十四話 落ち着き
玄斗が朝起きて学校へ行く道を歩いていると、珍しく武と会った。
「武と学校前に外で会うの初めてかもね」
「そういえばそうかもな。ソシャゲやってたらいつもより遅れてよ」
武は最近、女の子が馬のように走るゲームにハマっているらしい。
「ほどほどにね」
「はいはい。てかさ、今週は球技大会あんじゃん。サッカーだったら玄斗の雄姿が見れるだろうから楽しみだわ」
「ほとんど幽霊部員だったけどね……」
玄斗は小学生の頃からサッカーをやっていたが、中学二年生の途中からほとんど辞めていたようなものだったため、約二年間のブランクがある。
「でもやってた時はレギュラーだったんだろ? 俺なんかずっとベンチだぜ。野球だけは球技大会でやりたくねーな、バカにされそうだし」
「僕だって変に期待されても困るよ。今日やっと発表があるんだっけ?」
「確かな。それにしも三日前にやっと競技が決まるってどういうつもりなんだろうな。女子が室内でバスケすることはとっくに決まって通知もあったのに、男子はこれって理不尽すぎるだろ」
ぶつくさ文句を言っていると学校に着いた。
席に座り、続けて話していると誰かが教室に入ってきたのか、ざわざわしていた。
「あれもしかして委員長か!? 最近怒りっぽかったし様子が変だったけど、なんか心境の変化でもあったのか」
武が信じられない物を見たかのような様子でそう言ったが、玄斗からは入口が見えない体勢だったため、視線をそちらに向けて確認する。
すると、玄斗が知っている委員長とは全く違う印象の人物が立っていた。
普段はおさげ髪に眼鏡をかけていて、委員長という言葉を聞いてイメージする通りの姿をしていたが、今はそのおさげ髪がほどかれ、解き放たれていた。
眼鏡は変わらずつけているためかろうじて委員長だと分かるが、髪型一つで大分違った印象を受ける。
真面目で清楚、そんな感じだ。
「マジかよ、あのお堅い委員長がねぇ」
「柔らかい印象になったよね」
「正直あれならアリだ……」
武が失礼なことを言っているが、それほど衝撃だったのだろう。
しばらく教室が全体的にざわざわしていたが、先生が入ってくるとやっと静まった。
「球技大会の男子の競技はサッカーに決まった。体育の授業で何回かすることになるだろう」
そう言って先生が締めて出ていくと、男子が話し出す。
「朝言ってたことが現実になったな。うちのクラスは何人か経験者がいるみたいだし、割と勝てるかもな」
「僕も足を引っ張らない程度には頑張るよ」
武と玄斗がそう話していると横から声が掛かった。
「玄斗君、昨日の書類貰えるかしら」
委員長だ。改めてその姿を視界におさめると、最近の刺々しい感じが取れているのが分かるし、変わった今の髪型がとても似合っている。
昨日のことがきっかけで覚悟が決まり、良い結果になったようで玄斗は安心した。
「うん、これ。忘れてごめんね」
「いえ、私も怒るほどの事じゃなかったわ。それと昨日はありがとう」
「力になれて良かったよ。それと髪型変えたんだね、似合ってる」
「ちょっと気分転換にね。嬉しいわ、じゃあ」
そう言って委員長は去っていった。
それを見て、なぜか固まっていた武が動き出す。
「げ、玄斗お前。昨日はありがとうってなんだよ!? っていうかなんで委員長がお前を名前で呼んでるんだよ!」
「いや、委員長の相談に乗っただけで……」
「おい玄斗っ。 なんで委員長とイチャコラしてんだよ!」
武に問い詰められ始めたと思ったら、いつから隣にいたのか絵莉花まで加わってきた。
もうこれはどうしようもないなと判断した玄斗は、アハハハと笑って誤魔化すのだった。
最近まで武としか積極的に関わってこなかった玄斗だが、絵莉花と委員長との関わりは悪くないと感じていた。
初対面の女性に対しての苦手意識はまだあるのだが、大分マシになったように思う。