137、スイーツの試食
昼食はダリガード男爵家の食堂でいただけるようで、食堂に向かうと大きなテーブルにたくさんの料理が並んでいた。ピエール様とキャロリン様、ステイシー様、二人の料理人さん、ヨアン、俺とロジェという大人数での食事のようだ。
貴族では流石にこんな光景はないからちょっと嬉しいかも。料理人さんと一緒に食事をするっていいよね。食べた感想を直に伝えられるし、美味しさを分かち合える。
皆が席につくと賑やかに食事が始まった。
「レオン君、厨房の使い勝手はどうだい?」
「とても良いです。改めて使わせていただきありがとうございます」
「いや、いいんだよ。スイーツ開発のために設備を整えたからね。活用してもらえるとありがたい」
ダリガード男爵家は、屋敷はこじんまりとしていて質素だけど、厨房だけはかなり設備が整っている。本当にスイーツが好きなんだなと厨房を見ればわかる。
「厨房とスイーツ開発にお金をかけすぎて、他のところは質素になっているのだけれどね」
「キャロリン、それは言わない約束じゃないか」
「私もスイーツ開発にお金をかけるのは賛成だったのですけれど、流石に装飾品や服などが少なすぎますわ。男爵家として最低限は整えなくては」
「わかっているよ。これからはレオン君が研究を引き継いでくれたからね。まずは服を新調しようか」
「そうですわね」
服とか装飾品にかけるお金を削ってまでスイーツ開発にお金を使ってたのか……確かに甘味って高いもんね。砂糖も研究するのなら大量に使うだろうし、蜂蜜も安くはない。メープルシロップは売ってたけど輸入品でかなり高かった。果物も高いし……そう考えるとお金がないと無理だな。
俺はお金の心配はないからそこはありがたい。今でさえかなりの金額が口座にあるし、これから魔法具や技術使用料でずっとお金が入ってくるし……逆に使わないと俺がお金を持ち過ぎになる。
というか今更だけど、今までピエール様達がやっていた研究を俺が引き継ぐ形なら、ピエール様達にもお金を払ったほうが良いんじゃないか?
料理人も引き抜いちゃったわけだし……これって研究成果の横取りみたいだよね!?
「ピエール様、ヨアンを私が雇ったことで今までの研究成果も私が手にする形となってしまいましたので、その分お礼の品やお金をお渡ししたいのですが……」
「いや、そんなことは気にしないでくれ。成果とは言ってもそこまでの成果はあげられなかったからね」
「ですがそういうわけには……」
ここはちゃんとしておいた方が良いよね。でも受け取ってくれなさそうだよな……
「本当に気にしなくて構わないよ。美味しいスイーツを開発してくれればそれで満足だよ」
せめて何かピエール様達に喜んでもらえることがしたい……何かないかな。うーん、やっぱりスイーツかな。
「では、お店のスイーツを定期的に贈らせていただきたいです。今はまだ開発途中なので難しいですが、お店ができたときには必ず」
「そうだね。それは凄く嬉しいよ」
「ええ、とても楽しみだわ」
ピエール様とキャロリン様は、とても嬉しそうな顔でそう言って微笑んでくれた。
「美味しいスイーツをお届けするので、楽しみにお待ちください」
俺は笑顔でそう言った。でも、実際はこの後に新作のスイーツを食べてもらう予定なんだけどね。今そのことを伝えた方が良いかな?
本当はサプライズの予定だったんだけど、昼食の量が結構多いからお腹がいっぱいで食べられなくなりそうだし、今スイーツの話をしちゃったし……。とりあえず今伝えちゃおうかな。
「早速ですが、本日の昼食後にもスイーツの味見をしていただけますか?」
俺がそう言うと、二人はかなり驚いた様子で目を見開いた。
「それは、もう新しいスイーツを開発したのかい!?」
ピエール様がかなり驚いた様子でそう叫んだ。こんなに驚いてくれるとちょっと嬉しいな。そう思って返事をしようと口を開きかけたその時、ヨアンの声に遮られた。
「ピエール様、レオン様は素晴らしいのです! 次から次へと新しいアイデアを考えられて、とても美味しいスイーツができました」
「ヨアン本当かい!?」
「はい! 私が作りましたので間違いありません」
俺がピエール様に答える前に、前のめりでヨアンがピエール様に報告している。サプライズにしようって言ったから黙ってたけど、本当は言いたくて仕方がなかったんだな。
ヨアンって本当に外見と内面のギャップが凄い。俺が言うのも変だけど、しかもヨアンに全く相応しくない言葉かもしれないけど、ヨアンって可愛い系だ。俺は自分でそう思って思わず笑いそうになってしまった。
ヨアンを外見しか知らない人が聞いたら可愛いとは対極にあると思うだろうけど、スイーツに目を輝かせているところを見たらわかってもらえるはず!
「まあ、なんてことかしら。もっと早く言ってください。昼食を食べ過ぎてスイーツが食べられなくなるところでしたわ」
「キャロリン様申し訳ございません。本当はサプライズにしようと思っていたのですが、昼食の量が多く皆さんがスイーツを食べられなくなるのではと思い、急遽お伝えしたのです」
「そうでしたの。伝えてもらって良かったですわ。では早くスイーツの時間にいたしましょう!」
え、もう? まだ昼食も結構残ってるけどいいの? 俺はそう思ったが、ピエール様もすぐに食べたいようでスイーツを持ってくるように指示している。昼食は他の使用人で残りを食べたり、夕食にも回せるものは回すらしい。
「レオン君、どんなスイーツなんだい?」
「はい。パンケーキに生クリームとカラメルを乗せたものとクッキーでございます」
「どれも聞いたことのないスイーツだね……生クリームは言葉はわかるが、どのようなものか想像もできない」
「名前は私が名付けたものですので、実物を見て覚えていただけたら嬉しいです」
「そうだね、凄く楽しみだよ。今人生で一番幸せな時間かもしれないな。新作スイーツが運ばれてくるのを待っているなんて……!」
「あなた、本当ですわね! ついに念願の時ですわ」
凄い……、ピエール様とキャロリン様のスイーツへの愛が凄い。ケーキが出来上がってから食べてもらった方がよかったかな? でも生クリームもこの世界になかったものだろうし、多分喜んでくれるはずだよね。
そんなことを考えていると、ついにスイーツが運ばれてきた。パンケーキは四等分して、四分の一が一人分だ。ステイシー様にも生クリームのカラメル掛けを用意した。
ヨアンに聞いたら、ステイシー様は卵はダメだけど牛乳は飲めるらしい。これなら乳製品と砂糖しか使ってないから、食べるのに抵抗感はないだろう。
「レオン、私にもあるのですか?」
「はい。ステイシー様のは生クリームのカラメル掛けです。そちらは乳製品と砂糖しか使っていないので食べるのに抵抗はないと思ったのですが……。ステイシー様は牛乳を召し上がられるとお聞きしましたので」
「乳製品は食べられます! とても嬉しいです!」
ステイシー様は満面の笑みでそう言った。喜んでくれたみたいで良かった。
「ではレオン君、早速いただいてもいいかな?」
「はい。そちらのお皿がパンケーキで、パンケーキの上に乗っている白いものが生クリーム、その上に掛かっているのがカラメルです。それからそちらの小皿に乗っているのがクッキーです」
「カラメルとは香ばしい蜂蜜のことだったんだね」
「はい。カラメルと名付けました」
「いい名前だ。では早速パンケーキから」
ピエール様はそう言って、パンケーキを一口大に切りカラメルの掛かった生クリームを上に乗せて、ぱくっと一口食べた。
数回咀嚼して、すぐにピエール様の顔が満面の笑みに変わる。
「レオン君、本当に美味しい、素晴らしいスイーツだよ」
「ありがとうございます」
「あなた、このクッキーも最高に美味しいですわ。手軽に食べられるのも魅力ですわね」
「クッキーは、お茶を飲むときに一緒に召し上がられると良いと思います」
「確かにそうね……レシピを教えてもらうのはダメですから、これからはヨアンにクッキーを作ってもらっても良いかしら?」
別にレシピを教えてもいいんだけど、これからはお店を始めるんだし無闇に教えない方が良いのかな。とりあえず秘密にしておこうか。
「もちろんです。こちらの厨房をお借りしている間はいくらでもお作りいたします。ヨアンよろしくね」
「はい! まだまだ試行錯誤をして良いものに仕上げたいので、味見していただけるとありがたいです」
「楽しみにしているわ」
そうしてスイーツの試食は大成功で終わった。皆に喜んでもらえると本当に嬉しい。
それに生クリームのパンケーキは本当に美味しかった。この勢いでケーキも作るぞ!
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