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十二話 事情①

すべてが長くなってしまいました……。

読みづらいかもしれません、申し訳ないです。

あと、年明けまで忙しいのとしばらく家にいないのとで更新できないかもしれません。

とりあえず委員長の話が終わるまではなんとか頑張ります。

 休日が終わり、また学校が始まる。


「玄斗~今度釣り行こうぜ、ハマってんだよ」


「うん、まぁ暇だったらね」

 平日の日課のような光景。

 ちなみに〇〇だったらは断る時の常套(じょうとう)手段だ。

 昔父親も一時期釣りにハマっていて、それに連れて行かれたが何時間かで小さめの魚が一匹しか釣れず、ただ退屈な時間だった記憶がある。

 それから釣り堀に行く機会もあったのだが、そこでは当たり前だが魚が一瞬で釣れる。もうこっちでいいじゃん、という玄斗の声で父親が苦笑いしていたのが印象的だ。

 あれから感性も変わっているだろうが、やっぱり少し気は進まない。


「お前のそれは信用できないんだよ……引きこもってばっかじゃ体に良くないぞ」


「分かってるけど、家で何かしてるほうが楽で、そっちでいいやってなるんだから仕方ないでしょ」

 玄斗は生粋のインドア派。実は中学二年生まではサッカー部に入っていたが、怪我を機に幽霊部員となり、実際は辞めていたようなものだ。

 その時にゲームやアニメにハマってしまい、今に至る。


「まぁいいや。そういや今週末は球技大会だけど、サッカーらしいぞ。そこくらい頑張ったらどうだ?」


「気が向いたらね……」


「はぁ~~」

 人の性格は簡単には変わらないものである。


 チラッと委員長のほうを確認すると、やはりどこか張り詰めた空気を感じる。


「HR後、提出の書類を私のところに出しに来てください」

 そういえば月曜日提出の書類があったが、玄斗は家に忘れてきてしまっていた。


 HRが終わり、クラスメイトが委員長の席へ書類を提出していく。

 どうやら忘れていたのは玄斗だけだったらしい。


「委員長、ごめん。書類忘れてて……明日出すから」

 そう言うと、委員長は張り詰めた糸が切れたかのように、怒り出した。


「あなたねぇ、何を考えて休日を過ごしていたの? 提出するのは私で、あなたには関係無いのかもしれないけど、自分のことくらいしっかりして」


「はい、ごめんなさい。気を付けます」

 ここまで怒られるとは思わなかったが、今回は玄斗が悪いので素直に謝る。ちなみにこういった忘れ物は初めてである。


 集まった書類を持って出ていく背中を見送り、やっぱりいつもと違う委員長に事情を聞いてみることを決意する。

 今はあれなので、放課後落ち着いてから。



「委員長、悪いんだけど少し時間くれるかな」

 放課後になり、帰り支度をしていた委員長に声をかける。


「椎名君。最近なにかと関わってくるわね、気のせいかしら」


「僕から積極的に関わろうとしたわけじゃないんだけど。委員長最近ピリピリしてるけど、原因はなにかな?」

 単刀直入に本題を投げてみた。


「突然なに? 書類を忘れたあなたが悪いと思うのだけど。なにか私が悪いのかしら」

 委員長のスイッチがまた入ってしまいそうだ。


「いや、それは僕が悪いよ。そうじゃなくて、ただ気になって」


「じゃあ関わらないでくれる? 確かに少し落ち着きが無いかもしれないけど、すぐに戻ると思うから」

 話してくれなさそうな様子を確認して、仕方ないかと踏み込んでいく。


「でも、女尊男卑の問題は早々に無くならないよ?」


「ばっ、あなたっ。こっち来なさい」

 委員長に引っ張られ、校舎裏辺りの人気のない場所に来た。


「椎名君、あなたが何を聞いたのか知らないけれど、あれは簡単に言っていいことじゃないわ」


「でも事実でしょ?」

 なおも踏み込む。


「それ以上言うと私も自分が何をしてしまうのか分からないわ」


「僕は委員長の考えは良いことだと思うけど。何も男尊女卑に戻せっていうんじゃなくて、男女平等が一番じゃん」


「簡単に言わないでっ。例え正しくてもどうにもならない事があるの。学生にはどうしようもない事柄が。私は、私は、大人になるまで耐えて、しっかりした大学を出て知識を得て、環境を整えないと……ただ淘汰(とうた)されるだけなのよっ」

 スイッチが入ってしまったのか、委員長は(せき)を切ったように言葉を吐き出す。

 後半になるにつれ涙目になっていくが、決してそれを流さないように。


「ごめんね、簡単に言って。委員長がどれだけの想いで、どんなことが過去にあってそう考え、我慢しているのか分からないのに、軽々しく言ってしまって」

 委員長は少し落ち着いたのを確認し、玄斗は続ける。


「ただ、それを溜めて一人でずっと耐えてたら、委員長が潰れちゃうよ。どこかで吐き出さないと……僕でよければ聞くよ? 頼りないかもしれないけど、話は聞けるし否定しない」


 十秒ほどの沈黙が流れ、委員長が口を開く。


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいけれど、なんでそこまで言ってくれるの? 私は椎名君に何もしていない、いえむしろ当たってばかりだったと思うのだけれど」

 落ち着き、話し始めた委員長だが、やはり過去に何かあったのだろう。疑問もあるが、怪しんでいる感じがある。


「なんでだろうね、自分でも説明できないんだ。委員長を見てたら、なんか怒られても心配のほうが勝っちゃって。世の中なにが正しくてなにが間違っているのか、そんなことは分からないけど、自分が正しいと信じてることは他人が完全に否定していいものではない、と思うんだ。少なくとも女尊男卑を無くすっていうのは僕も賛成な訳だし」


「そう……」

 少し考え込むように黙る委員長。


「椎名君、悪いんだけど少しだけ話しを聞いてくれる?」

「うん」

 委員長は深呼吸を数回する。


「そうね、じゃあ私が今の考えになったきっかけをとりあえず話すわね」


「私は女尊男卑をそのまま表現したかのような家庭で育ったの。母親は働かず、家事もほとんどすることなく遊び歩いて。なのにパパには厳しくしてて、パパが働いて得た金も母親が管理して使っていたの。パパはそんな現状にも文句を言わず、忙しく働く日々。そう、命を削るかのように必死に。でもパパは自分が厳しい状況なのに私にずっと優しくしてくれて。何かをしてもらった思い出はパパのものしかないわ」

 相槌を入れる暇なくまだ続ける。


「でもやっぱり無理がたたって、たまに倒れるように意識を失うことがあったの。入院してた時もあるんだけど、それだと私の家庭は回らないからそれでも無理して働いて。私が小学生の頃、とうとう限界が来てね、過労死だって唐突に告げられた。私は母親を恨んだわ、こいつが大好きなパパを殺したんだって。でもそう証明することは出来なくて、ただ手元にお金が入っただけ。母親はお金が入ったことに喜んでいて私は言葉を失って家を出たの、パパの母親、おばあちゃんの家にお世話になって。そのことがあってからね、女尊男卑が原因なんじゃないか、あんなものが無ければパパはもっと楽をできたんじゃないかって」


「そっか、そんなことが……」


「もちろん女尊男卑の考えが無かったとしても同じだったかもしれない。不和な家庭ならここまでは無かったとしても、似たようなことにはなっていたかもしれない。でも、何かに当たらずにはいられなかった。あの母親に言っても何も変わらない、なら世の中に浸透しているクソみたいな考えを無くして、私みたいな事例を無くしてやろう、って!」

 

 あれだけ話すのを躊躇っていたのに、今まで話すことがほとんど無かったからだろう、一度話し始めると、溜まっていたたくさんの物を吐き出していった。


「委員長、辛かったよね。でも僕が同情しても気休めにしかならないと思うから、別のことを。委員長は凄いと思う、普通文句を言って泣き叫んで悲しんだとしても、それを他の人のことも考えて行動しようとする行為はなかなかできない、僕にはできないしね。そんな委員長を尊敬するし応援するし、なにか出来るのなら協力したいと思う」


「ありがとう椎名君、少し救われるわ。でもね、そう訴えてももう今の現状が当たり前になっていて、受け入れられないの。最初私がそれを言ったときは周りに否定されてへし折られてしまった。男女平等で幸せな家庭なんて存在しないし、そんな理想論だけを並べて何が変わるんだ、今を満足している人がいるんだぞって。私も両親が仲良くて子供も満足していてって家庭を見つけることができなくて、そんな家庭は無いのかもって絶望したことはあるし、今でも無いのかもしれないって思ってしまっている。でもっ、私は大好きなパパのため行動しなければという一心でっ」

 

 また泣き出してしまいそうな勢いだ。

 だが玄斗は話を聞いていて思い当たることがあった。


「委員長、もしその両親が仲良くて幸せな家庭を確認することができたら、委員長の不安も薄くなるかな?」


「っそれは……確かに空虚な目標が確かなものになるのであれば、私も前を向いて歩くことが出来る。何を言われても気にせず、目標に向かって進むことが出来るかもしれないけれど」

 そんなものは無いのだと半ば諦めた反応を見せる。


「そっか。委員長この後予定あったりするかな?」


「いえ、無いけれど……」


「じゃあちょっとついてきてもらえるかな? 話を聞かせてくれたお礼が出来ると思うんだ」


「え、えぇ」

 委員長は溜まっていたものを吐き出せて少しスッキリしたが、口にすることで目標が遠いことを更に実感してしまった。

 そこへかけられる玄斗の唐突な言葉に、考えがまとまる前になんとなく頷いてしまった。
















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