十八話 球技大会後
「玄斗、怪我は大丈夫なのか!?」
球技大会が終わり帰りのHRのために教室に戻ると、絵莉花が玄斗のところへ駆け寄ってきた。
「うん、保健室にも行ったんだけど軽い捻挫だって。明日にはなんともないみたい」
「そうか、良かった。ってかあいつはなんだったんだよ! サッカー部だって聞いたけどあんな行為が許されるクソスポーツだってのか!? いや玄斗はかっこよかったけどよ」
「ありがとう、絵莉花」
「お、おぅ」
蔵前に怒る絵莉花だったが、玄斗からの素直な感謝に調子を崩されてしまう。
「けっ、チョロいやつ」
「あ? なんか言ったかイガグリ」
「い、いえ、なにも言ってません!」
武がボソッと呟くのを逃さず絵莉花が攻め、それを必死に誤魔化す。
もはや仲が良いのではないだろうかと思う玄斗だった。
「だけどよ、ホントのところ納得できないし何か言ってやらないと気がすまないんだ。私だけだと手が出そうだし、玄斗も後で一緒に行こうぜ」
「えっ」
「答えはハイかyesだ」
「ハイ……」
HR終わり、蔵前の元へ絵莉花と玄斗は文句を言いに行くことが決まった。
「よし、間に合ったな」
急いで蔵前のいる七組に向かうと、ちょうど教室を出てくる蔵前がいた。
「蔵前っていったか? ちょっと話があんだ、ついて来いよ」
その声に蔵前は振り向き絵莉花と玄斗の姿を確認すると、事情を察したかのように頷くと大人しく後についてくる。
「言ってやれ玄斗!」
人気のない場所まで移動し立ち止まると、さっそく絵莉花が口を開いた。
「僕がっ?」
「私が言ってもいいんだけど、こういうのは出来れば当人同士がいいんだよ。文句は後でまとめて言ってやるからよ」
確かにと思うのと、接点がないはずの玄斗になぜあんな態度を見せていたのか気になっていたこともあり、玄斗が一歩前に出る。
「あそこまでするつもりはなかったんだ、本当にすまなかった」
玄斗が話し始めようとすると、いきなり蔵前が謝罪してきた。
「どうしてあんなことを? それに球技大会前から僕に絡んできてたけどそれは?」
「それは、あのずっと悩んで苦しんでいた南海がスッキリした顔をしてて。人づてに聞いたんだ、椎名玄斗っていう男が適当なことを言って南海を丸め込んでるって。それが許せなくて、最後は南海の応援の声でつい足が出てしまった、悪かったごめん」
強気だった態度はなりを潜め、ただ謝る蔵前。
「女への嫉妬ってわけか。だせぇやつだな」
「俺は、何か手伝いたかったんだ、だけどそれは今の社会では無理でっ」
蔵前が話し出すがよく分からない。社会でということから委員長の目標に関係ある様子だが。
「そういうことだったのね」
突然第三者の声が入ってきた。
「委員長っ」
「南海!?」
そう委員長である南海茜だ。
「松下さんと玄斗君の話し声が教室で聞こえてね。ちょっと後をつけさせてもらっていたの、ごめんなさい。それと少し私に話させてもらうね」
「それはいいけど……」
「蔵前君、私は幼い頃あなたに頼ったこともあるわ」
「南海……」
委員長は真剣な顔で蔵前へ語りかけるように話し始めた。
「女尊男卑社会の否定なんて、例え子どもだけの場だったとしても通らないくらいの問題だった。昔から家も近くて事情を知っていたあなたが、それでも私から離れず話を聞いてくれていたのは感謝していた。でもあなたはそれを助けるんじゃなくて無理なことだと諭すだけだった」
「それは仕方なくてっ」
「えぇ仕方ない、それが世の多数派と同じ意見。あなたが私のことを意識していたことには気づいていたけれど、そんな人物には呆れてしまったわ」
「苦しむ南海を助けたかったんだ!」
「私はそんなこと望んでいなかった。ただ大好きなお父さんを殺したこの社会を変えたかった、それだけ。それを玄斗君は応援するといって不安定だった私に、確かに存在する目標を見せて道筋を示してくれた。感謝するのは当たり前よ、今まで誰もなにもしてくれなかったんだから」
「くっ」
蔵前は悔しそうに拳を握りしめる。
「適当なことなんかじゃない、真剣に向き合ってくれた。変な噂に踊らされて自分ができなかったことで人に当たるなんて最低よ」
委員長の厳しい言葉に蔵前は返せなくなっていた。過去への後悔なのかなんなのか、ただ悔しそうに下を向いていた。
「委員長が言ってしまって私が言うこと無くなっちゃったな。ってかその人づてに玄斗のことを聞いたって誰からだよ」
「それは……」
蔵前が言おうか言うまいか悩む様子を見せていると。
「私よ」
みんなが一斉に後ろを振り向く。そこにいたのは幼い頃に玄斗へ告白をしたあの女性、班目 鏡子だった。