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十六話 球技大会①

 暑いを越えて熱い、と言いたくなるような日差しを受けて学校へ向かう玄斗。

 球技大会の競技種目が決まって三日後の金曜日、球技大会本番当日を迎えていた。


「暑すぎだろ……授業が無いのは嬉しいけど、なにもここまで晴れなくてもなー」

 学校に着くと、机にぐでーっと倒れてダルそうにしていた武が嘆く。


「結局あんまり練習できなかったね」


「それな。何を目標に頑張ればいいのやら。でも七組のあいつはギャフンと言わせてやりたいけどな」

 武はあの一件からサッカー部の男子を敵視していた。

 名前は蔵前 正人(くらまえ まさと)というらしい、とは武情報からだ。


「危ないプレーは気を付けてよ?」


「玄斗は甘いんだって、あれは怒ってもいいぞ」


「いやまぁ確かに悪意を感じたけど、実際ファールになる行為をされたわけでもないんだし。試合で負けたくないなとは思うけどね」

 玄斗は元サッカー部だったため、もっと汚いプレーがあることを知っている。

 コーナーキックのごちゃごちゃ時に相手の肩を押さえつけて跳んだり、悪意あるものでは意図的に足を踏みつけてきたり。

 そんな審判に見えないところで行われるマウント合戦のような行為に比べれば、あれはそこまで気にするようなことではないと思っている。


「よう玄斗、今日は負けんなよ! たまに試合覗きに行くからよ」

 玄斗と武が話している横から声を掛けてきたのは絵莉花だ。


「おはよう絵莉花。うん、僕なりに頑張るよ。絵莉花もバスケ頑張って」


(ウチ)らはスポーツ頑張ろう! ってやつなんていないから良くて一回戦突破が精々だよ。イガグリ、足引っ張んなよ」


「お、おぅ」


「じゃーな。また外でな」

 絵莉花はそれだけ言ってすぐクラスの女友達のほうへ向かって行った。


「なんで松下にあんな言われ方しなきゃなんねぇんだよ。いいよなー玄斗は。応援してくれる女子がいてよ」


「ん? 武は絵莉花に応援して欲しいんだ?」


「ちげーよ! 誰がどうこうじゃなくて、応援してくれる人がいるってだけで良いことだよなって事だ」


「分かってるよ。そんな真剣に怒らなくても」


「けっ」

 笑って返した玄斗に対し、不貞腐れるようにする武。


 そこからすぐに先生が入って来て話が始まった。

 それが終わると男子は外の運動場へ集まる。



「……正々堂々プレイするように。では対戦相手などは随時そこに張り出しているトーナメント表に記入していくので、自分たちの試合が終わったら確認するように」

 説明を聞き終わり、早速十分後から試合が始まるようだ。


「玄斗見にいこーぜ」

「うん」


 最初の試合の組み合わせは先生から通知されていたが、武は恐らく七組といつ当たるのかを知りたいのだろう。


「げっ、あいつとは当たっても決勝かよ」

 七組は左端。玄斗たちの八組は右端に位置していた。


「じゃあ勝たないとね」

 そこまでやる気ではなかった武に、頑張る要因が出来て嬉しそうにする玄斗。


 コートへ到着すると、二組対七組の試合が始まっていた。

 前半は1-1で折り返した。


「あいつが出てきたら厳しそうか」

「そうだね」


 球技大会のサッカーは前半・後半で行われるが、サッカー部に所属している生徒はそのどちらかにしか出られないことになっている。

 そのため、サッカー部の蔵前を温存して引き分けで後半へ折り返した七組が優勢になる。


『ズシュウウッ』

 その蔵前は前評判通り二点を決め、七組が3-1で勝利した。


「二組はサッカー経験者無しだったのに頑張ったほうだな。じゃあ次は俺らの試合だし行こうぜ」

 試合はもう一つのコートで行われるためそちらへ移動し、試合に備える。


「よっしゃ。ナイスパス玄斗!」

 経験者が三人いる八組が安定して点を重ね、後半最後には武が得点を決めて終了のホイッスルが鳴った。


「武のゴールが見られるとはね」


「いやぁ~、サッカーっていいスポーツだよなぁ」

 暑いだのサッカーは難しいだのと言っていた武はどこへやら、初めてのゴールですっかり調子に乗っていた。


 今回の球技大会は、勝ったクラスの試合が続くのは当たり前だが、負けたチームも敗者トーナメントに別れて一つずつ順位を決めるため、空き時間も多くなっている。

 午前では玄斗たちは二回戦を終えたら昼休憩になる。

 二回戦を勝てば決勝に進むことになるため、後は決勝まで待機だ。


「よーし、やってやるぞ」

 時間は経ったが前の調子を維持している武を、少し力強く感じてしまった。


 武も玄斗も後半からの出番のためクラスメイトの試合を見守るが、0-0のまま前半を終えた。

 経験者を二人前半に持ってきていた玄斗たち八組だが、相手のクラスにいるサッカー部員に上手く対応されていた。

 それでも得点を許さなかったあたり、経験者二人も上手いのであろう。


「玄斗ー、こっちだ」

 やる気に満ちている武がパスをくれと激しくアピールしてくるので、とりあえず出しておこうと玄斗はパスを出す。


「いくぜっ」

 武は足を大きく振りかぶってボールを蹴ろうとするも、横からボールをつつかれて何もない空間を蹴ってこけてしまう。

 たまたまは二度続かないようだ。


 お互い攻め手に欠ける拮抗した戦いを繰り広げていた。

 玄斗はボールがコートの外へ出た時に何かチャンスはないかと周りを見渡していると、外に委員長の姿を捉えた。

 委員長は玄斗へ向かって軽く手を振ってくれた。

 応援してくれているようで、情けない姿は見せられないなと集中する。


「玄斗、今度こそ任せろ」

 相変わらず大きい声でパスを要求する武を確認し、前線へドリブルしながらチャンスをうかがう。

 相手クラスもそれを意識し、武方向へ注意を向けていた。


「武っ」

 玄斗が武へパスを出そうとする動作を見てパスコースを切ろうとしたが、玄斗はそれを囮にして逆方向へ切り返した。


「なっ!」

 相手の生徒は今までパスに徹していた玄斗に意表を突かれ、置き去りにされる。


 フリーになった玄斗はシュート体勢に入る。

 パアンッ、という音と共に蹴りだされたボールは真っ直ぐゴール方向にいき、ゴールネットを揺らした。

 周りで見ていた生徒たちも思わずおぉ~と低い歓声を上げていた。


 そのゴールが決定打となり、1-0で八組は勝利した。


「やったな、玄斗! まぁ俺にパスを出してても決めれてたけどな」


「うん、なんとか上手くいったよ。次は武にも上手く繋げるよ」

 気持ちよく勝利をおさめると、昼休憩になりそれぞれが散っていく。


「あっ、飲み物教室に忘れてきたから取ってくる」

「了解」


 玄斗はそう言って教室へ向かう途中の廊下を走っていると、横から呼び止める声が入った。


「調子良さそうだな。だけど決勝でもそう上手くいくとは思わないほうがいいよ」

 呼び止められた方向を確認すると、サッカー部の蔵前正人が立っていた。


「え?」

 まさかの相手になぜ話しかけてきたのだろうかと動揺していると、蔵前は威圧するように続ける。


「それと南海に何か吹き込んだみたいだけど、出来もしない協力をすると言ったり、根拠のない肯定をするのは無責任ってものだよ」


「南海って委員長のことだよね? どういうことなのか分からないんだけど……」


「しらばっくれても騙されないよ。南海の機嫌を取っていい気になるなよ、お前は絶対に倒す」

 なかば脅しのような雰囲気でそう言い終えると、蔵前は立ち去って行った。


「一体なんなんだ……」

 訳も分からない言いがかりをつけられるが、試合を頑張ろうと気持ちを切り替えることにした。



 




 


 





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