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十一話 休日

「ねぇ武、委員長って過去に何かあったのかな」

 翌日の朝、いつもの会話の中である。


「あれ、もしかして昨日許してもらえなかったのか?」


「いや、誤解は解けてむしろ謝ってもらったんだけど。ちょっと思いつめた様子でいつもの委員長じゃなかったのが気になって」


「なら良かった。さぁなー、あの女尊男卑無くすのが、みたいな噂関係で揉めたりしたんじゃないか? 女子は今の状況に満足だし、男子も下手に乗ると女子に何されるか分からなくて乗れないだろうし、いかにも問題の種っぽいじゃん」


「確かに」


「まぁ噂の域を出ないし、委員長が本当にそう思ってるのかすら謎だけど。まだ出会って二か月の俺らじゃ何も分かりようがねぇよ。確か委員長と中学が一緒の奴が二人くらいいたはずだし、そんなに気になるならそっちに聞いてみれば?」


「そうだね、ありがとう」

「おう」


 武の真面目過ぎる返答に驚いてしまったが、茶化すようなことはやめた。もしかしたら前助けられたことを気にしているのかもしれないし、素直に感謝する。


 委員長と中学が一緒だという二人のうち一人は昨日の女子生徒だろう。昨日のあの感じを見るに、下手に聞こうとすると委員長に飛び火しそうで怖い。となるともう一人のほうになるが、全く情報がない。


「僕が気にしすぎても迷惑だったりするかな……もし機会があったら聞いてみる程度にするよ」


「そうだな、いいんじゃねぇか」


 そんな機会が簡単に訪れることはなく、休日を迎えた。


「おはよ~」


「おはよう、玄斗。休みだからって随分と重役出勤だな」

 からかうように言う父親。


「昨日夜遅くまで起きてて……ちょっとご飯食べたら本買いに行ってくるよ」


「はいよ。玄斗に彼女が出来る日はいつになるのかね~」


「もうそれは聞き飽きたよ……」

 父親は結婚を最大の幸せと感じており、昔から玄斗に、母さんみたいな人を見付けるんだぞと言ってきていた。

 玄斗は女性が未だに苦手気味ではあるし、したとしても尻に敷かれる未来しか見えず、縛られるだけなら一人のほうが……と思っている。まぁそんな相手も機会も無いだけなのかもしれないが。

 あの保育園の頃にあった、鏡子からの告白が男女のうんぬん最後の出来事であった。


「よし、買えた」

 本の発売日は昨日だが、玄斗は地方に住んでいるため、東京などに比べて店頭に置かれる日が遅れる。

 最初はそのことに不満を持っていたが、もうすっかり慣れたものだ。

 電子書籍も利用しているが、紙で読むのがそもそも好きなのと、好きな作品の続きは集めて本棚に置きたいというコレクション精神から、こうして月に一度ほど書店に来る。


 目的を達成してもう帰ろうかなと思って歩き出すと、委員長が歩いているのが見えた。

 どこか怒っている様子で、早歩きになっている。


「最近は委員長の不機嫌な顔しか見てないな……」

 なんとなく目で追っていると、約束をしていた相手だろうか? 男の人に話しかけていた。意外過ぎる。

 その相手はどこかで見たことあるなと思っていると、同じ学校で同学年のサッカー部の男子であることを思い出す。


 あの相手に怒っているのか、委員長は不機嫌に何かを言っているようだ。

 クラスメイトである委員長が何かされているのか? という心配と、また不機嫌の末に玄斗に当たられても嫌なので、申し訳ないが話の聞こえる距離まで近づく。

 短い期間で二度目の盗み聞きのような行為に、自分でも不審な行動だと思うが、決して委員長のストーカーではない、はずだ。


「もう関わらないでって言ってるでしょ。同情してあげている自分に酔ってるんじゃない?」

 委員長は相当お怒りの様子だ。


「俺に何か出来ることがあるなら言って欲しいだけなんだ、南海(みなみ)


「何もしてくれなかったじゃない! それが高校生になったからって何が変わるの? なんでよりにもよってあなたたち二人と同じ高校に行かなきゃなんないのよ、放っておいて!!」

 男子生徒に一方的に言い切ると、委員長は去っていった。男のほうはその背中を悲し気に見つめていた。


「あのー」


「ん?」

 玄斗は残された男子に思わず声をかけた。


「委員長って過去に何があったんですか?」

 それを聞くと男子生徒は驚いた様子を見せたが、冷めた目を向けてきた。


「委員長って言ってるってことは南海のクラスメイトかな? さあね、何も知らないよ。それに例え知っていたとしても、何かを聞きたいなら本人に聞くべきだ、俺が言えることはない。それじゃ」

 

 玄斗は自分がどうしたいのか、なぜこんなに委員長の事情が気になるのか。

 不思議な気持ちでその場に立ち尽くしていた。


 三十秒ほど経っただろうか、とりあえず家に帰ろうと歩き始める。


「おい、もっと目線上げて歩かないと危ないぞ」

 聞いたことのある声に今度は玄斗が振り向く。


「よっ」

 そこには私服の絵莉花が立っていた。なんだか眩しい。


「松下さん!? ど、どうも」


「一人で何してんだ?」


「本買って帰るところだけど……」

 それを聞きニヤッとする絵莉花。


「暇ってことだな、じゃあ付き合えよ。私もちょっと暇してたんだ。約束ドタキャンされちゃってよー」


「ちょっ、帰って本読みたくて」

「まぁいいからいいから。そんな長く取らねぇよ」


 絵莉花に連れられてカラオケに来た。女子と二人でってだけでもハードルが高いのに、玄斗は普段アニソンしか聞かないため絵莉花の前で歌えるような曲すらない。


「まずは玄斗からな、楽しみにしてっから」

 獰猛な笑みを浮かべている。

 逃げられないと悟った玄斗は、かろうじて知っている有名曲の一つを入れた。これなら変に思われることも無いだろう。


「すげーベタなところだな、まぁ期待するか」


「頑張ります……」

 カラオケなんて玄斗は随分と久し振りだが、何を言われるか分からないため全力で歌う。


「終わったけど……」

 なんだか玄斗が歌い始めると、絵莉花は真剣な顔に変わっていった。歌い終わるまで何も言いださず、どういうことなのかとビクビクする。


「へー意外と上手いじゃん。楽しくなってきた」

 どうやらお気に召したらしい。

 次は絵莉花が曲を入れたが、玄斗は知らない曲だった。


「~~~~~~~♪」

 普段聞く印象と態度とは違う、女らしい歌声にドキッとしてしまった。


「あ~スッキリした」


「上手だったよ。普段からよく来るの?」


「あんがと。ん~まぁたまにな。それより早く次入れろよ、時間限られてるんだしさ」

 そう言われ曲を探すも、いかんせんアニソン以外はほとんど知らないため簡単に決まらない。


「玄斗って普段どんな曲聞いてんの?」

 そう突然聞かれ困ってしまい、正直に話す。


「実は、アニソンばっかりで……」


「じゃあそれでいいじゃん。何悩んでんの?」

 当たり前かのように言ってくる。


「えっ、でも松下さんアニソンとか知ってるの?」


「知らないけど」


「じゃあやっぱり良くないんじゃ……聞いてても楽しくないだろうし」


「いーんだよ、歌ってる本人が満足してれば。気遣って歌いたくない曲歌っても楽しくないだろ。私も好きに歌うからよ」


「分かったよ、じゃあそうする」

 絵莉花からの言葉で終わりの時間までひたすらアニソンを歌い続けた。絵莉花が歌っている曲もほとんど知らなかったが、それでも割と楽しかった。こんな時間も良いな、と思えるくらいに。


「あースッキリした! 玄斗も普通の顔に戻ったじゃん」


「えっ?」


「いやなんか嫌な事か心配な事でもあったのか知らないけど、難しい顔してたからよ。じゃあカラオケで歌ってスッキリすればいいかなって思ってよ」

 どうやら委員長のことを考えていたのが、落ち込んでる様な感じに見えてしまっていて、気にしてくれていたらしい。


「そうなんだ……ありがとう」


「まー私が歌いたい気分だったのが一番だけどな! じゃあ帰るか、私はこっちだから」

 帰りは玄斗と逆の方向らしく、そっちへ歩き出す。そこへ玄斗が声をかける。


「絵莉花! 今日はありがとう、楽しかった! また機会あったら遊んでくれると嬉しい、です」

 絵莉花はそれにビックリした表情で振り向き、すぐにニカッと笑う。


「おう! 最後のですは格好つかないけどな笑 また学校でな」


 この日はよく眠れた。




最初の頃と八話からとで絵莉花の口調が変わっていますが、友達相手には普段からこんな感じでした。

意識の変化で、本来の感じをオープンに出すようになりました。

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