453、領地開発開始!
王都やその他の地域にまで広げて大公領に来てくれる人材を募集してから、すでに数週間が経過した。そろそろ大公領に向かってくれた人たちの第一陣が到着する頃なので、俺も領地に向かおうと思う。
家族皆が領地に向かうのはもう少し後なので、今回は俺とロジェ、ローラン、それからアルノル、ルノー、ティエリが一緒に行く。
とは言ってもファブリスに乗れるのが最大で六人なので、大公家で元々働いてくれていた使用人で領地に向かってもらう人たちの中には、もうすでに馬車で出発してもらっている人も多くいる。
ジェロムとその家族皆は少し前に出発していったし、王都邸にいた兵士たちも大部分を領地に送り出した。兵士は圧倒的に数が足りないんだよね……とりあえず王都でならいくらでも兵士を補充できるから、移住をしたくないと希望した人以外はほとんど全員に領地へ行ってもらった。
「アルノル、兵士の補充って上手くいってる?」
「はい。そちらは問題ありません。応募が多く選考に時間がかかっておりますが、有望な者からどんどん採用しております。中には領地に行っても良いという者もおりますので、領地の兵士も少しは増やせるかと」
「そっか。良かったよ」
治安維持のためにも兵士は重要だからな……街を作るにあたって絶対に必要な人材なのだ。
「じゃあ皆、準備は良い? 大丈夫なら順番にファブリスに乗って欲しい。ファブリス、今回もよろしくね。六人も乗るから重いけどごめん」
『問題ない。我にとって人が六人など綿毛が乗っているようなものだ。それよりも主人、向こうに着いたらスイーツが食べたいぞ』
ちょっとドヤ顔で自分の凄さをアピールしてから発した言葉がミシュリーヌ様そっくりで、俺は思わず笑ってしまう。
「分かった分かった。ホールケーキをいくつもあげるよ」
『うむ、楽しみにしている』
ファブリスと話を終えて最後に俺も乗ろうと皆のことを振り返ると、まだ一人だけ乗れてない人がいた。ティエリだ。
前は皆を転移で乗せてたけど、最近は台を置いて乗ってもらうようにしたから怖いのかな。
「ティエリ、怖いなら転移で乗せようか?」
「はっ……い、いえ、申し訳ございません! すぐに乗らせていただきます……!」
ティエリは呆然と開いた口を慌てて動かすと、身軽にファブリスの上に乗った。怖かったんじゃなくて、ファブリスに乗って移動することに驚いてたのか……確かによく考えたら、神獣に乗るとか凄いことだよな。
他の皆が当たり前のように乗ってくれたから、あんまり考えてなかった。俺の近くでずっと一緒に働いてくれてる人はもう慣れてるだろうけど、新人さんは使徒とか神獣って存在だけで恐れ慄くことを忘れないようにしないと。
「じゃあ転移するよ」
俺は皆が乗ったことを確認して、バリアで全員を固定してから転移を発動させた。今の俺の転移だと、大公領まで半分ぐらいのところまでは飛べる。
あと倍の距離を転移できるようにならないといけないのか……遠いな。でもマルティーヌに頻繁に会いに行きたいし、週に一度は執務室に顔を出す約束だし、マリーが王立学校に通い始めたらマリーに会うためにも王都と領地を行き来したいし、やっぱり魔力量を増やすのは必須だ。
「じゃあファブリス、後はよろしくね」
『相分かった』
マルティーヌも一緒に大公領に行ければ良いんだけど。婚約者の立場ではそこまで大公家に長時間いるわけにはいかないし、さらには王女様だから王都から出るのはあまり許可が降りないし難しいんだよなぁ。
早く結婚したい……まだまだ先だけど。
そんなことをつらつらと考えていると、俺は柔らかなファブリスの上で眠りに落ちていて――
――ファブリスの声でハッと意識が覚醒した時には、太陽の位置がかなり変わっていた。
『主人、そろそろ着くぞ』
「え、もう着くの?」
時計を見てみると確かに時間は経ってるけど、前よりも早い気がする。
「ファブリス、走るのが速くなったんじゃない?」
『そうか? 確かに最近は人を乗せて走ることに慣れたかもしれんな』
「そういうことか。凄くありがたいよ。移動時間は勿体ないからね」
『……我に任せろ』
おお、ちょっと速度が速まった。褒められたのが嬉しかったのかも。ファブリスって分かりやすくて可愛いよな。
それからは張り切ったファブリスのお陰もあって、数分で大公領の礼拝堂前に到着した。まだ誰もいないけど途中で馬車が遠くに見えたから、そろそろ第一陣が到着するだろう。
「皆が来るまでに少し整えておこうか。一番最初に来るのって誰か分かる?」
「出発した順ならば最初はマリヴェル商会のダルセルと商会員、さらにジェロムとそのご家族、そして建築工房と食堂で働く予定の者達です」
ダルセルは部下じゃなくて自らここに来てくれるのか。それほど大公領の開発に力を入れてくれるってことだよね……ありがたいな。
「じゃあ商会の予定地近くの住居から整えていこうか」
正式な住宅が完成するまで住んでもらう予定の、ただの土で作った小屋のような建物だけど、ベッドとテーブルと椅子を設置すれば少しは居心地が良くなるだろう。
「かしこまりました。ではレオン様、手分けして整えるためにアイテムボックスの魔法具に家具を入れていただけますか?」
「了解。いくつかに分けるから皆に頼むよ」
それから俺たちは手分けして住居を整えて、さらには商会や工房とする予定の建物の中まで整え始めたところで、第一陣の馬車が到着した。