452、少し休憩
マリヴェル商会を後にした俺は、家族皆に声をかけて外の東屋でお昼を食べることにした。たまにはこういうのんびりした時間も必要だよね。
「レオン、最近忙しそうだけど大丈夫?」
東屋の椅子に腰かけると、すぐに母さんが心配そうに声をかけてくれた。皆に心配されるほど忙しそうに見えてるのか……もう少しゆっくり領地経営しようかな。
「大丈夫だよ。これからはもう少しゆっくりするし」
「それが良いよ。レオンは頑張りすぎるからね」
「空いた時間で私とお茶会しようね!」
マリー、俺とお茶会したいと思ってくれてるのか。絶対に、絶対に時間作る……!
「お茶会しよう。明日が良い? 明後日? それとも今日この後にする?」
「ふふっ、お兄ちゃんそんなにお茶会したかったの?」
「めちゃくちゃしたかった……!」
俺のその返答にマリーは楽しそうに笑って、お茶会の予定を考え始めてくれた。やっぱりマリーは最高の妹だ……可愛いし優しいし賢いし、欠点が思いつかない。
「明後日で良い? 明日は私が忙しいから」
「もちろん良いよ。明後日は一日空けておくから」
「レオンは本当にマリーが好きよねぇ」
「父さんたちよりもマリーの結婚相手に厳しそうだよ」
父さんが笑いながら言ったその言葉に、俺は真剣に何度も頷いた。マリーの結婚相手は生半可なやつには任せられない。少なくとも俺より強くないと。
いや、でもマリーが選んだ相手なら反対できないかもしれない。だって反対してマリーに嫌われたら……考えるだけで泣ける。
「――マリーの結婚はまだまだ先だから」
「そんなこと言ってたらすぐよ〜。マリーは王立学校に行くんでしょ? それならそこで相手が見つかるかもしれないじゃない」
確かにそうだよな……うぅ、成長して欲しくないけど成長は嬉しい。めちゃくちゃ複雑な気分だ。娘を持つ父親ってこんな感じの気持ちなのかな。
「そういえばお兄ちゃん、領地を作り始めるんだよね?」
「そうだよ。最近は本格的に準備を始めたんだ」
「じゃあお兄ちゃんはこれから領地に住むの? 私たちも?」
「うーん、俺は領地にいることは多くなるだろうけど、こっちにも頻繁に帰ってくるかな。皆は好きに選べるよ。皆が移動したいって時にファブリスでも馬車でも、移動手段は準備するから」
俺は執務室に週に一度は顔を出す予定だから、向こうに行くとしても日数にしたら一年の半分ぐらいだろう。
そのうちもっと魔力量が増えて領地まで一気に転移できるようになれば、もう少し向こうにいる時間が伸びるかもしれないけど。
「そうなんだ〜。私は領地にも行きたいな! 学校に行くようになったらあんまり行けないでしょ? 先生も一緒に領地に来てくれるかな」
「確かに今が一番領地にいられるか。じゃあマリーは向こうに領主邸ができたら移動できるように、色々と手配しておくよ」
「本当!? ありがと!」
マリーは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。こんなに喜んでくれるのなら調整ぐらいいくらでもやるよ。家庭教師の先生たちは給金を弾めば来てくれるかな……ダメだったら先生の変更も考えよう。
「母さんと父さんはどうする?」
「そうねぇ。私たちは食堂があるから」
「確かにそうだよね……でも例えばだけど、王都の食堂は誰かに任せて、母さんと父さんは領地で新しい食堂を開くっていうのもありだと思うよ。実際に料理をするのじゃなくて、いくつもの食堂を経営する側に回って、ヨアンみたいに開発を仕事にするっていうのもありだと思うし」
俺がその提案をすると、母さんと父さんは瞳を煌めかせた。やっぱり二人は開発が好きなのかな……食堂の新メニューを考えてる時が凄く楽しそうで、なんとなくそんな感じがしてたのだ。
「誰かに任せるなんて良いのかしら?」
「もちろん良いんだよ。本当は二人の立場的には、任せる方が一般的だからね。新メニューを開発した時だけ、お客さんの反応を見るためにお店に行くっていうのもありだと思うし、自由にして良いよ」
「……分かったわ。ジャンと考えるわね」
「レオン、ありがとう」
そこまで話をしたところで、ロジェがスイーツをおしゃれに盛り付けて給仕してくれたので、俺たちはとりあえずお茶会を楽しむことにした。
いくつかのミニケーキと果物で使ったソース、それからクリームなどで一皿が綺麗に彩られている。
「わぁ、凄く綺麗!」
「本当ね。見てるだけで楽しいわ」
「これはシュガニスの新メニューかい?」
「そうだよ。最近大人気なんだ」
日本でよくあったような綺麗に彩られた一皿は、とにかく貴族女性に受けまくっているらしい。ロニーがシュガニスの売り上げが凄いとニコニコしていた。
「この大きさのケーキならたくさんの種類が食べられて良いわね」
「それにソースで絵を描くっていうのも面白い」
「お兄ちゃん、このソースは付けて良いの?」
「もちろん。ちょっと勿体ない気もするけど、全部食べて良いんだよ」
俺のその言葉を聞いて、マリーはシンプルなシフォンケーキをソースに付けた。しかしソースの形を崩さないように少しだけだ。
その気持ち分かるなぁ。俺も日本でなんとなく綺麗なソースを崩したくなくて、少しずつ崩さないように付けていた。
「美味しい!」
「それなら良かった」
それからも皆で美味しいスイーツを味わって、とても楽しいお茶会の時間は過ぎていった。やっぱりこういう時間は大切だな。良い息抜きになった。