十七話 球技大会②
「おっ玄斗。ん? 難しい顔してってけどなんかあったのか?」
よく分からない因縁をつけられ、浮かない表情をして帰ってきた玄斗に、弁当を食べながら待っていた武がつっこむ。
「あったといえばあったんだけど、僕にもよく分かんなくて」
「ふーん、まぁいいか。決勝の相手はやつの七組だし、絶対勝とうぜ! 俺がゴール決めるからよ」
「頼りにしてるよ」
武のいつもの調子に笑いがこぼれる。
昼食を食べ終わり、試合開始時間が近づくとコートに集まる。
「椎名、悪いんだけど前後半どっちも出られるか? ちょっと二回戦で足を捻ったみたいで出られそうにないんだ」
クラスのサッカー経験者の一人が玄斗に申し訳なさそうに頼んでくる。
「そっか、うんいいよ。その分頑張るよ」
玄斗の出番が増えることが決まり、試合時間を迎える。
「頼んだぜ玄斗! あいつが出てくる前に試合終わらせてやれ」
「ははは、努力するよ」
『始め!』
先生の合図で試合が始まる。七組は経験者一人、八組は経験者二人のため、玄斗たちは前半でリードしておきたいところだ。
「くっ」
作戦なのか七組の経験者が玄斗へマンツーマンでマークについてプレッシャーをかけてくるため、玄斗はボールに上手く絡めず八組のパス回しがうまくいかずにいた。
何度かシュートを打たれたりと押され気味だった八組だが、相手のパスミスからついにチャンスがやってくる。
「俺が追う! こっちのマークは任せた」
玄斗をマークしていた生徒が急なピンチで抜け出した生徒を追い、その瞬間玄斗がフリーになる。
別の生徒が玄斗のマークにつこうと走ってくるが、玄斗のフェイントを織り交ぜた動きに翻弄され、うまくマークできないでいた。
「中いくぞ!」
パスミスから抜け出した八組の生徒がなんとかサイドからセンタリングを上げる。
玄斗はそのボールの着地点に向けて走りこむ。
「うおおおおっ! ナイス玄斗おぉぉぉぉぉ!!」
着地点にうまく走りこんだ玄斗はそれをダイレクトでボレーシュートすると、ゴールの左隅へボールが吸い込まれていった。
そのゴールの後すぐに先生から前半の終了を告げられ、後半に入る。
「ナイス玄斗! この一点はでかいぜ、俺が出るしな」
「相手のミスでなんとか上手くいって良かったよ」
「問題はあいつを抑えられるかだな、言いたくはないが正直あいつの上手さは頭一つ抜けてるからな」
武が蔵前のほうを睨むようにして見てながら言ってくる。
「僕ができるだけマークにつくよ」
「あぁ、頼んだ」
後半が始まるとお互い違ったコンセプトを持って試合に臨んでいた。
八組は一点を守り切る態勢で、七組はなんとか点を入れようと全力で攻めの態勢だった。
だがこういった展開は、弱気になったほうから崩れることがよくある。
守りに重きを置いていた八組は前線を上げられなかった。一番前にいる武ですらハーフラインをちょっと越えたような位置で、シュートまでとなるとかなり距離がある。
そんな引いたポジションだと、ボールを失った時に相手がゴールまで近く攻めやすいということである。
「蔵前っ」
八組の生徒のドリブルが止められボールを奪われると、その瞬間玄斗のマークを振り切ってフリーになってしまった蔵前へパスが渡る。
なんとか追いついた玄斗だが、相手は現役のサッカー部である。
何個ものフェイントを仕掛けられ揺さぶられると、抜かれてしまう。
そのままドリブルでゴール近くまで運ぶと、弾丸シュートを決め、1-1の同点に追いつかれてしまった。
「切り替えて僕たちも積極的に攻めていこう! 武っ」
点数が追いつかれたことにより八組も積極的にゴールを狙うが、どうしても得点までいかない。
武のへなちょこシュートも何度か放たれるが、キーパーにあっさり止められてしまう。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
今日三試合目にして初めての前後半出場で玄斗もかなり疲れが出てきていた。
もう満足にプレイできる体力もほとんどないことを自覚すると、玄斗は最後の力を振り絞って仕掛けることにした。
「武、ちょっと来て」
作戦を伝える。
「それでいいのか? 分かった」
武がクラスの中盤の位置まで下がり、前線が不在となる八組。その分少しだけ玄斗が前に出た。
蔵前は怪訝な顔をするが、特に何をするわけでもなかった。
するとその中盤に下がった武の元へクリアボールが飛んできた。
「おらぁぁっ!」
武はやけくそになったかのように大きく足を振りかぶり、前へその足を振りぬく。
高く前に飛んでいくボールの方向には誰もいない、と思いきや武がボールを蹴ろうとするその瞬間から玄斗が前へ走り出していた。
「なっ!?」
意表をつかれた蔵前は反応が遅れ、玄斗の後を追うがどうしても少し追いつきそうにない。
玄斗は蹴りだされたボールに追いつくと少しドリブルし、フリーでシュート体勢に入る。
「玄斗君っ!」
委員長の声が聞こえた。二回戦に続き応援に来てくれていたようだ。
「うわああああぁぁぁっっ」
そう大声を上げたのはシュートしようとしていた玄斗ではない、後ろから追いかけてきていた蔵前だった。
蔵前はボールを止めるには少し無理な距離にいた。だがそこからスライディングをすると、玄斗の踏み込んでいた足を後ろから刈りとった。
玄斗は予想外の出来事に上手く受け身を取ることもできず転んでしまう。
「いっったっ」
ズキズキとした痛みが走る。そこへ先生と武が駆け寄ってくる。
「てめぇ、いい加減にしろよ! 仮にもサッカー選手なんだろ、何考えてんのか知らねぇがやっていいことと悪いことがあんだろ!」
武は殴りかかる勢いで蔵前へ詰め寄るが、暴力はダメだと先生に止められる。
「蔵前君、今のは明らかなファールだし私にも故意に見えた。サッカー部の顧問の先生には厳重に注意するよう伝えさせてもらうよ」
「……はい」
武へは静観を貫いてた蔵前だが、流石に先生の言うことは無視できずかろうじて返事をする。
そこからはファールでPKを得た八組がそれを決め試合に勝利したが、なんとも後味の悪い球技大会となってしまった。