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八話 絵莉花(エリカ)

なんとか問題が解決し、玄斗もここ二日の情けなさからくる心のモヤモヤが晴れたため、スッキリした気持ちで登校する。


「おはよ、武」


「あぁ」

 素っ気ない返事が飛んでくる。

 玄斗は昨日休んでいたため忘れていたが、昨日も松下さんは武への嫌がらせをしているようで、すっかり元気が無くなっていた。


「昨日は休んでごめん。色々やらなきゃいけないことがあってさ」

「あぁ」


 相槌を打つだけで話を聞いているのかも怪しかったので、話を止めて静かにする。


 すると、何分か経つと松下さんが登校してきた。約束通りならもう武に何かをすることは無いはずだ。

 時間が経つと武ももう何もされることが無いと分かるだろうし、時間に期待して待とうと思っていると、松下さんが自分の席とは違う、左後ろの席の方へ歩いてくる。

 嫌な予感がして玄斗がなんとか止めようと言葉に出そうとするが、動揺で行動が遅れてしまい、もう目の前に松下さんが来てしまった。


「イガグリ、ちょっと話あんだけどよ」

 その声に反応して武は松下さんのほうに目線だけ向けるが、返事はしない。


「悪かったな、なんか私の勘違いがあったみたいだ。許しを()うつもりは無いけど、もう嫌がらせはしないからよ」

 それだけ一方的に言い切ると、自分の席のほうへ戻っていった。

 武は玄斗のほうへ振り向き、驚いた表情で声を出す。


「えっ、あれっ、どういう……」

 あまりにも予想外の展開に、武は言葉にならない様子だ。クラス内もどこかざわざわしている。


「昨日松下さんと話したんだけど、武側の話を無視して一方的になったかもってなってね。嫌がらせはもうしないとは約束してくれたんだけど、まさかあの松下さんが謝罪するとはね……僕も予想外だったよ」

 物を対価に約束したと言ったら松下さんに悪いと思い、少しぼかして言う。


「マジかよ……玄斗お前すげぇな……。ってお前、昨日はなんで学校休んだんだよ!」


「だから色々やらなきゃいけないことがあったんだって。さっきも言ったじゃん」


「聞いてねぇよ! 色々ってなんだよ、色々って。詳しく聞かせろや!」

 すっかりいつもの元気を取り戻したようで、玄斗に詰め寄ってくる。

 玄斗は笑って誤魔化していると、先生が入ってきて強制的に中断されたことで、なんとか誤魔化すことに成功する。


 いつもの平和な日常が戻ると、あっという間に放課後を迎えたが、玄斗は空き教室へと向かっていた。帰る時に机の中を整理しようとした時紙が入っていて、この会議室に放課後来るように指定があったのだ。


「しつれいしま~す」

 誰からの手紙かも分からなかったため、ドアをゆっくり開けながら慎重に中の様子を伺うように見渡す。


「来たか」


「松下さん……」

 どうやら相手は松下さんだったらしい。意外だ。


「何ビクビクしてんだよ、昨日はあんな強気だったくせによ」


「あの時は勢いでっていうか……」


「まぁいいや、あれで良かったんだろ? イガグリのこと」


「うん、助かったよ。約束を守ってくれてありがとう」


「守ったってより守らされたんだけどな。こんな経験高校に入って初めてだわ」

 どこか獰猛な笑みを浮かべながら言う。


「そんな……守らせただなんて……」


「けっ、昨日のは何だったんだよ。じゃあそれを確認したかっただけだから。……あぁそうだ」

 空き教室を出ていこうとした松下さんだが、振り返って続ける。


「お前は根暗って感じでもないっぽいから、玄斗って呼ぶことにするわ。お前も私のこと名前で呼んでもいいからよ、いいな?」


「えっ? うん、それはいいけど……」

 返事を確認すると、満足したのか絵莉花(エリカ)は今度こそ出ていった。

 今日は予想外でいっぱいだ。

 







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