。
パコーン!
その顔に向かって右足の学生靴を投げつけた。そして間髪入れずわたしも飛んで走り、漁夫男の顔に両膝を顔面にヒットさせた!鼻血を流しながらエリア外へ飛び出し、継続ダメージを受けて消えていった。残り生存者3名。
二人の女子高生は合流した形となった。サヨは多分弾切れだ。ショットガンの補充は時間がかかる。その時間を作る必要があった。
「リロードする時間を作るわ」
わたしは鼻血男のハンドガンを手に取り、サヨと対峙している防弾黒コートに威嚇射撃をしながら低い姿勢で気を引くように走った。低い姿勢から目の前で立ち上がり掴んだ砂を目に投げつけた。ゴーグルで直接目に入らないだろうけれど、思わず目を背けた。そこへ銃撃しつつ物陰に入る。
「あなたの相手はこのボクだよ!」
サヨのリロードが終わったようだ。ドン!ドン!とショットガンの音が響いた。
防弾黒コートはそれを受け付けない。が、体制を崩すには十分だった。ぐらついたのだ。
この瞬間を待っていた!
ショットガンの音と共にわたしもトドメを刺しに飛び出していた。
「ダメダメ!お兄さんはわたしが頂いちゃうよ!」けん制で数発撃った。右へ動く!右だ!と読んだ!もう手がとどく距離!両手を伸ばした。
ハンドガンが手を離れて前方へ飛んでいく。
この間スローモーションに感じた。
伸ばした両手は防弾黒コートの髪の毛を掴んだ!
そして掴んだ手を思い切り引き下ろした。
同時に右膝を顔面に入れる。
ショットガンの弾を防ぐ事はできてもわたしの膝を防ぐことはできなかった。その場に崩れ落ちた。多分継続ダメージを食らっていたのだろう。膝だけで倒せた。
残りの生存者は2名。システムの通知だった。
最後に立っていたのはわたし達だった。
でもソロのゲームだったので、最終的にどちらかが勝者にならないといけない。そういうルールだ。
「ボクを撃って。どのみちもうヒットポイントがない。リッカが一発当てる間にボクが2発3発当てる自信はないの」
「撃てないよ。もう武器ないもの」
もう武器は無い。つまりサヨを倒すのは不可能だ。膝?わたしはサヨを足蹴になんてしない!
サヨはわたしを抱きしめた。
「リッカ強すぎでしょ!あなたがイチバンだわ!」
「まって…」わたしは右手を伸ばし、サヨの指先に一瞬触れた。しかしサヨの指は空へゆっくり避けていく。さよならをいうかのようにひらひらした。
そして笑顔を残してサヨはエリア外に出ていった。その笑顔は印象的で脳裏に焼き付いた。
まもなく、システムの報告で大きなファンファーレとともにわたしの名が告げられた。
武器は持っていなかったし、サヨのショットガンなら一発でわたしを倒せるだろう。サヨが勝つくらい分かっていた。
「今度はデュオで一緒に男どもをなぎ倒そうよ、こんな勝ちはイヤだ」
わたしは虚空に向かって言った。