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七話 解決

「やりすぎてしまった……」

 謎解きをやっていた玄斗だったが、気づけば時間は朝五時になっていた。

 最初は予習をしておこうとの思いで始めたが、途中から楽しくなってしまい、夢中で謎解きをしてしまった。


「寝ないのはパフォーマンス最悪で迎えることになるだろうし、少しだけでも寝ておこう」

 両親には学校を休むことを伝えておいた。怒るというよりは心配していたが、友達のためだと説明すると、母親の「一度だけよ?」の声で許しを得ることができた。

 本当にありがたい。


「玄斗~起きろ~」

 父親の声でいつも学校へ行く時より少しだけ遅く起きると、素早く準備を終えて謎解き会場へ向かう。

 電車に乗って目的地に向かうが、普段来ない場所なので少しワクワクするし、緊張する。

 いくつか電車を乗り継ぎ駅を降りると、スマホで位置情報を確認しながら歩く。


 十分ほど歩くと、目的地である場所が見えた。

 おしゃれで、思ったより大きい建物に委縮しそうになるが、勇気を出して入口に入る。


「おはようございます。本日は謎解きspecialの開催となっていますが、お間違いないでしょうか?」

 入ると受付の女性から声を掛けられる。


「はい、間違いないです」


「承知しました、入場料五百円になります。こちらの封筒を開けないようにお持ちになって、お待ちください」

 そう丁寧に対応され、お金を払い会場に入ると、大きな会場に想像よりたくさんの人がいて圧倒される。


「平日だと思って甘くみてたかも」

 思わずそう呟いてしまう。昨今は謎解きがブームになっているのと、コラボしているファッションブランドが人気なのも合わさり、平日なのにこんなに人が集まっている。

 玄斗がお目当てであるストラップは先着百名が貰えるわけだが、なんとなくの目算でその五倍の五百人ほどいるように感じる。

 倍率五倍である。高校受験でも体験したことがない。


 とごちゃごちゃ考えていると、アナウンスの声が聞こえてきた。


「えー本日は今回コラボする両社の都合の関係で平日開催となりましたことを、本当に申し訳なく思っています。並びに、お越しいただきまして誠にありがとうございます。では早速案内に移らせていただきます」

 案内によると、”始め”の合図で配られた封筒を開き、謎解きが始まるらしい。

 全部で三段階あると教えてくれたのは、謎解き初心者であるファッションブランド側のファンへの、ちょっとした配慮だろうか。


「それでは開始です。始めっ」

 周りが慌ただしく一斉に動き出す。玄斗は落ち着いて開封し紙を眺める。

 この会場は広いが、さらにいくつかの場所へのネームプレートがつけられている。これは、おそらく最初の紙で次の場所を示しているのだろう。


「よし、ここだ」

 昨日やったところが活き、あっさりと解き終わると移動する。

 こういったものは段々と難しくなっていくものなので、決して油断しない。

 二つ目も一つ目よりは時間がかかったが、なんとか昼休憩を告げるアナウンスまでに解くことができた。


「ここまでは運良く経験したのと似たのが出てるけど、このままいけるかな」

 運営によると、ちょうど五十人が三つめの謎へ到達したらしい。


 昼休憩が終わり、謎解きが再開する。

 玄斗は二つ目の謎の答えである北極と書かれた部屋に置いてある、ホッキョクグマの置物の裏側に貼り付けてある紙を一つ取る。


「なんだこれ、どうやって解き始めればいいのかすら分からないな……」

 最後の問題の紙に書いてある、経験したことのない形式に悩まされる。

 その間に北極の部屋に人が続々と入って来ていたため、一度最初のロビーへと戻りゆっくり考える。


 考えるが全く分からない。どうやって取り組めばいいのかも分からない。紙の四方を謎の模様が囲っていることから、ここが鍵だとは思うのだが前に進まない。

 この間にも少しずつ全部解けた人が出てきているようで、しばらく経つと残り十人ですと告げられた。

 焦りが行動に表れ、紙を持って右往左往しながら考えていると、他の参加者とぶつかってしまい倒れる。


「ごめんなさい、大丈夫ですか?」


「大丈夫です、こちらこそ不注意でした、すみません」

 倒れた拍子に、紙が布団をたたむ時のようなZ字に折れ曲がっていた。


「あっ!」

 紙の上下が繋がるように折れていたが、そこで見覚えのある文字が見えた。

 どうやら平仮名を鏡文字にして、更にそれを上下左右二つに分けていたようだ。


「これなら解ける」

 偶然に感謝するばかりだ。先ほど残り十人と言っていたのでもしかしたらもう終わっているかもしれないが、可能性を信じて答えを導き出す。


「受付だっ」

 どうやら受付が最初にして最後の場所になっていたらしい。

 急いで向かい、確認する。


「おめでとうございます、ちょうど百人目になります、どうぞ」

 可愛らしいクマのストラップに不似合いなのは重々承知しているが、思わず笑みがこぼれる。

 クマが入った袋を受け取ると、アナウンスが入る。


「百名の方が謎解きを終了致しました。まだ時間はあるので、続けたい方はそのままお楽しみください」


 玄斗は目的を達成したのですぐに建物を出ると、学校へ向かう。

 電車を降りてからは全力で走って学校に着いたが、最後の授業終了時間から十分ほどが経過していた。

 それでももしかしたらいるんじゃないかと教室へ向かう。

 ガシャン!と音を立ててドアを勢いよく開くと、松下さんと数人が机を囲んで楽しそうにしていた。


「ん? あれ、根暗じゃん。遅刻?もう学校終わってっけど笑」


「松下さん、ちょっと時間貰えるかな?」

 軽いテンションには取り合わず、真剣な表情で返す。


「絵莉花wこれアンタに気があるんじゃない?行ってあげなよw」

「絵莉花フリーだしね、良かったね!ゎら」

 玄斗にはよく聞き取れなかったが、馬鹿にされているようだ。


「あんたらねぇ……まぁいいや。ちゃちゃっと終わらせなよ? 余計なことだと怒るかんね」


 空き教室へ入り、人がいないのを確認すると玄斗が話し始める。

「松下さん、武のことなんだけど……」


「文句でも言おうっての?舐めてるわけ? はぁ~真剣な顔してるから何事かと思えばそれかよ。イライラすんわぁ~」

 表情が一気に変わり、イライラゲージが加速していく。


「え、えっとそうじゃなくて。誤解があるっていうか……」


「そんなこと言って私が止めるとでも思ったの? 被害者はこっちなんだけど」

 勢いに押されるが、玄斗もここは引かない


「武も意図してやった訳じゃないんだ。でも、誤解させちゃったのは事実だと思うし、これで今回の事許してくれないかな?」

 玄斗はポケットにしまっておいた袋を出し、中身が見えるように持ち上げる。


「えっ!? これってシュネルの限定ストラップじゃん。確か今日の謎解きコラボに行かないと貰えないはずの……」

 松下さんは怒りはどこへやら、大好きなブランドの限定ストラップに疑問を抱きながらも、目を輝かせる。


「それに今日行っててね、それで学校を休んだんだ。で、これを上げるから手打ちってことにしてくれないかな」


「……わーったよ。それ見せられちゃしょうがないや、いいよ今回はそれで許す」

 了承して手を出し、受け取ろうとするが、玄斗はヒョイっと持ち上げて松下さんの手をかわす。


「なっ!? おまっ」


「”今回は”だと、また同じような状況になったら許さないわけでしょ? それじゃ心配だし、今度から人の話を聞いて確認してから行動するって約束してもらえないかな」

 玉砕覚悟で、勢いのまま強気にビシっと言う。


「根暗、流石に調子にのりすぎじゃっ」


「約束できないならこれは渡さない。何もなんでも許せって言うんじゃなくて、話を聞いて上げてってだけ。それで相手にやっぱり非があるならそれは戦ってもらっていい」

 玄斗は普段女子と会話する時のおどおどしさを消し去り、一種のハイな状態で強気に言い切る。


「はいはい、分かりましたよーっと。ちぇっ、なんで根暗なんかに……」

 約束を取り付けると、玄斗もクマのストラップを渡す。


「可愛いなぁ~お前~」

 受け取ると、クマが好きなのかブランドが好きなのか最早分からないが、普段見せないようなデレデレの表情になっている。


「松下さんってそんな風に笑うんだね」

 ついつい突っ込んでしまった。


「っっっってめっ、バカにして」


「いや、バカになんてしてないよ、素敵だと思う」

 真面目な顔での返答に、松下さんは言い返せず唖然としていた。


「じゃあ約束だからね、後一応それ僕が取ったんだから大事にしてくれると嬉しいな」

 そう告げて玄斗は教室を出ていった。


「あいつ……」

 残された松下さんは少し赤くなった顔で、玄斗が出ていったドアのほうを見ながら、大事そうにクマのストラップを優しく包み込んでいた。






 





 

なんとか書きたかったところまで書けました。

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