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千代の真実  作者: 緋那真意
第五章 千代の真実
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第16話 両想いの両成敗

 微笑ましい母子のやり取りを見た結は感心したように大きく頷き、勘助も無表情を装いながら優し気な視線を真千と実代に向けている。


「……見事な母親ぶりだったね。あたしにはちょっと真似が出来そうにない」

「いえいえ、至らない所ばかりでお恥ずかしい限りですわ」

「そんなこともないさ。勘助とやら、あんたもそう思わないかい?」

「……え……いや……その……俺のお袋より全然良い母親だ……ぜ……?」


 結はやや意地の悪そうな顔で勘助に話を振り、突然話を振られた勘助の方は仰天して勝手に口から言葉が出てしまった。勘助の言葉を聞いた真千と結は二人してくすくすと笑い合い、勘助はたまらず声を上げる。


「何でえ何でえ。二人して俺を笑い者にしやがって……!」

「ごめんなさいね勘助さん。あまりに可愛らしいお言葉だったから、つい……」

「ははは、まあそう怒りなさんな。お前さんが話しやすいようにしてやろうとしたまでであってね」


 真千の後に言葉を続けた結は、そこで不意に真面目な表情になる。


「……どうすんだい、あんた? お真千に話があるんだろう? あたしが邪魔なら一旦席を外しても構わないけれど……」

「いや、それには及ばねえよ。それに、あんたとお真千は結実の樹の実で繋がっているんだろう? いずれにせよ筒抜けになるんだったら同じことだ」


 結の提案に勘助は小さく首を横に振る。それを見た真千は抱きついたまま寝息を立てている実代の姿勢を起こさないように動かし、実代の頭を膝に乗せるように体勢を入れ替えた。


「……お真千、あんたも構わないんだね?」

「はい……白雲さま、しばしの間お付き合い下さりませ……」


 真千は結に深々と頭を下げ、結は何も言わずにひとつ頷くと自ら邪魔にならぬようにと後ろに下がり、静かな表情で真千と勘助を見守る。

 真千と勘助はお互いを見つめ合い、少し経った後で勘助から口を開く。


「……お真千、最初にお前さんたちと出会ったときのこと、覚えてるか?」

「勿論覚えているわ。突然知らない名前で呼ばれて驚いたものだけど……」

「……あの頃の俺は怯えていたからな。惚れた女の死にすら向き合えずに震えるばかりの臆病者だった」

「それは違うんじゃないかしら? むしろ勘助さんが千賀さんのことを忘れられないほど愛していたから……」


 言葉の先を言おうとする真千を勘助は遮る。表情を硬くしながらもその目は真っ直ぐに真千を見つめている。


「……そう言ってもらえるのは嬉しい限りだが、いずれにせよ俺がお前さんと千賀のことを重ねてみていたことは間違いねえ。千賀は千賀、お前さんはお前さん、全くの別人のはずなのにな」

「……」

「だがよ、同じ一座で旅をしてお前さんのことを知るようになって、俺の中で重なっていたお前さんと千賀が段々と離れていって、気付いたときにはお前さんのことだけを見ていた……」


 勘助の言葉を真千は静かに聞いていた。瞬きすら忘れるほどに勘助のことを見つめていた。勘助は言葉を続ける。


「……今夜は思いがけない話を聞いちまって、お前さんが背負っちまってる定めって奴も知ることが出来た。……正直、俺が知るべきじゃあねえことだったのかも知れねえけれど、それでもお真千、お前さんのために俺が出来ることは何かねえのかって、俺はそう思うんだ」

「勘助さん……」

「……お真千、俺の側で一緒に暮らさねえか? ……お前さんの昔も今もその先も全部受け入れて、俺自身の昔からも二度と目を背けたりしねえ! お前さんもお実代ちゃんも必ず幸せにしてみせるからよ……」


 勘助はそう言うと真千に深々と頭を下げた。それに対して真千は一瞬だけ戸惑いを見せたが、すぐに表情を引き締めると勘助に言葉をかける。


「……一つだけ、勘助さんにお願いをしてもいいかしら?」

「……お願い……?」

「ええ……。一つだけ、どうしても勘助さんにしてほしいことがあるの」


 そこで勘助は顔を上げて真千のことを見る。


「そう言われたら断れねえが、一体どんなお願いだ」

「……千賀さんの墓にお参りをしてきてほしいの」

「……なっ……!」

「……亡くなってから一度もお参りしていないんでしょう? きっと千賀さんも寂しく思っているんじゃないかしら?」


 勘助は真千の『お願い』を聞いて絶句したが、続けて真千が言った「千賀も寂しがっている」という言葉を耳にして、はっと何かに気付いたような顔になる。そんな勘助に真千は寂しげな微笑みを浮かべて話す。


「……本当なら私も行きたいところだけど、旦那さんの隣に新しい想い人がいたら千賀さんも気分を害するかも知れないしね」

「お真千、それで良いのかよ……お前さん、本当は……」

「……その先は言わないで。それでも、今の私は真千なの。白雲さまにそう名付けられたからでもなければ、昔の自分を思い出せないからでもない。今ここに居る私が『真千』だと、私がそう信じているからよ」


 勘助が何かを言いかけたのを遮り、真千ははっきりと自らの思いを告げる。勘助はなおも何かを言おうとしたが、結局何も言えずに真千から視線を逸らす。

 静かに成り行きを見守っていた結がそこでようやく口を開いた。


「ま、そこまでにしておきな二人とも。お互いに思うところはあるんだろうけど、お互いに通じ合えるところがあるってのが分かったんなら、それを尊ぶべきじゃないかとあたしは思うんだがね」

「……白雲さまの仰る通りです……ごめんなさいね、勘助さん」

「……いや、俺の方こそ潔くなかったな。済まねえお真千」


 真千と勘助がお互いに謝ったところで、結が再度口を開く。


「まあ、あれだ。あたしがお真千に区切りとしていた十の年も過ぎ、お真千も己の定めを乗り越えた。実代の母親もしっかり務めているし、ここらで少しは人並みの幸せを噛み締めてもいいんじゃないかい、お真千?」

「……はい……」

「勘助とやら、あんたもだ。あんたのしたことは確かに許されざることかも知れない、だけど、いつまでもそうやって昔を引きずり今を見ようとしないのはもっと罪深いとあたしは思う。ようやく掴んだ昔を乗り越える切欠を無駄にするのは勿体ないだろう?」

「ああ……あんたの言う通りだ」

「なら……どちらかと言わず二人で揃って墓参りに行くことだね。お真千も勘助もわだかまりを捨てて、絆を深め合うにはいい旅になるだろうしさ」


 結は二人の意思を確認したうえで仲裁案を示し、それを聞いた真千と勘助はお互いの顔をじっと見つめ合い、ややあってどちらからでもなく小さな笑みを浮かべて結の方を向いた。


「そうすることにするよ……白雲の女烏さまよ」

「白雲さま……何から何までありがとうございました」

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