十五話 練習
球技大会の種目が決まったその当日、早速体育の時間があり、外のコートに集合していた。
「大体のルールはそんな感じだ。ミニコートでやるからオフサイドは無しでいく」
先生からサッカーの簡単な違反行為(ハンドや相手の足を直接蹴ったりなど)を聞き、準備運動をしてからすぐに試合形式の練習が始まった。
五人+キーパーの計六人で試合をすることになるが、どこのクラスも男子は十人前後しかいないため、ニクラス合同で行う必要がある。
今回は玄斗たちがいる八組と、七組の対戦形式だ。
「普通こういうのって、パスだのシュートだのの基礎的なことからやるんじゃねぇの? なんでいきなり試合なんだよ」
「さぁね。本番が近いから悠長にやってられないとかかな?」
とりあえず文句を言うスタイルの武と駄弁りながら試合を観戦する。
玄斗と武は控えスタートで交代するまで待機だ。
「学校側の都合で日にちが無いだけなのにな。まぁ俺はサッカーそんなに好きじゃないし、練習してもあんまり上手くならないだろうからいいんだけどよ、文句は言いたくなるよな」
「ネガティブになりすぎると良くないって。男子の面子をなんとか保たせることが出来るかもしれないからって、みんなやる気みたいだよ?」
「かぁ~~そっか。相変わらず理不尽な気がするけど、プラスに働く可能性があるなら前向きにやってみるかぁ」
そんなこんな言っていると前半が終わり、玄斗と武の出番がやってきた。
中央のキックオフから始まり、クラス内でパスを回していく。
武は前線でゴールを狙い、玄斗は中央で味方へパスを上手く繋いでいく役割だ。
「武っ」
玄斗からのパスでゴール前でフリーになっていた武へとボールが渡る。
優しいパスだったため上手くトラップを成功させると、大きく足を振りかぶってシュートする。
『ピューン』
シュートというのは強く低くが基本だ。しかし武のシュートはゴールのはるか上をふんわりと越えていった。
「おっかしいな」
武的には完璧に打てたつもりだったようだが、結果がついてこなかった。
どうやら野球だけでなく、サッカーのセンスもあまり無いみたいだ。
「武、インサイドっていって足の内側で蹴ったら上にいかないかも」
本当はもう少し違うところで蹴ったほうが速度も出るが、簡単に調整がきくアドバイスを告げる。
「へー、試してみるわ」
ほとんどがサッカーを練習したことも無い人の集まりなため、そうやって経験者がアドバイスをしたりポジションを変更してみたりしていると後半も終わった。
八組はサッカー経験者が玄斗を含めて三人いるが、玄斗以外の二人は前半に出ていたため少し忙しく走り回っていた。
七組はサッカー部が一人、経験者が一人のようだ。
「ただ蹴るだけって思ってたけど、割と難しいのな。キーパーは二度とやらねぇ」
武は落ち着きが無く、なぜかフラフラと前に出てはロングシュートを決められていた。
その失敗から今度はゴールに張り付いていたが、あっさりまた抜きシュートを決められた。
また抜きはやられると、経験者でも屈辱に感じてしまうプレイである。
「まぁ確かにキーパーは一番難しいかも。狙ったところに大体でいいから蹴られるようになると、楽しくなってくるよ」
「玄斗はあれだけやれてりゃ楽しいだろうな。派手なプレイは無かったけど、周りを上手く使ってたのが俺でも分かったもん」
「一応経験者だしね。でもやっぱり現役は違う、と感じるけどね」
試合をしている七組のサッカー部に所属している男子を見ながら言う。
「あれは気合い入りすぎじゃね? 初心者の集まりだってのにガチでやりすぎだろ」
「うーん、まぁそうだねぇ。サッカー部の面子ってのもあるんじゃない?」
一人でドリブルしてゴールを決める生徒を見ながら愚痴る武に苦笑しながら返すも、確かにもっとチームワークを意識してもいいんじゃないかと、玄斗は敵ながら思ってしまう。
「よーし、次がラストだ」
先生の掛け声で喋りは中断し、コート内へ向かう。
「げっ、あいつ居残りかよ」
「まぁまぁ」
さっきのサッカー部の男子生徒を見ながら嫌そうな顔をする武をなだめながら、試合開始の合図を待つ。
始まってみると、さっきとは一変してサッカー部の男子は大人しくしていた。
普通にパスをすぐに回し、ディフェンスを重視して引いたポジションにいる。
「おらぁぁぁぁっ」
武は掛け声と共に、最初に比べると随分とマシになったシュートを放ちゴールに向かうも、キーパーに止められてしまっていた。
玄斗もパスだけだと練習にならないと、ドリブルをしながら攻めあがる。
するとそこに、スライディングをしながらサッカー部の男子が突っ込んできた。
「っっった」
玄斗はそれに対処できずこけてしまい、受け身をしきれず少し体を痛める。
「おいてめっ、これは授業だぞ。あぶねぇだろ!」
そこに武が言い寄る。
「ボールに足がいってるしファールではないよ。それに授業だからって真剣にやらないのは違うんじゃないかな」
「武、僕は大したことないし大丈夫だよ、落ち着いて」
その玄斗の対応を見てサッカー部の男子は離れようとするも、玄斗のほうへ一瞬睨むような目つきを向けて去っていった。
「なんだよあいつ、気分悪いな」
「なんか睨まれた気がしたんだけど、気のせいかなぁ……」
モヤモヤが残る展開を最後に、初めてのサッカーの授業は終わりを迎えた。
(そういえばさっきの人、休日に委員長と話してた人だ)
初対面だったと思っていた相手を見たことがあることを思い出した玄斗だが、それでもやっぱり話したことも無いため、何故あんな厳しかったんだろうという疑問は解決しなかった。