表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

我が家のメイドがつれなさすぎて困る

作者: 衣谷強

ひだまりのねこ様主催『つれないメイド企画』参加作品です。

相変わらずの変化球ですが、お楽しみいただけましたら幸いです。

「フェレン嬢。どうか我が妻になってください」

「お断りします」


 輝くような金髪の美青年・アロガンス様の求婚を、にべもなく断るメイドのフェレン。

 男爵である私は、断られたアロガンス様の反応に気が気ではない。


「我がハーティネス侯爵家は王家の覚えもめでたく、また豊かな領地を持ち、美しい保養地も所有しています」


 おお、フェレンの冷たい態度にもめげてない。

 頑張ってくださいアロガンス様。


「フェレン嬢が我が妻となってくだされば、その全てをもって貴女を幸せにすると誓います。ですからどうか我が妻に!」

「お断りすると申し上げました。お引き取りくださいませ」

「ふんぐ……!」


 取り付く島もない一礼に、顔を真っ赤にして言葉に詰まり、肩を震わせながら部屋を出るアロガンス様。

 慌てて追いかけ、お詫びを申し上げながら馬車までお送りすると、私は大きく溜息をついた。

 あぁ、また駄目だった……。

 これで二十四、いや、二十五件目か……。

 部屋に戻る間に、これまでに求婚してきた貴族の方々を思い浮かべる。

 非の打ちどころのない、とは言えないまでも、結婚相手として悪くはない方々だったと思うのだが、フェレンは何故あんなにつれない態度を取るのだろう……。


「フェレン」

「はいご主人様」


 うわ、まぶしい笑顔。

 十六という娘盛りの瑞々しさが、子どもの頃には可愛らしかった笑顔を凄まじい美しさに変えている。

 若い貴族や名家の子息達がこぞって熱を上げる理由もわかる。

 こんな先のない四十前男の側に置いておいておくより、若くて未来のある男性の元に嫁がせてあげたいと思っているのだけど……。


「あー、その、アロガンス様の何が気に入らなかったのだ?」

「……あの方、私の身体をじろじろ見てはにやにやされていたので、嫌悪感が先に立ってしまいました」


 怒りのような、羞恥のような、どことなく悔しそうな表情を浮かべるフェレン。

 いや、それは責めるのが酷だと思う。

 整った顔立ち。

 少しつり目がちで大きな瞳。

 わずかに紫がかった長い黒髪。

 全体的に細くてしなやかな身体付きなのに、胸は立派に育って、男なら自然に目が……。

 ……いかんいかん。

 娘同然のフェレンをそんな目で見ては……。


「それにお話しされる事はお家の自慢ばかり。ご自身には何もないと言っているようなものではありませんか」

「う、うーむ……」


 母親の苦労を聞いてきたからだろうか、フェレンの態度や言葉には確かな強さがある。

 伯爵家の三男に生まれたものの、二十歳過ぎても鳴かず飛ばずで、お情け爵位と保養地の一部を領地として与えられた私では太刀打ちできない。


「それに私は、母と私を救ってくださったご主人様に一生お仕えするつもりです。他家に嫁ぐ気はございませんのでご安心ください」

「それで『そうか』とは安心できないのだよ……」


 確かに私は仕えていた家を追い出されたという、フェレンの母フィカルを雇い入れた。

 それはただ伯爵家代々の保養地でもあるこの屋敷を保つためには腕の良いメイドが必要で、フィカルが腕の良いメイドだった、それだけだ。

 ……いや、フィカルが当時三歳の子持ちとは思えない位美人だったのは、まぁ、多少採用の一要素にはなったけれど……。


「フィカ……、フェレンの母上も再婚して幸せになったのだから、フェレンも恩などに縛られず、自由に生きてほしいのだ」

「自由を許してくださるのでしたら、この家でメイドを続けさせてくださいませ」

「うぬぅ……」


 駄目だ、もう反論の余地がない。

 何でこんなに我が家にこだわるんだろう。

 母親譲りの家事の能力の高さは、確かに有り難いのだけれど……。

 フィカルがこの土地の資産家と心通じたものの再婚に迷っていた時も、『私はこの家に残りますから大丈夫です』と背中を押していたなぁ……。

 まぁ三歳から住んでれば、実家みたいなものなのかも知れない。

 できればより良いところに巣立って欲しいけど……。


「私の事よりご主人様はどうなのですか?」

「ど、どう、と言われても……、何がだ?」

「ご結婚です」


 おいおい、何を言い出すかと思えば……。


「こんな四十前のよれよれ男爵に嫁ぎたい女性など居はしないよ」

「そうですか。それでしたら私もまだ結婚しなくてよろしいですね?」


 ぐっ、しまったそう来たか……。


「い、いや、こんな風になる前に然るべきところに嫁いで、だな……」

「ご自分がなさってない事を、さも良い事のように語られますと、私の事が厄介で早く追い出したいのかと邪推してしまいます」

「そ、そんな事はないのだが、しかし……」

「では今しばらくよろしくお願いいたします」


 嬉しそうに微笑みながら、綺麗な礼を見せるフェレン。

 ……うーん、まぁ、もう少しなら、このままでもいいかな……。

 このつれないメイドが本当の恋と幸せを見つけるその日まで……。

読了ありがとうございます。


さて、つれないメイドのフェレンですが、『つれない』を意味する英語indifferentから取りました。フルネームはフェレン・トゥインディとなります。

そして語り手で名前の出なかった四十前男爵は、英語で『冴えない』を意味するdullからデュールと名付けました。今。苗字はまだない。


さて今後フェレンが恋に落ちる相手は現れるのか。

それとも既に意中の人がいるから、他の男にはつれないのか。

色々想像してもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  歳の差主従は歳の差カップルになるのか否か? ……この先の展開を、いろいろと妄想しちゃいますね~(爆)。  とっても面白かったです!
[良い点] 企画ご参加ありがとうございます!! うわあああ……なんという模範的なつれないメイドさん!?ぐぬぬ……続きを!!ハピエンな続きを!! まあこの調子なら押し切られて……にゃふふ。
[良い点] 「つれないメイド企画」から拝読させていただきました。 二人の距離感にほっこりしましたが、ラストはこう来ましたかー。 いろいろ想像は出来ますが、さて。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ