194、各種魔法具設置と調理器具
次の日の放課後。
昨日疲れて寝落ちした反省からしばらくはゆっくりしようかと思ったんだけど、ヨアン達のためにお店に魔法具だけは設置したいと思い、今日も学校が終わってすぐにお店までやってきた。
もう少しだけ頑張れば、しばらくは俺がやることは無くなるはずだから、あと少し頑張ることにする。
今日はこの時間からお店に誰も入らないように言ってあるから、中には俺とロジェだけだ。ロジェは全属性のことを知っているし、中にいても問題ない。
唯一アイテムボックスが使えないことが不便だけど、そこは魔石と魔鉄を馬車で運んできたから大丈夫だ。
よしっ、頑張って作るかな。
今回追加でお店に設置する魔法具は、魔石と魔鉄をリシャール様から買って自分で作ることにしたのだ。魔法具店から購入した方が正規のルートで良いんだろうけど、自分で作った方が細かい調整もやりやすいし、今回はこういう形にした。
普通は魔石と魔鉄を直接手に入れることは不可能で、国営の魔法具店から魔法具を買うしかないんだから、俺が使う分はいつも特別に用意してくれるリシャール様には、本当に感謝だ。ありがたい。
「レオン様、魔石と魔鉄はこちらにお運びすれば良いでしょうか?」
ロジェが馬車から荷物を運んできて、俺にそう問いかけた。
「うん、ありがとう。全部そこに置いておいてくれる?」
「かしこまりました」
俺はお店のカウンター前のスペースを臨時の魔法具作成場所として、そこの床に直接座り込む。行儀悪いけど、ロジェと俺しかいないからいいだろう。
まずは何から作ろうかな。今日必ず作りたいのは、冷蔵機能付きガラスのショーケースと、厨房に置く冷蔵庫、それから店内の室温を管理するために、冷風機と温風機だな。
そう、この温風機、リュシアンが作ったドライヤーから派生して作られたものなんだ。俺がリュシアンに提案して二人で作りあげた。これによってストーブの売り上げは減ったんだけど、ストーブよりも温まると評判らしい。
でもストーブの方が好きという方もいて、意外とどちらにも需要はあるようだ。俺も実はストーブの方が好きだったりするんだけど、この店は広いから温風機の方が良いだろうな。
冷風機と温風機は、お店スペースと厨房、それから休憩室に欲しいから三つずつ必要だな。
とりあえずこれらを作って、あとは使いつつ改良していけばいいだろう。不便なとこがあったらそれを補う魔法具も作れるし。
よしっ、そうと決まれば早速作ろう。俺はそう気合を入れて、まずはお店に置いてあるガラス板を手に取った。このガラス板は新たにガラス工房に注文しておいたものだ。前に作ってもらったガラスのショーケースは、とりあえず公爵家の俺の部屋に移動してある。
あのショーケース、大きいしあまり使い道はないんだけど、解体して魔法具のショーケースに作り替えるのはなんだか悪い気がしてやめたのだ。工房の人たちが隙間を極力無くすために頑張ってくれたみたいだし、それを解体するのはね……
だから、今は俺の部屋で埃が被って欲しくないものを飾るケースとして置かれている。
俺はそんなことを考えつつ運んできたガラスの板をとりあえず床に置き、次に魔鉄を手に持ち魔力を流し込んだ。そして魔鉄がぐにゃぐにゃに変形したところで、ガラスに魔鉄を沿わせていく。
練習では長方形の箱型で、お客様側に一箇所だけガラスを付けたけれど、今回は使い勝手と見やすさを考えて少し形を変形させることにした。
お客様側の方は、ガラスの付け方を斜めにして屈まなくても見やすいように工夫する。それから店員側の引き戸にもガラスを嵌め込んだ。
そうしてできる限り魔鉄部分を少なくすることで、重厚感を減らせるように工夫する。おしゃれなカフェにゴツい金庫みたいなカウンターじゃ雰囲気壊れるからね。
――うん、上手くできた!
しばらくどんな形にするか試行錯誤して、遂に納得のいくものが仕上がった。我ながらいい感じだ。
あとはカウンターの上に設置してみて微調整だな。
カウンターはレンガで作り直してもらったんだけど、凄くおしゃれな仕上がりになっている。お会計をする部分は成人の腰より少し上ぐらいの高さになっていて、ショーケースを置く部分は土台だけ作られている。
そんなカウンターの上に、先ほど作ったショーケースを移動させた。身体強化を使って一人でも楽勝だ。
それからカウンターに合うように大きさを調整して、ショーケースの中に注文しておいた棚を入れ、光球をケーキがよく見えるようにセットして……完成だ!
うん、凄くおしゃれになった。俺はお店の入り口付近からショーケースを眺めて、その出来上がりを確認する。
「ロジェはどう思う? お店の雰囲気に合ってる?」
「はい。お店の雰囲気にとても合っていると思います。さらに新しいものですので、このお店の目玉になるでしょう」
「本当? なら良かった! じゃあ続きも作っちゃうね」
俺はそうして、ショーケースに冷蔵機能を取り付けて、冷蔵機能付きショーケースを完成させた。
うん、完璧だ。これで魔石を嵌め込めばいつでも使える。でも一つ問題なのは、カウンター裏に冷やす機能である管や箱があるから、ちょっと邪魔なことだな。
うーん、ショーケースの裏側に長机でも置こうかな。その机の下に冷やす機能をしまい込めば、誰かが躓くこともないだろうし、さらに机があれば箱詰めなどの作業もしやすいよね。そうだ、カウンター裏に備品を入れておく棚も必要かも。とりあえず購入リストに入れておこう。
それからは冷蔵庫、冷風機、温風機と次々と魔法具を作って設置していった。形が決まっているものは悩むこともなくすぐに出来上がるので、俺は一時間ほどで全てを作り終えた。
「とりあえず、このぐらいかな」
「凄いですね……。レオン様の魔法について知ってはいますが、普段拝見することがないので驚きます」
「そうかな? でも確かに普段は隠してるからね。ロジェの前でもあまり使ったことなかったかも」
今日は魔法を使いまくって頑張ったからな。身体強化はずっと使いっぱなしだったし、埃を綺麗にするのに風魔法を使ったり、汚れを拭き取るのに水魔法を使ったり、色々やった。
やっぱり魔法を自由に使えると楽だ。本当に魔法って不思議な力だけど凄いよな。
そんなことを考えながら疲れた身体をほぐすように伸びをして、俺は次に作るもののことを考えた。
本当はここまででやめようと思ってたんだけど、思いのほか早く作り終えたから、いくつか挑戦したかった魔法具を作ってみたい。
どんな魔法具かというと、調理器具だ。いくつか作りたいものはあるんだけど、特にハンドミキサーだけは作ってあげた方が良いと思ってたんだよね。あれがあれば時間短縮にもなるだろうし。マヨネーズにも生クリームにも使えるはずだから。
この世界には、お菓子作りに使える器具は結構ある。日本のものとそのまま同じ形ではないけど、泡立て器として使えるものや、ケーキの型になるようなものはあるのだ。でも流石に機械はない。だからそこは魔法具の出番だよね。
「ロジェ、俺はいくつか開発したい魔法具があるから、もう少しここにいても良い?」
「もちろんですが、また開発されるのですか……?」
「うん。ダメかな……?」
「いえ、大旦那様も既にたくさんの魔法具を登録している今、全属性ということがバレなければ良いと仰っておられましたので、問題はないかと思います。しかし、そこまで新しいものが思い浮かぶ発想力に驚いております……」
ロジェはそう言って、俺に対して少しだけ尊敬するような顔をした。
でも、俺の知識は日本の優秀な技術者のおかげなんだよな。だから素直に喜べないんだけど……まあ、それを言うわけにもいかない。
「ありがとう。俺は少しでも便利になればと思ってるだけだよ」
「素晴らしいです。私もレオン様に負けないよう、素晴らしい掃除道具を作り出してみせます」
ロジェはそう言って、決意を込めた目で頷いた。ロジェは俺が掃除道具開発について話してから、凄くやる気を見せているのだ。仕事が終わった後の時間や俺が学校に行っている時に空いた時間を使って、色々と考えているらしい。
ロジェが熱中できるものが見つかって良かった。俺はそう思って少し顔を緩めた。
「じゃあ、俺もロジェに負けないように頑張るよ」
そうして気合を入れて、調理器具開発を始めた。
まずはハンドミキサーだ。ハンドミキサーは泡立て器が自動で高速で回るやつなんだけど、どんな形なのか詳細は全くわからない。だけど、とりあえず泡立て器が自動で高速で回れば良いんだよね。
そう考えて、俺は買ってきた頑丈そうな泡立て器の持ち手部分に、魔鉄で長方形の羽根を取り付けた。そしてその羽が一周するよりも少しだけ大きな筒で、持ち手部分を覆う。それから筒の下部は泡立て器が落ちないように魔鉄で少し隙間を作って塞いだ。
よしっ……これで筒の中で羽根を押すように強めの風魔法を使えば、泡立て器が回るはず。
そう思って風魔法を使ってみた。すると確かに泡立て器は回ったけど、羽と筒の下部が擦れて嫌な音がする。それにその摩擦で速度も落ちちゃうみたいだ。
それを解消するためには、泡立て器を筒の上部にも固定して羽根を浮かせないとダメだな……
そうして試行錯誤を繰り返すこと数十分、ついに自動泡立て器が完成した。今までの泡立て器より持ち手が少しだけ太くなる程度で、自動で泡立て器が回転する。
うん、我ながら完璧だな。あとはヨアン達に使ってもらって速度調節をすれば良いだろう。
そうして泡立て器を完成させたあとは、泡立て器と同じような仕組みでフードプロセッサーも作って、魔法具開発は終了とした。
この二つは近いうちに登録しておこう。