25、ニコラの夢
俺とニコラは、リビングに来て向かい合って座った。ニコラは話しづらそうに少し俯いている。
「それで、話って何? 他の人に聞かれたくないことなの?」
「あのさ……レオンは王立学校を受験するんだろう?」
「知ってたんだ。そうだけど……それがどうしたの?」
俺が王立学校に行くことと何か関係がある話なのか?
「レオン……俺にも勉強を教えてくれないか! 母さんたちが、レオンは頭が良くて王立学校を受験するって話してるのを聞いて……」
え? どういうことだ? ニコラも王立学校に行きたいってことか?
というか母さんたちの前で、頭の良さを出したことなかったはずなんだけど……俺って全然隠しきれてないのかも。絶対にレオンは頭を打ってから変になったって思われてる気がする……
もう気にしたら負けだ。
「ニコラも王立学校に行きたいってこと?」
「そうなんだ……俺、魔力測定で火属性だったって言っただろ。魔力量は五だったんだ。それで兵士を目指そうと思ってたんだけど、レオンが王立学校に行くって聞いて、俺も騎士を目指せるんじゃないかって思って」
「なんで騎士になりたいんだ?」
「なんでって、当たり前だろ! 騎士はみんなの憧れじゃないか! それに給金だって兵士とは比べ物にならないし……」
「でも、貴族の中に入っていくのって大変だと思うよ。それに、騎士の方が危険なこともあるだろうし」
確かに騎士はカッコいいけど危険も伴うだろうし、貴族の中に入っていくのは予想以上に大変だよな。
貴族の中に入っていってる俺がいうことじゃないんだけど…………でも俺は魔法具とか生活水準向上の為だし、そもそも全属性だから一生隠し通さない限り権力との付き合いは必須だし。
多分一生隠し通すなんて無理だからな……こんなに便利なのに使わないなんて無理だ。
ニコラは今の生活しか知らないんだから、生活水準を向上させたいなんて思うわけないし、やっぱり憧れかな?
憧れだけじゃ、途中で挫折すると思うんだよなぁ。
それにニコラはお金もないだろうし、お金もない中で中心街で暮らすのは大変だろう。
俺がお金を貸すのもありだけど、友達とのお金の貸し借りはあまりしたくない……
「王立学校に受かったら中心街に住まないといけないし、学校で使う文具や服も買わないといけないんだ。かなりお金がかかるから、そのお金も稼がないといけないよ。生活も大変だと思う。それでもニコラがどうしても騎士になりたいのなら俺は応援するけど、どうする?」
「レオンは……レオンはお金とか住む家とかは大丈夫なのかよ……」
「俺はお金はあるし、住むところも決まってるんだ。でもそこにニコラもお願いするのは難しいと思う。ニコラも貴族の屋敷に住むのは気が休まらないだろう?」
俺が苦笑いしてそう言うと、ニコラはかなり驚いたのか口を半開きにして固まっている。
やっぱり貴族の屋敷から通うのってあり得ないよなぁ。リシャール様に押し切られたんだ。
「レ、レオンは貴族の屋敷に住むってことか!?」
「そうなんだ。ちょうど知り合った貴族が屋敷に住んでもいいって言ってくれたんだよ」
「それって大丈夫なのか!? 危なくないのか……?」
ニコラがかなり心配してくれてるのがわかる。こんなに心配してくれる友人がいるなんて、幸せだな。
「大丈夫だよ。悪い貴族じゃないみたいだし、この前も屋敷に招待してくれたけど大丈夫だったよ」
「それならいいけど……レオンって凄かったんだな。貴族と知り合って屋敷に住まわせてもらえるなんて……」
なんかニコラの素直さを見てると、色々隠してるのに罪悪感を感じるな…………でも言うわけにはいかないしな。
「運が良かったって言うのもあると思うよ。それでニコラはどうする? 本当に王立学校に行って騎士になりたいなら勉強を教えるけど?」
「なんか、レオンの話を聞いてたら少し気持ちが揺らいできたよ……確かに憧れだけじゃ大変そうだし、レオンは凄すぎて参考にならなそうってことがわかった」
なんかそれ、喜んでいいんだかわからないんだけど……
「ニコラがそう思うなら兵士を目指せばいいんじゃない? 兵士も平民の中では給金が高い方だし、家からでも通えるし」
「そうだな……そうするか。レオン、話を聞いてくれてありがとな! お陰で迷いがなくなった」
「別に大したことしてないからいいんだよ。じゃあ、俺も帰るね」
「ああ、またな」
「うん、またね」
俺はニコラとそう挨拶をして家に帰った。
「ただいまー」
「やっと帰ってきたのね!」
「え? 何かあったっけ?」
家に入ると父さんと母さんが、俺を待ち構えていた。今日何かある日だったっけ……?
「今日お隣さんで作った料理の作り方を教えてくれるわね?」
母さんが有無を言わさないような笑顔でそう言ってきた。そういうことか、マリーから料理のことを聞いて食べたくなったんだな。
「作り方を教えるのはいいけど、今から?」
「そうよ! 今日の夜ご飯にしましょう」
えー、さっき食べたばっかりなんだけど……
でも母さんめちゃくちゃやる気になってるし、隣で父さんも静かにやる気だし。夜ご飯もお好み焼きだな。
まあ、美味しいからいいんだけど。
「じゃあ厨房で教えるよ」
「ええ、早く行きましょう。材料は何が必要なの?」
俺は母さんの質問攻めに遭いながら厨房に行き、説明しながらもう一度お好み焼きを作った。
「混ぜるものを変えればいろんな味ができると思うから、いろいろ試してみたらいいと思うよ」
「そうね。これはやりがいがあるわ。ジャン、これ昼営業で出すのもいいんじゃない?」
「手軽だしありふれた材料でできるから良いかもしれない。野菜を追加したり、肉を変えたりするのもいいかも」
「そうよね! 早速色々試しましょう!」
「そうだね。そういえばこの料理の名前は決めたのかい?」
「うん! お好みのものを入れて焼くってことで、お好み焼きだよ」
「わかりやすくていいわね。じゃあ作るわよ!」
母さんと父さんがすごいやる気になってるので、俺は厨房から避難した。あのまま厨房にいたらずっと手伝わされるに決まってるからな。
俺はリビングで歴史の教材を読むことに決めて、リビングに行った。マリーはいなかったので、二階で休んでるのかもしれないな。
教材はここ何十年かの歴史についてまとめてあるようだ。
この世界は数十年前まで大規模な戦争をしていたが、二十年くらい前にこのラースラシア王国の国王が、領土拡大を目論む国を全て併合し、それ以外の国とは停戦協定を結び世界を平和にした。しかし、世界は平和を手に入れたかと思ったが、魔物の森が脅威となっている。今度は各国で力を合わせて魔物の森の侵攻を止めている。
細かいことはたくさん書いてあるが、大きくまとめるとそのようなことが書いてあった。
魔物の森って……そもそもこの世界には魔物がいたのか……
それに魔物の森の侵攻を止めているってことは、魔物の森は広がってるってことか……? どのくらいのペースなんだ? そもそも魔物の森ってどこにあるんだろう?
情報が足りなすぎて全然わからない……今度フレデリックさんに聞いてみたいな。
俺は不安を抱えながらも今はどうすることもできないので、不安をしまい込むように教材を閉じて、夜営業の準備に向かった。
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