162、二人の魔力測定
ロニーが孤児院に帰ってから数日間は、特に何事もなく穏やかに日々が過ぎていった。俺も久しぶりの実家での生活をかなり満喫できた。
そして今日は大きなイベントがある日だ! 実はマリーとルークが魔力測定に行くのだ。ちょうど二人とも八歳になり、二人同時に行くことになったらしい。
魔力測定が終わったら、うちの家族四人とニコラとルークの家族四人で、食堂でお祝いをする予定だ。
「マリー、準備できたなら早く来なさい」
「は〜い!」
マリーが母さんに呼ばれて二階から降りてくる。
「お兄ちゃん、見て! 新しいお洋服! 可愛い?」
マリーはそう言って、俺の前でくるくると回ってみせた。マリーは今日のために新しい服を買ってもらったのがかなり嬉しいようで、服を買ってもらった一昨日からずっとあの調子だ。継ぎ接ぎもなく綺麗に染めてある服なので、嬉しいのもわかる。
「お兄ちゃん、可愛い?」
「うん。すっっごく可愛い! マリーに似合ってるね」
「本当!? やったー!」
このやりとりは一昨日から数十回は繰り返されているけど、何度やっても本当に可愛い。このやりとりなら、後何十回でも何百回でも繰り返せるな。
薄い緑のような色に染められているワンピースは、この季節にぴったりだ。腰の上で縛っている紐は濃い緑で、良いアクセントになっている。
母さんと父さんにお願いして良かった。
実はこのワンピース、マリーが欲しがってたけど高くて買えなかったものらしいのだ。それを俺がマリーに聞いて、母さんと父さんにお金を渡した。
本当はもっと実家にお金を入れてもいいんだけど、うちは生活に困るほど貧乏ではないし、余分なお金は危険の元だし、今まで物は買ってきてもお金を渡したことはなかった。でもマリーが喜んでくれるのなら少しはいいよね。
この服ならちょっと頑張ればこの辺の平民でも買える服だし、悪目立ちすることもないだろう。
「二人とも行くわよ。もう皆外で待ってるわ」
母さんにそう言われてマリーと一緒に外に出ると、ニコラとルーク、おじさんとおばさんも揃って待っていた。
「あっ! おじさん!」
マリーはおじさんを見つけた途端、すぐに突進して行く。まだマリーのおじさん好きは健在なんだな。
「おうマリー、可愛くなったか?」
おじさんは突進してきたマリーを難なく受け止めて、そのまま抱き上げている。マリーは凄く嬉しそうだ。
「お洋服! 新しいの買ってもらったの!」
「そうかそうか、良かったなぁ〜」
「うん!!」
そんなマリーとおじさんの様子を見守っていると、俺の側にニコラとルークがやってきた。実家に帰ってきてからまだ会ってなかったので、かなり久しぶりだ。
「ニコラとルーク、久しぶり!」
「久しぶり。レオンは……変わらないな」
ニコラが俺の身長を確認するようにしてそう言った。気を遣わなくていいから!
何かニコラは大きくなってる。この春から夏にかけてで、数センチは背が伸びたんじゃないか? 俺はまだ成長期が来ないんだよ……
「久しぶり! 本当だ、俺もすぐに追いつくぜ!」
二歳年下のルークに追いつかれる俺って、成長遅過ぎない? まあおじさんと父さんを見れば、その理由は一目瞭然だけどね。父さんが小さいと言うよりも、おじさんがデカすぎるんだ。
「ルーク、魔力測定楽しみだね」
「おう!」
二人とそんな話をしていると、ルークがおじさんに呼ばれた。
「ルーク、行くぞ」
「は〜い!!」
教会に行くのはおじさんおばさん、母さん、マリー、ルークの五人だ。父さんと俺とニコラは、食堂に残ってお祝いの準備をする。
「じゃあ気をつけてね。ご馳走を作って待ってるよ」
「うん! 楽しみ!」
「すぐ戻ってくるぜ!」
父さんのご馳走という言葉にマリーとルークが反応して、二人はテンション高く教会の方に駆けていった。
多分帰ってくるまで一時間ぐらいだろう。急いで準備をしないと。
「じゃあ父さん、準備をしようか」
「うん。二人のお祝いだから頑張らないとね」
「俺も手伝う。何をすれば良いんだ?」
「ニコラには、食堂の机や椅子の配置と配膳をお願いしようかな」
「わかった」
「レオンは父さんと厨房ね」
「うん!」
そうして三人で分担して、ご馳走作りが始まった。メニューはいつもの牛肉のステーキと豚肉の野菜炒めにスープ。そしてそれに加えて、チキンステーキとカツサンドだ。
「父さんはカツを揚げるから、レオンはパンを切ってくれる? パンを切り終わったらトマトソースもお願い」
「分かった。トマトソースはこの具材で作れば良いんだよね?」
「そうだよ」
俺は父さんの指示に従って、できることをどんどんこなしていく。パンが少しガタガタしていたりするけど、まあご愛嬌だ。
そうしてしばらく忙しく動くこと数十分。一通りの料理が出来上がった。あとは牛肉のステーキとチキンステーキを焼くだけだ。
「この二つは焼き立てが美味しいから、皆が帰ってきたら焼き始めようか」
「そうだね。じゃあ他の出来上がった料理から運んじゃうね。ニコラ、ここのやつよろしくー」
そうして今度はニコラと二人で机の上にご馳走を並べていく。カトラリーや水も忘れずに準備して……完璧だ!
「あとは皆が帰ってくるのを待つだけだね」
「ああ、楽しみだな!」
ニコラはご馳走を見て目を輝かせている。背は伸びても、やっぱりまだ子供っぽいところもあるんだな。そう思いつつニコラと話していると、食堂のドアが開き皆が帰ってきた。
「ただいまー!」
「おかえり。父さん、皆帰ってきたよー!」
俺が大声で厨房にそう言うと、父さんがステーキを焼き始めた音が聞こえた。
「マリー、ルークおかえり。魔力測定はどうだった?」
「お兄ちゃん! マリーね、回復属性だったの。お兄ちゃんと一緒だよ!」
「そうなの? それは嬉しいなぁ」
「魔力量も四だったんだよ!」
回復属性の魔力量が四だったのか。それは治癒院に勧誘されただろうな。俺は自分の時を思い出して思わず苦笑いになる。
「練習すれば怪我も治せるようになるね」
「私たくさん練習する!」
「マリーは偉いなぁ。皆もマリーがいたら安心できるね」
「うん!」
マリーがそうして喜んでいる横で、ルークが少しだけ落ち込んでいるように見える。自分が望む属性じゃなかったのかな?
「ルーク、どうしたの?」
「俺、身体強化属性の魔力量が一だったんだ……。使えないよな。身体強化属性は魔力量が四か五なら兵士として使えるけど、それ以外だとあまり使えないって」
「それ誰から聞いたの?」
「前に近くに住んでるやつがそう言ってたんだ」
「そっか。でもそれは間違いだよ。身体強化属性はちゃんと練習すればかなり使えるよ」
身体強化属性が一番便利な属性じゃないかと、最近は本当に思っている。
「そうなのか?」
「うん。例えば悪い人から家族や大切な人を守れるよ。他の属性だと周りを巻き込んじゃうから使えないこともあるけど、身体強化属性はそれがないから使いやすいんだ。後は日常生活で他の人が動かせない重いものを動かせたり、他の人だと運べないものを運べたり、力が必要な仕事で役に立てるよ」
「本当か? でも魔力量が一だと一瞬しか使えないって」
そうか。確かに漠然と身体強化魔法を使うと、全身が強化されて魔力をかなり消費するんだよね。
必要な部分だけ強化できるようになると、かなりの節約になる。
「練習して必要な部分だけを強化できるようにすると、何回か使えるはずだよ。俺の友達もそう言ってた」
「そうか、そうなのか。じゃあ、俺頑張るぜ!」
ルークはそう言って笑顔になった。うん、いつもの元気なルークに戻って良かった。
そう俺が安堵したところで、父さんが焼き立てのステーキを持って食堂にやってきた。
「ステーキも焼けたよ。皆席に着いてね」
「おおっ! すげぇ、でかいステーキだ!!」
「ステーキ! ステーキ!」
マリーとルークはずっと大興奮だ。多分このお祝いが終わった瞬間に、糸が切れたように寝るだろうな。
「ジャン、まだ持ってくるものはある?」
「後ステーキが一枚置いてあるから、それをお願いしていい?」
「分かったわ」
「じゃあ皆、まずは座りましょう。ルーク、飛び跳ねてないで座りなさい」
おばさんのその声に従って皆は自分の席に座った。そして母さんも戻ってきて準備が全て整う。
「マリーとルーク、魔力測定おめでとう。これで二人も一人前ね。今日は二人のお祝いだから、好きなだけ食べて良いのよ。じゃあ、皆で楽しく食事をしましょう。いただきます!」
「いただきます!!」