76、特別食堂と研究会
話が盛り上がっていたが、公爵家の屋敷に着いたので、一度話はやめて屋敷に入ることにした。
ステファンとマルティーヌが来るという急な事態だが、俺たちが馬車で数分待ってる間に色々整えてくれたようだ。やっぱり公爵家の使用人、めちゃくちゃ優秀だな。
俺たちは屋敷で一番豪華な応接室に入った。お茶を用意してもらい、使用人や護衛は下がらせたので部屋には四人だけだ。
「それでさっきは話が脱線したけど、昼食に招待をする形で、たまには共に食事をするのでいいか?」
ステファン様がそう切り出した。
「私は……レオンとリュシアンと昼食を共にするためならば、他の方達との食事も我慢しますわ」
「それならば、たまには共に昼食を取ろう。貴族の子息子女との交流を深めるために王家の特別食堂に招待する、という形でいいだろう」
それだと俺はどうなるんだろう? 平民の俺も王家の特別食堂に入ることができるんだろうか?
「ステファン、俺は平民だけど王家の特別食堂に入れるのか? というか平民も招待できるのか?」
「ああ、レオンは公爵家の後見付きだから、リュシアンと共に招待すれば大丈夫だろう。それに、そもそも特別食堂へ誰を入れるかは借りている家の自由なんだ。私たちが王族だから、少し気を遣わないといけないだけだ」
そうなのか、それなら俺も入れそうだな。この流れで俺だけ仲間外れは少し寂しいから良かった。
「そうなんだ。俺が入れるなら良かったよ」
「そこは心配いらない。ではまとめると、王家と公爵家は別々で特別食堂を借り、レオンは普段公爵家の特別食堂で食事をする。王家が高位貴族の子息子女を昼食に招待するので、その形でたまには一緒に昼食を食べる。これでいいか?」
「うん。それでいいと思う」
「私も問題ないと思うぞ」
「ええ、私もそれで良いですわ」
「じゃあ決定だな。帰ったら通達を出す準備をしておこう」
凄いよな、こんなふうに気軽に話してるだけで、決まっていくことが大きい。さすが王族だな。
俺たちは話が一段落したので、お茶を飲んで少し落ち着いた時間を過ごした。さっきまで話し続けていたから喉が渇いていたのだ。
よし、とりあえずこの話は一旦終わりだよな。俺、研究会について聞きたかったんだ。今話してもいいかな?
「とりあえず昼食の話は終わりでいいよね? 俺、皆に聞きたかったことがあるんだけど、今話してもいい?」
「ああ、なんの話だ?」
「研究会のことなんだけど、さらっとしか説明されなかったからよくわからなかったんだ。皆は詳しいこと知ってる?」
俺の今のところのイメージは、大学のサークル活動みたいな感じなんだけど、どうなんだろう?
俺の疑問にはリュシアンが答えてくれた。
「研究会は、先生たちの研究を手伝う学生の会って感じだな。王立学校の先生たちは、自分の専門分野の研究者でもあるんだ。その分野に特に関心がある学生が先生の部屋に集まり出したのが始まりで、今では研究会という名前がついて、専用の建物があるようになったみたいだな」
なんか俺のイメージと少し違ったな。サークルっていうよりは大学のゼミ活動みたいだ。先生主体の研究会ってことだな。
「なんとなくイメージは掴めたよ。確か先生の許可があれば入れるんだよね? 皆は研究会に所属するの?」
「いや、研究会には一部の生徒しか所属しないから、そもそも考えてなかったな。レオンは所属したいのか?」
「うん。ちょっと興味あるんだよね。一番興味あるのは魔法具研究会かな」
どんな研究をしてるのか興味がある! 新しい魔法具の開発なのか、今までの魔法具をより良くする開発なのか。
この世界の魔法具は、スイッチ機能がないところがすごく不便なんだ。そこを改善できたら魔法具がかなり便利になるはずだ。研究会ではそこの研究をしたいな。
俺は新しい魔法具の開発を止められているけど、既存の魔法具の改良ならいいんじゃないだろうか? それなら登録もしないだろうし。
それに、全属性をバラさないようにすればいいのなら、回復属性でできる魔法具なら良いよな!
「そうか……レオンが所属するのならば私も一緒に所属しよう」
「え? いいの? もし帰りの時間が合わなくなるのが不便だとかなら、俺は歩いて帰るのでもいいけど?」
公爵家は、ゆっくり歩いても三十分かからないからな。全然苦痛じゃないし良い運動になるだろう。
「いや、そういうことではない。ただレオンの近くにいると面白そうだからだ」
なにその理由。リュシアン、俺のことびっくり人間みたいに思ってない?
「それならば、私も魔法具研究会に所属しよう」
「私も所属しますわ」
え!? そんな簡単に決めていいの!?
「皆、俺に気を遣わなくていいんだよ?」
「気を使ってるわけではない。ただ、レオンは沢山魔法具を開発していただろう? 開発する過程が気になっていたんだ」
「そうですわ。レオンの近くにいると勉強になることが沢山ありますもの」
これは……喜んでいいのか? まあ、皆と一緒に所属できるなら、楽しそうだからいいか。
でも、先生と先輩がびっくりしそうだ……急に公爵家の長男と第一王子、第一王女が来るんだからな。
ごめんなさい……先生と先輩。
俺はまだ見たこともない人たちに、あらかじめ謝罪をしておいた。なんか、俺のせいで凄いことになっちゃったよ。
「じゃあ、皆で一緒に魔法具研究会に所属しようか。所属するにはどうすればいいのかな?」
「所属するのなら早い方がいいだろう。明日の放課後に皆で集まって、魔法具の先生のところへ行こう」
「それならば、また私たちがレオンを迎えに行こうかしら?」
いや、それはやめてくれ!!
「マルティーヌ、それは目立ちすぎるよ。一階の玄関ホールで集合じゃダメかな?」
「まあ、それでもいいわね」
「じゃあ明日の放課後に、玄関ホールに集合としよう」
ステファンがそうまとめて話は終わった。明日も大変だな……
まず明日は、教室に入った途端に注目される可能性が高い。それからロニーに説明しないといけないし、サリムがどう接してくるのかもわからないし、考えるほど憂鬱になる。
ダメだ! 楽しいことを考えよう!
久しぶりの授業楽しみだし、研究会の様子も興味がある。楽しみだ。うん、楽しみだ!
「明日からが楽しみだね」
「ああ、レオンに会ってより楽しみになった。レオンといると退屈しなそうだからな。同じクラスならもっと良かったんだが」
「私も同感ですわ。今からでもレオンを同じクラスにしたいくらいですわ」
それだけは絶対にやめてくれ! 高位貴族のクラスに、一人平民とか絶対に無理!
というか、そんなことができるのか? 王族の権限でできるのか?
「それは流石に無理だよね……?」
「まあ、流石にそれはできないだろう。できるのならば既にやっている」
できなくて良かったぁ……セーフ!
「俺は今のクラスに馴染んでるから、このままでいいよ」
「そうなのか? でも初日から揉めてなかったか?」
リュシアンが余計なことを言った。それは忘れてって言ったのに!
顔がちょっと面白がるような感じになっている。リュシアンのいじわる!
「確かに今日の様子だと、クラスに馴染んでるとは言えない気がするが……」
ステファンがちょっと笑いながらそう言った。皆忘れてって言ったのに!
「大丈夫だよ! あれはちょっと思い違いみたいな感じだから……多分、明日には仲良くなれるよ!」
多分表面上だけなら、関係回復はできるはずだ。タウンゼント公爵家の後ろ盾があることが分かっただろうから、表立って何かをしてきたり言ってくるようなことはないだろう。
あいつが馬鹿じゃなければ……馬鹿じゃないよね? なんか不安になってきた。
「それならいいけど」
「うん。大丈夫だよ。それに仲良くなれた友達もいたんだ」
「そうなのか? なら今度合同授業の時にでも紹介してくれ」
紹介……ロニーを紹介したら緊張でぶっ倒れそうだな。でも少し慣れてくれば大丈夫だろうか?
「名前はロニーって言うんだけど、今日はすごく緊張してたから、もう少し慣れてからの方がいいかも」
「それならレオンのタイミングで紹介してくれ」
「わかったよ」
「私にもよろしく頼む」
「私にも紹介して欲しいわ」
「勿論だよ」
ロニーごめんね、三人に紹介することになっちゃったよ。俺は内心でロニーにめちゃくちゃ謝った。
「マルティーヌ、そろそろ時間だから帰ろうか」
「もうそんな時間になりましたの? 本当ですわ。楽しい時間はあっという間ですね」
俺も時計を見てみると、もう結構時間が経っていた。俺たちは応接室を出て、玄関ホールまで来た。
「ではまた明日」
「また明日お会いしましょう」
ステファンとマルティーヌはそう言って、王家の馬車の方に歩いていく。
「はい。お気をつけてお帰りください」
「また明日、お会いできれば嬉しいです」
俺たちもそう言って二人を見送った。それにしても長い一日だったな。
ふぁ〜、なんか疲れたよ。俺は欠伸を一つして屋敷に帰ろうとしたところで、ふと思い出した。そういえば、一つ気になってたことを聞き忘れたな。今まで色々あって完全に忘れてたけど、思い出すとめちゃくちゃ気になる。どーでもいいことかもしれないけど気になる。
俺は屋敷に戻ろうと歩き出したリュシアンを引き止めて、小声で聞いた。
「リュシアン、Aクラスの教室にある机と椅子ってどんな感じなの?」
「机と椅子? 何でそんなこと聞くんだ?」
「いや、クラスによって差があるのかなって気になってたんだ」
「そういえば……確かにレオンのクラスにあるものは、私のクラスのものと違ったな」
「やっぱりそうなの?」
「ああ、私のクラスのものは一回りほど大きくてクッションが座面と背面にあったぞ。確かレオンの椅子にはなかったよな? あと、装飾ももっと豪華だな」
やっぱりかぁ〜、身分に差はないっていっても全然あるな。まあ、それは建前だけだって言ってたし。そもそもクラスも身分の順で分けられてるしな。本当に平等なら身分関係なくクラス分けするだろう。
これが王立学校の常識なんだろうから、俺が馴染んでいくしかないな。
「リュシアン、教えてくれてありがとう」
「ああ、こんなことが知りたかったのか?」
「うん」
「それならいいんだが……」
リュシアンが不思議そうな顔をしている。身分によって設備に差があることに、全く疑問を感じていない証拠だな。これがこの世界の普通だ。
「疲れたから屋敷に戻ろうか」
「そうだな」
う〜ん、本当に疲れたから今日は早く寝よう。明日からまた大変だからな。
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