34、山菜の天ぷらと帰宅
俺たちが森から帰った時には、既にあたりが薄暗くなっていた。熊との戦いで時間を消費したからだ。
「ただいまー」
「おかえりなさい! 遅かったじゃない」
俺が声をかけると、母さんが慌てて迎え入れてくれた。
みんな結構心配してくれていたようで、ホッとした顔をしている。
「何かあったの?」
「実は帰ろうとしたところで熊に襲われたんだ」
「熊!? 怪我はなかったの!?」
「うん、運良く倒せたから大丈夫だよ」
俺が熊に襲われたというと、みんなすごく驚いた顔をしていたが、怪我はないというとホッと息を吐いていた。
でもその後にどうやって熊なんかを倒したのか、質問攻めになる。
俺がしどろもどろに答えていると、おじいちゃんが助け舟を出してくれた。
「レオンは剣の才能があるみたいだ。ナイフで身軽に倒していた」
おじいちゃんがそういうと、みんなは俺を褒め称えて深く追求はされなかった。よかった〜、おじいちゃんありがとう。
「まあ、怪我がなかったのならいいわ。それよりもずいぶんたくさん採れたのね」
母さんが籠を見ながらそう言った。
「うん。山菜や木苺がたくさんあったんだ」
「私もいっぱい採ったの!!」
「凄いわねぇ。じゃあ、明日は山菜を使ったご飯にしましょうか」
「うん!」
そして次の日の夜ご飯。
俺たちが明日の朝帰るので、今日の夜ご飯はまた全員で集まって食べることになった。
昨日の山菜を使ったご飯だ。
母さんたちが午後の仕事を早く切り上げて、ご馳走を作るらしい。俺もご飯作りに加わることにした。
山菜でどうしても作りたいものがあるのだ。ズバリ、山菜の天ぷらだ!
この世界はあまり揚げ物がなく、あるとしても素揚げくらいらしい。しかしそれも油が勿体無いので、平民の間では揚げ物は一切見ない。
今回はご馳走だし、油を多めに使わせてくれるだろう!
「母さん、俺も一緒に作っていい? 昨日の山菜でレシピがあるんだ」
「本当に? まあ、レオンのレシピは美味しいからいいわよ」
「ありがとう!」
「何が必要なの?」
確か天ぷらは、卵と小麦粉と水を混ぜたものに野菜をつけてあげればいいんだよな。多分……
「卵と小麦粉と水と油が欲しい!」
「それだけでいいの? それならあると思うわ」
そう言って母さんが、おばあちゃんからこれらの材料をもらってくれた。
「まずは卵と小麦粉と水を混ぜるんだ」
「またそれなのね。レオンのレシピはいつも卵と小麦粉をドロドロにするわ。初めての人は絶対に反対するわよ。ドロドロにしないでパンにしてっていつも思うもの」
母さんはそう言いながらも準備を整えてくれた。
俺はまず卵を入れて溶く、そこに小麦粉を少し入れて混ぜ、水を入れて混ぜてみた。ちょっと水っぽい気がする……
少し小麦粉を足して、また混ぜる。
ドロドロしてるな。多分これで合ってるはず……
俺は少し不安になったが、何事も挑戦だと開き直った。
「母さん、フライパンに油を多めに入れて欲しいんだけどいい?」
「多めってどのくらい?」
「本当は小さい鍋に半分くらい油が欲しいんだけど、それは流石に無理だよね?」
「そんな勿体ない使い方できるわけないわ!」
「だよね。だから、フライパンに小指の先くらいの深さでいいんだけど、それもダメ?」
母さんはしばらく難しい顔で悩んでいたが、渋々了承してくれた。
「まあ、今日はご馳走だからいいわ」
「母さんありがとう!」
「後でおばあちゃんとおばさんにもお礼を言っとくのよ」
「はーい!」
そうしてフライパンに油を入れて温まったところで、さっきの液につけた山菜をフライパンに投入した。
実際の天ぷらより油が少ないから揚げ焼きみたいになってるけど、まあしょうがないよね。
俺はたくさんの山菜をどんどん揚げていった。
よし、これで最後だ。
「できた! 完成だよ!」
俺がそう言って周りを見ると、いつのまにか母さんの他におばあちゃんやばあば、おばさんまで集まっていた。
「珍しい料理ね」とか、「本当に美味しいのかしら」とか好き勝手なことを言っている。母さんが「レオンの料理は美味しいのよ」って弁護してくれてる。
母さんありがとう……
そうして夕食は出来上がった。山菜の天ぷらとステーキ、山菜の炒め物、スープ、パンというとても豪華な食卓だった。
「いただきます!」
みんなで手を合わせて食べ始める。
俺はまず山菜の天ぷらからだ。塩をかけてあるからそのままでいけるはずだ。
サクッ…………美味い!! 天ぷらだ。この世界に来て初めて和食を食べた気がする!!
俺が美味しさに感動して山菜の天ぷらを味わっていると、みんなも興味があるのかチラチラと見ている。
最初に食べたのはマリーだ。
「う〜ん! これすごく美味しいよ!」
マリーが満面の笑みでそういうと、みんながこぞって食べ始める。「美味い!」「これは凄いわ!」そんな声がたくさん聞こえてきて嬉しい。
やっぱり日本食は美味いよな。
俺は他の食事も全て味わって、大満足の夕食を終えた。
そして次の日の朝。
俺たちは自宅に帰ることになった。
「みんなまた来るねー!」
「レオン、絶対また来るんだぞ。またバター作ろうな」
「俺ともまた山に行こう」
「今度来たらもっとたくさんレシピを教えてね」
みんなが思い想いのことを口にして見送ってくれる。誰もが笑顔で優しい顔だ。
この人たちと家族でよかった……
俺は遠くに行くまでずっと手を振り続けていた。
「レオン、マリー、楽しかったかい?」
「うん! すっごく楽しかったよ。また来たいな」
「私も! 絶対また来たい!」
「そうか、良かったよ。また来ようね」
「今度は滞在をもう少し伸ばしてもいいかも知れないわね」
本当に楽しかった、また来たいな。俺がこれから貴族の世界に入っていったとしても、ずっと大切にしたい家族だ。
帰りは楽しかった思い出で気持ちが高まっているからか、行きほど疲れを感じずに家までたどり着くことができた。
それでも街に着いた時はもう日が暮れかけている頃で、今日の夜ご飯は簡単なものにして早めに寝ようかと、みんなで話しながら家までの道を歩いていく。
やっと家が見えてきた。そう安堵した時、家の前に誰かがいることに気がついた。うちのドアの前に立ってるよな? 誰だろう?
「母さん、父さん、うちの前に誰かいない?」
「ほんとだね。誰だろう?」
俺たちが少し足早に近づくと、その人も俺たちに気づいたようでこちらを向いた。
「アンヌさん!」
そこにいたのは、タウンゼント公爵家メイドのアンヌさんだった。
「どうしたんですか?」
「大旦那様からレオン様への伝言をお持ちしました」
「もしかして何日も待っていてくれたとか……?」
もしそうだったらすごく申し訳ないことをしたと思いながら、恐る恐る尋ねた。
「いえ、本日の昼に伺ったのですが留守のようでしたので、日が沈むまではと、ここで待っていただけですので、半日ほどです」
それでも結構な時間じゃん!
「あの、そんなに待たせてすみません。どうぞ中に入ってください」
「いえ、もう公爵家に帰らないといけませんので。この手紙をお渡ししてすぐに失礼します」
「本当にすみません。ありがとうございます」
俺はこれから長期間留守にする時は、何かしら伝言を残しておこうと心に刻んだ。
「では、私はこれで失礼します」
「はい。ありがとうございました」
アンヌさんは本当に手紙を渡しただけで帰ってしまった。
「レオン? 今の人は誰なんだい?」
「公爵家のメイドさんなんだ。俺に手紙を持ってきてくれてたんだって」
「公爵家の方を待たせていたなんて……」
父さんと母さんが顔を青くして慌てている。俺は慌てて二人を安心させるために言った。
「いや、多分大丈夫だと思うから心配しないで!」
多分タウンゼント公爵家の方々はこんなことで怒らないと思う。でもこちらとしては申し訳ないからこれからは気をつけよう。
「そうなのか? それならいいけど……」
「うん! 疲れたから家入ろう?」
「そうね。なんだか疲れたわ」
そうして俺たちはやっと家に辿り着いた。最後の最後でどっと疲れた気がする。
早く手紙読まなきゃ。そう思いながら家へと入った。
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