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姉妹

暖かさを感じていた。


ああ、もう朝か。私は寝ていた。

冷たい空気でベットからはみ出ていた右肩口から腕、手までがひんやりしてた。


あと、お腹周りがなにやらもぞもぞする。その違和感はすぐに判明する。

「お姉ちゃん…」

妹の寧々が私のベットに入り込んでいたのだった。

寝ぼけているのか、いきなりパジャマのボタンを外しだし私のおっぱいに吸い付いてきた!


私はお前のママじゃないのよ…というか寧々、幾つになるのよ。

わざとなのか、寝ぼけてるのか、はたまたあまえんぼモードなのか。


「うう~…寧々ちゃん~、私はママじゃありませんよ~」

温かい吐息とともにちろちろ舌が這って来て気持ちはいいのだけれど。


「ねぼすけさん、おきなさいな~」

私もまだ起きがけなので頭がまだ朦朧とはしてるのだけれど、この子のねぼすけ具合はひどいわ。

寧々をパジャマごとつかんで引き上げた。

妹の体はほかほかとしていて暖かかった。むこうからしても、私も温かいのだと思う。

眉が出るくらい短く切りそろえた前髪が布団から出てきた。色白の肌に赤く血の気が通った頬。唇なんて小さいが弾けるようにぷるんぷるん。

ショートの黒髪の女の子はまだ目を閉じていた。


このまったりとした朝、ベッドの中でのひとときが気持ちいいような、まだ夢の中にいたいような、なんともいえないもどかしさ。


このベッドは妹が入ってきても大丈夫なくらい大きい。白い大きなベッドだ。

白い机、白いイス、その向こうに寧々のベッド。

あたりが白い家具ばかりだからかやたらキラキラしている。

全て木製だからか温かみも感じられて、スキ。


大きい窓はレースのカーテン、外は青空、日に光がまぶしい。あたり一面ひまわり畑だ。ひまわりは今日も背が高いな…


妹はその白く細い腕を私の肩から背中に回してきた。

なにも履いていない脚を私の脚の間にねじ込んできて、なにやらうーうー言っている


そしてまたしても顔を私の胸に埋めた。


親や、友達に見られたら絶対青い顔されると思う…あ、私達親は居ないんだった。


「お姉ちゃん、おなかすいた、牛乳ちょうだい…」

また私はおっぱいを吸われたのだった!

「い、いや、出ないし!牛乳はウシさんが出すものだし!」

私は妹を力の限り立たせたのだった!


挿絵(By みてみん)

「どうよ!おいしそうでしょ!」

たっぷり牛乳とたまごを染み込ませた真っ黄色のフレンチトースト、かりかりベーコン、それになみなみコップにそそいだ牛乳をテーブルに置いた。

「うわぉ!これいい~!テンション上がる~!」

言いながらシナモンをフレンチトーストにふりかける寧々。

「あっまっくって、オイシィ~!」

たしかに口に入れるとフレンチトーストはとろっ!ふわっ!と溶けていく!

そしてこれに塩コショウのパンチが効いたカリカリベーコンはベストマッチだ!


寧々のぷるんとした口からベーコンがはみ出ている。

「急ぎすぎよ~、ゆっくりたべなさいな!」

「お姉ちゃん、ママみたいなこと言って!」

「さっきまでママと間違って私のおっぱい吸ってたくせに!どの口がいうか!このこの~っ!」

「ちょっと、牛乳たおれるっ!」


もしかしたらファンタジーのように映るかもしれないが、お花畑、白い家、青い空、妹との生活。これが私達の日常でありリアルだった。


「お姉ちゃん歩こうよ」

「え~飛ばないの?」

「たまには街中あるきたくてさ」

「はいな、じゃあ玄関から普通に歩こう~!」

学校へ行くため街中を通ることにした。

通常この世界ではテレポートといって行きたい場所へ瞬間移動する。ある決められた場所へ瞬間移動が可能な技術だ。私達は「飛ぶ」と表現していたりする。

だれでも飛べちゃうので、街の外には生徒はあまりいない。いるのは私達みたいな変わり者…だろうか。

「変わり者じゃないですよ~」

ぶぅ~っと鼻を鳴らす寧々。肩口で切りそろえた髪がキラリと光った。


今歩いてるこの通り、街は公共の場となっていて、アクセス制限がある。市民でないとこの街には入れない。システムが自動で私達の一人ひとりの個体識別番号を読むことで成り立っている。

もっとも、自動でやってくれるので、私達がなにか操作することはないし、気にする必要もなかった。

自動車など運転していても同じように通行するためのアクセス権と認証が自動で働いている。そしてシステムが介在することを感じないのだ。

そういった意味で犯罪などあまりない。楽園だった。


「お姉ちゃんと散歩したいだけなの。沢山食べたし、歩いて消化よ!」

「沢山牛乳飲んではやく成長しなきゃね!」

「え!どこがぁ~成長するって!?」

「きゃははは!」

妹に追っかけられて走っていく私達の姿がショーウインドウに映る!

私達の制服姿、白いブラウス、そして紺色のスカートがショーウインドウに飾られた最新のドレス、マネキン、水着、ギフトボックス、タンクトップにつぎつぎ重なり走り抜ける。

風が髪を掻き上げるのを感じたと同時にガラスに反射する私達の髪もなびくのであった。

人気のサンドイッチ屋の看板が見えた。割引クーポンのチラシがぶら下がっていたので1枚拝借!学校帰り立ち寄るのも良いかもしれない!きっと寧々も賛成してくれるはず!


生徒や先生も“飛んで”やってくるので正門には誰もいなかった。

過去、モニタ越しで授業をしていた時期もあるようだけれど(私はその時代を知らない)、今はこのように実際にクラスに集まるスタイルになっている。

まぁ、モニタでつなぐのも、飛んで学校に来るのも労力はさして変わらないので集まっているのだ。


「ユキ、ネネ、オハヨッ!あれ?外からきたの?」小夜子がいた。みんなからサヨと呼ばれている。私は皆からユキとよばれているし寧々はネネ。

「たまには散歩しなくちゃ!そうそう戦利品!」と言って拾った“サンドイッチ花咲”の割引ちらしを見せた。

「お!良いね~今日はそこで帰宅部の会議だぁ!」


この学校の生徒は全部で6人、人数が少ないのでクラスは1つしかない。1年2年3年と分かれているわけでなく全員で1クラスしかなかった。

瑠夏(ルカ)(リン)六花(リッカ)がいた。あと、小夜子(サヨ)、妹[寧々(ネネ)]、そして私[由紀(ユキ)]で全員だった。

ほかの学区はもっと大きい学校もあるけれど、この学校は極端に小さいのだ。子供が私達しかいないんだから。

小さいことでいいことがあった。全員仲良しなのだ。仲が良すぎて家族みたいになってしまっている。


「遅かったじゃないか」とヘッドフォンの片方を外しつつこっちを振り返ったリッカが言う。短いおかっぱのさっぱりした黒髪。ブラウスの上にカーディガンを羽織っている。男勝りのサバサバした性格。方膝をくの字に折り曲げて崩した姿勢で座って携帯ゲームをしている彼女はゲームプレイヤーだ。

「シナモンのいい香りがしますね」と凛。ベレー帽を被ってきれいな姿勢でこっちを見ている。年下の彼女は乱暴な?先輩を反面教師にしているのかもしれない。凛は寧々の手を握った。二人は同い年なのでとりわけ仲がいい。

「おはよう」一言言ったのは瑠夏。テーブルにタロットを並べている。瑠夏は紅いフチの眼鏡を掛けショートカット、左から右へ髪を編み上げた髪を流しているのが印象的。ちょっと落ち着いた雰囲気の女の子だった。彼女は黒タイツを履いてるで落ち着いてみえるのかもしれない。

「おはよー」サヨは指で拳銃を作ってリッカにバンッ!と撃った。サヨも結構ゲームしていてリッカと仲がいい。そんなサヨとリッカと私は同い年だ。


「瑠夏、私を占ってよ」と瑠夏の前に座った。

「ユキは今日…」瑠夏はカードをシャッフルして並べた。

「正位置の太陽…活気がありそうだ。また「サンドイッチ花咲」に行くんじゃないか。そして正位置の恋人、なにかトキメきそうだね…つまりはいいことが起きそうだね」

「おお~!一つは当たりそうだよ!」と私ははしゃいだ。


そこへ優佳先生がやって来た。

「みんなおはよう~!」

優佳先生には特徴がある挨拶をする。その光景がいまから展開される…皆に緊張が走る。


「小夜子ちゃん!オハヨー!」といいながら抱きついていた。小夜子は真っ青になりながら声にならない悲鳴を上げているのが私やほかの子たちにもわかった。

これをひとりひとりやるのだ!なんというスキンシップ!先生なりの愛情表現なので、悪いことじゃないんだけれど…

そもそも私達には親がいなかった。

両親の愛情とか私達にはわからない。居たらもっと愛されてるのかな。優佳先生みたいなこと家でやるのかな。

妹とは2歳離れているので、私が2歳のときには居たということだが、あまりに小さい頃なので覚えていない。


つぎの犠牲者は瑠夏だった。同じように抱きしめられている!

女狩人が獲物をいたぶっている間、小夜子は先生にみえないところでげぇ~っ!とやっていた。

「由紀ちゃん~」次は私だった!逃げるという選択ができなかった!こわばった体に先生が抱きついてきたのだった!

このあと寧々も洗礼にあっていた。

これがこのクラスの点呼であった。6人しかいので、ひと目でいる人居ない人はわかるのだけれど…

先生が私達に気を使ってるのかな、善意でもあるのだし、気持ちは汲み取れるので本音ではイヤではなかった。もしかしたらありがたいことなのかもしれないとも思っていた。




朝に拾ったチケットをみんなに見せて、帰り際サンドイッチに行こうとみんなに提案したところ、いこういこうとなった。

それで、今、カフェ「サンドイッチ花咲」にいる。

学校帰りの他校の学生も沢山いるし近隣住民も沢山いた。

お店は賑わっていた。


ここのタマゴサンドがタマゴたっぷりマヨネーズのこってり味がたまらない!私は当然タマゴサンドを頼み、テーブルの真ん中に置いていた。

小夜子はチョコがけのドーナツを頼んでテーブルの真ん中に。凛はチェリーパイを頼んでこれまたテーブルの真ん中に置いた。


瑠夏がフフフーッを鼻息を上げた。

「このお店のアールグレイ、ちょっと違うんだ」

と言いながら全員の分のお茶を注いだ。そしてみんなにカップを分けながら、

「香りがいいんだ。ベルガモットの配分がね…」

確かに柑橘系というか香りが良いのがこういうのに疎い私にでもわかった!寧々の方を見る。

寧々もこういうのは馴染みがないので興味津々でクンクンと香りを嗅いでいた。せっかく年上のお姉さんが紅茶の講義をしてるので追いつこうと頑張ってる…というのが私にはわかった。

「うんうん、わかります!大人の香りがします~!」と寧々が目を輝かせて言った。

「わかるかね!いいセンスだよ!寧々くん!」そうだよそうだよ、これが大人の香りってやつだよ!

「わかりますう~」と言い、カップの香りをすぅ~っと鼻に吸い込んだ。その刹那!寧々の目が光った…ように見えた。

香りを楽しもうとカップを持ち上げる凛。彼女が持ち上げたカップに寧々が口を付けた!


「ああ~っ!わたしの紅茶ぁぁ!」凛が叫んだ。凛と寧々は同い年なのでカラミやすいのだ。

「冗談冗談!!そんなに叩かないでぇ!ゆるして~!イタイイタイ!」と寧々。

紅茶がこぼれなくて良かった…凛ちゃんは寧々をぽかぽか叩いていた。涙目のその姿は可愛らしいというか、おかしかった!わたし達全員こんな感じで仲が良かった。寧々だけは実の妹だが、その他のここにいる6人それぞれお互い姉妹のような存在だった。お互い絆があるのだ。

涙目になってる凛ちゃんが可愛らしくて、私もみんなも笑ってしまった!「みなさん子供っぽすぎます~」と凛が涙目でそう訴えかける。


「意地悪で笑ってるんじゃないのよ、あなた達可愛すぎる…!」と私が笑いながらようやく声を出しながら言った。笑い涙を指で拭いた。

瑠夏も寧々も目に入れても痛くないくらいカワイイと思った!胸がキュンとしてしまった!


それをみていた瑠夏が口を挟んだ。

「じゃあ~お姉さんがちょっと見せちゃおうかな~」と瑠夏が言った。たぶんアレが始まる!ここにいるみんなが一気に注目した。

というのも、瑠夏はお茶もくわしいのだが、手品が趣味という変わった女の子だった。ミステリアスな彼女を一層引き立たせる。

彼女はハンカチを取り出し、凛ちゃんのカップを覆った。みんなの意識がハンカチに集中する。

「すぅ~~っ」瑠夏が息を吸った。6人全員は息を呑んだ。この場が静まり返る。つばを飲み込む音も聞こえてきそうだ。

彼女は寧々の隣に移動し、そしてかがんだ。どういうこと!?という顔で寧々は瑠夏と目を合わせた。何回かまぶたをパチクリした。頭の上に「?」が浮かんでるように私には見えた。


そしておもむろに突然寧々の耳に息を吹きかけた!

「ひゃああ!!」寧々がびっくりしてはねた!イスががたんと音を立てる。


「こんなふうに、ハンカチに息を吹きかけてみて!」瑠夏はけらけら笑っている。

「めっちゃとびあがったねえ!」

「ん~~~もぉぅ!」

いじわる…といいながら寧々は涙目。

「いっしょに吹きかけようよ」と凛ちゃんが寧々に誘った。それで寧々は立ち直って二人で息を吹きかけた。その連携プレイというか仲の良さがまた愛らしいのであった。

パチンと指を鳴らしハンカチをさっと取る瑠夏。

「アールグレイがダージリンに変わりましたぁぁ!さぁめしあがれぇぇ!」

「うひぃぃぃ~!」

「このインチキマジシャン~!!!」

「こういうのはオヤジギャグというのです」



「いてて、そうたたくな。悪かったよ!真面目にしようじゃないか」

「由紀くん、済まないが起立してくれたまえ」

私が指名された。

「え?え?」と言いながら反射的に立ち上がってしまった!

「キミは素直だね!素直な子が一番スキだよ」と言われた。からかわれてるのかな。

そしてひときわ大きい声で

「お店にいる方々も注目注目ぅぅ!」と叫んだ。

「その場でクルッと一回転してくれたまえ」

「ハイッ」一回転回ってみた。スカートがふわっと浮いた。皆がうおお~と声を上げる。

「ユキ、おしい!あとチョイだよ」と指を鳴らしながらリッカ。

「もうちょい速めでお願いします」とサヨが茶化した。


「ユキ君、3回まわってみよう」と瑠夏。わたしが数えよう。


「では、せーの!」

「いーち!」1回転。

「にーい!」2回転。

「さーん!」3回転!


電光石火の速さで瑠夏は私のスカートをめくった!

「えっ」


私のパンツが皆に公開されてしまった!

花柄のパンツに、そのパンツから花びらが沢山飛び散った。フラワーシャワーだった。

理解が追いつかない。私が見世物にされていて、でもキレイな光景で。赤い花びらどこから出したんだろう。かなりの数が舞っている。

そして同時にその瞬間は、とてもとてもスローモーションでながれたのだった。


小夜子は両手で口を押さえている。

寧々と凛ちゃんは目をまんまるにしている。

六花は目を覆っている。

瑠夏はメガネを光らせ、口の端を上に曲げている。

店内のお客さんも私に注目しているのも見えた。

全員の表情がわかった。


大喝采だった!拍手が鳴り止まない!

私はお店の注目を集めてしまった。正確にいうとパンツが注目を集めたのだが。恥ずかしいことには変わりがない。一瞬が永遠に思えた。


その晩。

家に帰ってベットに入り込んで落ち込んだ。

「お姉ちゃん大丈夫?」

「トラウマだよ…」寧々の頭をだいて慰めてと言った。しばらく心の傷は消えないだろう。

「でも、不思議なんだよね。私が履いてたのは白なのに、花柄にかわっていたし」

「そ、そうだよね。お姉ちゃん純白しかもってないものね」寧々は私のパンツ越しにお尻を触りながら言った。

「パンツ取り替えるって、そんな事できる?」


「派手なフラワーシャワーを皆は注目したのだが、実はそのウラでパンツ交換マジックだったということ?お姉ちゃんにしかわからないマジック…ってこと?」

「私にしかわからないマジックなんて、地味」


「でもあのあと拍手喝采だったよ。瑠夏ねぇヒーローになってたもん。こういっちゃなんだけどあの瞬間二人は大スターだったよ」

寧々は私の頭を撫でながらそう言った。

今日は私のほうが妹のようだった。

寧々の匂いを嗅いだ。寧々の膨らみに顔を埋めた。温かいし心臓の音が聞こえる。やさしく柔らかいしなんだか安心する。今朝の寧々の気持ちがわかったような気がした。

その間頭をいいこいいこされていた。

「今日はわたしがお姉ちゃんしてあげる」

なんだか涙が出てきた。


そこにチャイムが鳴った。

「夜分遅く失礼するよ、瑠夏だよ」


寧々が顔を出しに行った。まもなく瑠夏を連れて寧々が戻ってきた。ジュースのボトル何本かとお菓子の束を抱えていた。

「ちょっと悪ノリしてしまった。反省しているよ。…その様子だとダメージ大きかったようだね」瑠夏は頭をさげ謝った。

「あ、う、うん、もう大丈夫」瑠夏が心配してくれてきたことに嬉しくなってしまい、その感情でまた泣いてしまった。今日は泣かされてばかりだ。その犯人が目の前にいるのだが。


多分、目が赤く腫れていたんだと思う。瑠夏が顔を寄せてきた。そして手を私の頬に添え親指にクッと力を入れ私の目の下側をなぞるように涙を拭った。

その瞳は真剣で私を本気で心配していると分かった。

この間、私は彼女の目をずっと見ていたと思う。いや、そのことにも気が付かないくらい見つめていた。


「ああ、そうだ」

瑠夏は私の両手を揃えさせた。そして私の手に覆いかぶせるように彼女の手を添えた。手のひらから温もりを感じた。瑠夏の温もり。温かい。


彼女は私の耳元に唇を寄せてこう言ったのだった。

「気に入ってくれるといいな」


手になにやらふわふわするくすぐったいようなものを感じた。それも両手を覆うほど。

彼女は手を離すと、そこにはなんと大量の赤い花びらが目に入った!私の大きく広げた両手のひらに大量の!手を話したあともどんどん溢れ出てきた!真っ赤な花びら。手のひらからこぼれ、ひざに落ち、それもこぼれて床にどんどん溢れている。バラのはなびらかな。どうなっているのだろう。


瑠夏は瞬間的に扇を取り出しパッと開いた。そして私の手のひらの上の花びらを扇ぎ、大量の花びらが白い部屋に竜巻のようにぐるぐると舞った。舞うというか散らかる感じかな?それがきれいなのだ。瑠夏の手品は観客を魅了するのだった。


そしてそれはあまりのことで、私は感激と混乱の渦の中に居た。


「由紀君のお部屋はいつでも晴れの青空、真っ白い家具。由紀の感性は素敵だよ」

といい先輩はウインクした。ナルシストというのは先輩のことなのかと思った。

そして先程までの落ち込んでいた自分のことはすでに忘れていて、泣いていた自分はこの世のどこにもいなかった。


何分たっただろう。気がつくと瑠夏は居なかった。寧々と顔を見合わせた。

「夢じゃないよね?」

薔薇の花弁はいまだ宙に舞い、私の手のひらや、床に沢山存在した。

「手品…ってこんなにスゴいの?」

私たちは目を白黒させていた。

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