31、祖父母の家
「ただいまー」
俺が家に帰ると、父さんと母さんは忙しく準備をしていた。
「あら、結構早かったのね? 何を買ってきたの?」
「いいものがあったかい?」
俺が家の中に入ると二人は準備の手を止めて、俺が持っていた麻袋の中身を覗いてきた。
「手ぬぐいと竹の水筒を買ってきたんだ。手ぬぐいはおじいちゃんたちにお土産で、水筒がおじさんたちに。それとこの水筒はすごく便利だと思うから、うちの家族四人分も買ってきたよ」
俺はそう言って竹の水筒を一つ取り出し、二人に見せた。二人は興味深そうにそれをじっと見ている。
「竹がこんな風に使えるなんて驚きね」
「昔はこの水筒が主流だったけど、いつからか皮袋に水を入れるのが主流に変わったんだって。でも最近はまた竹の水筒が流行り始めてるらしいよ」
「そうなのねぇ。うちの分までありがとう。それじゃあ明日のお出かけでは、この水筒を使いましょうか」
「そうだね。こっちの方が便利そうだ」
そうして、明日のための準備は進んでいった。
次の日の朝。
「レオン、マリー、起きなさい」
いつもは鐘で目が覚めるのに、今日は母さんに起こされた。まだ外は暗い。
「母さん……? 起きるの早くない?」
「今日はおじいちゃんとおばあちゃんの家に行くって言ったでしょ。夜までに着かなかったら大変だから、早めに出発するのよ」
「そうなんだ……」
ふぁ〜、まだ眠いな……
「顔洗って着替えて準備しなさい。ご飯ももうすぐできるから、早く食べちゃってね」
「はーい」
俺は眠い目を擦りながら起き上がった。マリーはまだ母さんに起こされている。
そのあとは、眠さでいつもよりゆっくりとした動きになりながらも、顔を洗ってご飯を食べて、荷物の確認もした。
流石にその頃になると目もぱっちりと覚めてきた。マリーも起きて準備を終えたようだ。
「よし、じゃあ行くわよ」
「ロアナ、家の鍵はちゃんと閉めてね」
「閉めたわよ。忘れ物もないわよね」
「大丈夫だよ。じゃあ行こうか」
「「うん!」」
俺たちはまだ日が上り始めたくらいの時間から、農地の方に向かって歩き出した。
森までは行ったことがあっても、それより外に行ったことがなかったので、かなりワクワクしていた!
しかし、その楽しみも長くは続かなかった。
はぁ〜疲れた……いや、身体強化も使えるし体はどうにでもなるけど、ずっと同じ景色の中を歩くのは精神的に疲れてくるのだ。
最初は畑にも、畜産をやっている人が飼っている動物にも、テンションが上がっていた。
しかし一時間も経つとすぐに飽きてきて、そろそろお昼になるだろう今となっては、別の景色が見たいと思ってくる。歩いても歩いても同じ景色なので、進んでる感じがしないのだ。
それに日を避けられるようなところがほとんどないため、日差しも辛い。休憩したいなぁ〜。
そう考えていた時、ちょうど母さんが言った。
「そろそろ休憩にしようかしら? あそこに大きな木があるでしょ。あそこまで頑張りましょう」
少し遠くにかなりの大木が見える。日陰もあって休憩にはもってこいだろう。もしかしたら休憩所のような役割を果たしているのかもしれない。
「やっと休憩? 私疲れた〜」
「マリー、もう少しだからな? 頑張れ」
マリーは今まで弱音を吐かずに歩いてきたが、流石に疲れたようだ。まだ六歳だからな。
マリーは自分の服くらいしか持ってないが、それでも大変だろう。午後は俺が持ってやるのもいいかもしれない。俺は身体強化を使えば少しの荷物くらい軽々持てるからな。
それからしばらく歩き、大木の下に着いた。
「じゃあお昼ご飯にしましょうか」
そういえば今日のお昼のこと何も考えてなかった……!
母さんと父さんが何か持ってきてくれたのか?
「お昼のこと忘れてたよ……何か持ってきてくれたの?」
「もちろんよ。食べなきゃ歩けないわ」
「でもダメになっちゃうから、そんなに凄いものはないからね」
母さんと父さん、ありがとう……!
お昼のこと考えたらめちゃくちゃお腹空いてきた。
「はい、パンと干し肉よ。一人一つだからね」
そう言って母さんが渡してくれたのは、いつも食べてる硬いパンと、塩漬けにして干された干し肉だった。
「ありがとう」
みんなで仲良く「いただきます」と言って食べ始めた。
俺は干し肉を初めて食べるので、少しワクワクしながらぱくっと一口食べた…………が食べられなかった。
硬っ!! なんとなくサラミっぽいのかなーと思って食べたら、予想の倍は硬くて噛み切れなかった。
もう一度、今度は気合を入れて食べるとなんとか噛み切れた。もぐっもぐっ……味は結構いけるな……もう少し柔らかければ美味しいんだけど。
「結構硬いんだね」
「干し肉だから硬いのはしょうがないわ」
母さんと父さんはそう言いながらも結構普通に食べている。大人と子供では顎の強さが違うんだろう。
マリーはかなり苦戦しているようだ。
「母さん……私これ食べられない……」
マリーはしばらく干し肉と格闘していたが、流石に諦めたようだ。
「マリーはナイフで細かくして食べるといいかもしれないわね。少し貸しなさい」
母さんがマリーの干し肉を受け取って、ナイフで薄く切っていく。マリーはそれを受け取って食べているが、それなら問題なく食べられるようだ。
俺もナイフで切って食べようかな…………いや、もしかしたら身体強化を顎にかければ食べられるんじゃ?
俺は面白いことを思いついたと思って、早速試してみた。すると、さっきまでは木でも食べてるのかっていうほど硬かった干し肉が、サクッと簡単に噛み切れる。
凄い……! 流石魔法だ!
そうしてお昼を終えて、俺たちはまた歩き出した。
マリーが結構疲れているようだったので、マリーの荷物は俺が持つことにした。これならなんとか歩き切れるだろう。マリーを抱き上げて運ぶには、流石に重いからな。
「そろそろ着くわよ。あそこに見えるのが母さんの実家で、あっちが父さんの実家よ」
やっと着くのか〜! もうそろそろ日が沈み始めている時間帯だ。予想より遠かったな、疲れた。
道の左側にあるのが母さんの実家で、右側にあるのが父さんの実家らしい。本当に近くにあるんだな。
俺たちは父さんの実家に泊まるようだ。そっちの方が余ってる部屋があるらしい。
父さんの実家の玄関前について、父さんがドアをコンコンと叩いた。
「ただいまー」
父さんがそう言った途端、中がバタバタっと騒がしくなり、しばらくするとドアが開いた。
「ジャン、やっと来たのね。それから、ロアナちゃんに、レオンとマリーね! みんないらっしゃい」
ドアを開けてくれたのは、優しそうな四十代後半くらいのおばさんだった。
それから中に入ると、そこまで広くないリビングにたくさんの人がいて、机の上にはたくさんの料理が並んでいた。
「いらっしゃい! 待ってたのよ」
それからいろんな人と挨拶をして、ここにいる人が誰だかやっとわかった。
まずは父さんの方のおじいちゃんとおばあちゃん、それからおじさんとおばさんとその子供三人。
また、母さんの方のじいじとばあば、おじさんとおばさんに二人の子供。
総勢十三人が出迎えてくれた。なんで俺たちが来ることを知ってるのかと思ったが、ここに買い付けに来る商人に言付けを頼んでいたようだ。
その日はそのままみんなでたくさんの話をした。
おいしいご飯を食べて、お土産を渡して感激で泣かれて、パンケーキの美味しさに驚かれて、子供たちとも遊んで、楽しく幸せな夜の時間を過ごした。
前世では家族を大切にできなかった分、ここでの家族は大切にしよう、そう強く思った。
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