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106、貴族の私兵団と魔物の森

「リシャール様、一つお聞きしても良いでしょうか? 王家が女神様と使徒様の教えを支持すると、それと反対の勢力が内戦を仕掛けてくる恐れがあるのですよね? その内戦ってどのように起こるのでしょうか? それから、凄く基本的なことかもしれませんが、貴族ってそれぞれで武力を持っているのですか?」


 俺がそう聞くと、リシャール様はかなり驚いたような顔をした。そして、リュシアンに呆れた声で言われた。


「レオンって、貴族にとっては当たり前のことを知らないよな。誰も知らないようなことは知ってるのに……」


 それはしょうがないんだよ! この世界の基礎知識を学ぼうと思っても、何が基礎知識なのかがよくわからないから、学び漏れてることがかなりあるんだ。


「確かに王都に住む平民ではその辺りのことは知らなくても当然だな。レオン君にはしっかりと説明しておくべきだろう」


 リシャール様その通りです。ありがとうございます!


「是非よろしくお願いします」

「ああ、まず貴族の武力についてだが、それぞれの貴族が私兵団を持っているんだ。基本的には王都の兵士と同じで、魔力量が四か五の平民を雇っている。領都に本部があり、それ以外の街には支部がある。基本的な業務は街の治安維持だが、貴族によっては明らかに街の治安維持には過剰な人数を雇っていて、領都で軍事訓練をさせていることもある」


 ということは、それぞれの領地にかなりの兵士がいるってことなのか。じゃあ内戦ってことになったら、敵対勢力の貴族たちが持っている兵力が王都に向かうってこと?

 何それ……めちゃくちゃ怖いじゃん。今まで何となく遠い世界の話を聞いてる感覚だったけど、やっぱりこの世界って争いが身近にあるんだな……


「明らかに過剰に兵士を雇えば、その分支出は増え収入は減る。そこで税を増やし民は苦しむことになる。そんな状態になっている領地の貴族には勧告をしているが、魔物の脅威への対処のためと言われてしまうと、こちらとしても受け入れざるを得ない状況だ」


 確かに魔物への対処って言われると困るよな。今は魔物の森の外縁部で防げてるって言っても、それもいつまで持つかわからないわけだし。


 あれ? 今なんか引っかかったんだけど……そうだ。長男ではない貴族って、王立学校を卒業したら騎士になる人も多いよね。そうしたら騎士団で働くんだよね? もしかして、騎士団も半数は裏切る可能性があるってこと!?


「あの、リシャール様、怖いことに気付いてしまったのですが……もしかして騎士団って半数は信用できないのですか?」

「いや、流石にそんなことはない。基本的に騎士団では王家に忠誠心があるものを重用し、そうでないものは第二、第三騎士団に所属させるからな。忠誠心がないものは騎士団をすぐに辞めていくのだ。そして辞めた元騎士は、先ほど述べた貴族の私兵団で団長などの役職を務めていることが多い。もちろん全ての者の心の内を見抜けるわけではないが、そこまで心配はいらないだろう」


 そうなのか……とりあえず最悪の状態じゃないみたいで良かった。騎士団は基本的に信用できるってことだよね。

 でも、また新たな疑問が生まれたよ。騎士団って幾つもあるの?


「えっと、騎士団って幾つもあるものなのでしょうか?」

「その話もしていなかったか。騎士団は四つある。王族の護衛をする近衛騎士団、王城や王都を守る第一騎士団、剣術がメインで魔物と戦う第二騎士団、剣術に加え魔法も使い魔物と戦う第三騎士団、この四つだ。第二、第三騎士団は、一年のほとんどの期間を魔物の森に派遣されているんだ」

「そのような仕組みだったのですね」


 確かに王家に忠誠心がなくて騎士になって、ずっと魔物の森に派遣されてたら辞めたくもなるのかも。貴族の私兵団に行けば役職がもらえるんだし。


「それからどうやって内戦を起こす可能性があるかだが、基本的には武力行使だろう。この国は基本的にどの領地も、農業に適した気候なのだ。それゆえ、物流を止めるなどの経済的な反乱は考えにくい。確かに物流を止められると痛手になるような、広い農業地帯を持つ貴族もいるが、それでもすぐに影響が出るほどではない。レオン君も知っている通り、王都の周りも農業地帯だからな。唯一考えられるのは塩だが、それもタウンゼント公爵領で生産しているので、他の貴族から物流を止められてもすぐに影響は出ないだろう。もちろん長期的に数年単位でやられると段々と状況は悪化するだろうが、短期的なものならば凌ぐことはできるし、その間に対策も考えられる」


 確かに王都を出てしばらくの間は、ずっと畑が広がっていた。経済的な反乱って影響が出るまでに時間がかかるだろうし、この国の現状ではあまり効果的な策とは言えないんだな。


「だが、今は長期的なことを考えても意味はないのだ。その頃には魔物の森の脅威が今よりも広がって、それどころではなくなるだろうからな。そうか、魔物の森についての話もしておいた方がいいな」


 え? 数年で魔物の森の脅威が広がってそれどころではなくなるの……?

 魔物の森の話って、もっと数百年とかの話じゃないの!?


「リシャール様、どういうことでしょうか? 魔物の森はそこまで危険な状態なのですか?」


 俺がそう聞くと、リシャール様は真剣な表情で俺とリュシアンを交互に見つめた。


「この話は未だ大々的には知らせていない情報だ。混乱を避けるために平民に公布することは避けている。今は貴族の当主や王城の役職持ちの間でのみ共有されている。それゆえ、しばらくはここだけの話にすると約束してほしい。リュシアンもだ」


 え? リュシアンも知らないんだ。 確かに王立学校でも魔物の森についてはほとんど聞かない。

 魔物の森が広がっていて危険ですが、騎士たちのおかげで広がりを抑えられています。

 この程度の話だけだ。そんなにひどい状況なんだろうか。


「ここだけの話にすると、約束いたします」

「私もです」

「わかった。お前たちを信じて話そう。魔物の森は、年々広がるペースが上がってきている。数年前までは騎士の数を増やすことで何とか凌げていたが、ここ最近は止めるのは不可能になりつつある。今は何とか広がるスピードを遅らせて、魔物の森に飲み込まれる村や街の住人を事前に移住させている状態だ」


 そんなにひどい状態なのか……


「移住させる口実として、平民には騎士団の訓練に使うから立ち入り禁止になるとだけ伝えているが、殆どの者が魔物の森の影響だと思っているだろう。これ以上街が飲み込まれれば、魔物の森に街が飲み込まれているという情報が広がり、大混乱になる可能性が高い」

 

 どのくらいの速度なのだろうか。それに魔物の森が広がるってどういうことなんだろう。普通の森とは植物が違うのかな?


「どのくらいの速度で魔物の森が広がっているのでしょうか? また、広がるとはどのような様子なのですか?」

「魔物の森の植物は普通の植物とは違い、ありえない成長速度のものや動物のように動けるものもいるのだ。それによって広がる速度がかなり速い」


 そんな不思議植物がいるの!? 異世界怖すぎる……


「広がる速度についてはずっと一定というわけではないので正確なことは言えないが、このままでは後十数年で王都まで魔物の森が広がってくるのではないかと予想されている。数年前はまだ抑え込めると思われていたのだが……」


 ……え、後十数年!? 俺がまだ二十代の頃ってことじゃないか! その頃に王都まで来るって……予想以上に猶予がない。

 この国の王都が飲み込まれれば、人が住める部分はかなり少なくなっているだろう。もしそんな状態になったら食料も何もかも取り合いで、確実に戦争になる。魔物に殺されるか、争いで殺されるか、食べ物がなくて命を落とすか……辛すぎる。


 というか、貴族はこの事実を知ってるんだよね? 内戦なんてやっても意味ないよね?

 だって、もし国を手に入れたとしても、すぐに国が滅びる可能性があるんだから。


「リシャール様、その現状を貴族の方々は知っているのですよね? それならば内戦をやっている場合ではないと考えると思うのですが……」

「そのように考えてくれれば良いのだが……実際に魔物の森の脅威が身近にない貴族には危機感が伝わっていないのだ。数年前まで抑え込めていたのも良くないのだろう。危険だと言っても、結局は抑え込めると思っている貴族が多い。もっと現実は深刻なのだがな」


 そんなものなのか。でも確かに俺もそうだった。魔物の森が広がっていて危ないって話は知ってたけど、日常に追われて深く考えていなかった。

 実際に身近に危険がないと、危機感は共有されないものなんだよな……


 ……でも、魔物の森に接している敵対勢力の領地が全くないってことはないよね?

 それならば、その領地の現状を聞いてヤバいって思わないのかな?


「敵対勢力で魔物の森と接している領地もあるのですよね? その領地の貴族から危機感が共有されないのでしょうか?」

「実は、敵対勢力で魔物の森と接している領地を持つ貴族はいないのだ」


 え、全くいないの!? 何でそんなに偏ってるの?


「何故そんなに偏っているのでしょうか?」

「ああ、王家は魔物の森の対策に多くの人材や資金を投入している。また、魔物の森の外縁部では騎士団と貴族の私兵団が協力して戦っている。そのため、王家に恩を感じて支持してくれる家が多いのだ。さらに魔物の森の脅威に晒されていると、貴族だとか平民だとかいう身分の前に、助け合って人間が生き残ろうという考えに変わるらしい」


 そういうことか……でもそれって、もし魔物の森がなかったら、王家を支持してくれる貴族は今よりもかなり少なかったってことだよね。

 魔物の森は厄介だけど良い面もあるのか……なんか複雑だね。


 でもその事実ってかなり危ないよね。だってもし内戦になったとしたら、王家を支持してくれている貴族は魔物の森の対処に兵力を割かないといけないから、内戦になった時に王家を助けるために多数の兵力を出せないってことだ。

 内戦をしてたら領地が魔物の森に飲み込まれました、そんなことになったら馬鹿みたいだもんね。


 現状をしっかり知ると、今ってかなりやばい状態だ……もし内戦になることがあったら数年以内に起きる可能性が高く、ほぼ確実に武力での内戦になる。

 そしてその内戦は、今のところ王家が不利ではないかと思われる。あとは女神像が光ったことで、どれだけ王家の支持に傾くかだよな。

 さらに、内戦がどんな結果になったとしても確実に国が荒れて、そんな時に魔物の脅威が迫ってくる。


 今までは自分のことに精一杯で、この国のことについてはあまり意識を向けてこなかったけど、この国ってかなり危機的状況じゃないか? 

 一番最悪なパターンは内戦で国がボロボロになって、魔物の森に飲み込まれるパターン。

 一番良いパターンは内戦を回避して、魔物の森の脅威に対して皆で立ち向かうパターン。

 でもその場合でも魔物の森がどうにもならなかったら、最終的には争いが勃発するようになって魔物の森に飲み込まれる。


 一番良いパターンも全然良くないよ。

 この状況をどうにかできるのだろうか。俺が手助けをできるならしたいけど、いくら魔法が使えると言っても俺一人の力なんてたかが知れてるし……

 俺がそう悩んでいると、リシャール様は少しだけ優しい顔になった。


「厳しい話をしてしまってすまないな。この問題は私たち大人が対処をする。お前たちは、まずは伸び伸びと学園生活を送れば良い。そして卒業したら、私たちのことを助けてくれるか?」

「お祖父様、当然です。お力になれるよう、より精進いたします」

「リュシアンは頼もしいな。レオン君は貴族ではないのに巻き込んでしまってすまないが、これからもよろしく頼む」

「いえ、何も知らされずに巻き込まれる平民よりは、今の方が対策も考えられますしありがたいです。私もお役に立てるように努力いたします」

「ありがとう。凄く頼もしいよ」


 とにかく今は自分の大切な人を守れるように、魔法の練習をして剣の練習をするくらいしかできないよな。

 俺は俺にできることを精一杯頑張ろう。



 そこからは少しだけ雰囲気を変えて、王立学校での出来事について雑談をして、俺とリュシアンはそれぞれの部屋に戻った。もうすぐに夕食になる時間だ。


 それにしても、衝撃的な話ばかりだったな。

 まずは神様の話だ。過去に使徒様がいたり神の遺物があったりして神様は身近だなと思ってたけど、神託があるってことは神様は本当に実在するってことだよな。神様は実在してるって言わないか…………神在? 

 よく分からないけど、本当にいるんだな。

 というか神様が本当にいるならこの状況どうにかできないのかよ! って思うけど、もしかしたら神様がこの状況を作り出してる可能性もあるんだよな……

 魔物に人間がやられる様子を見て楽しむ神様とか……? 怖い、怖すぎる。凄い力を持つものには近づかないに限るな。


 でも、神様のことよりも衝撃だったのは、魔物の森の話だ。この世界がそこまで危機的状況だったなんて……衝撃的な話すぎて、逆にあまり実感が湧かない。

 今はまだ俺に何ができるかはわからないけど、とりあえず力だけはつけておこう。

 これから平和じゃない時代が来たら、その時は力が全てだからな。人と戦うにしても魔物と戦うにしても……

 もっと力をつけよう、俺はそう決意を固めた。

毎日20時過ぎに投稿しています。読んでいただけたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 過去に使徒を遣わして人間を助けた実績があり、現在住む国を建国したことまで調べているのにそこまで悪意を持つ存在と恐れるのはどうなんでしょうね。 ただ無能なだけなんて予想できないから仕方ないのか…
[一言] (━_━)うーむ 主人公はレオンになって以降、以前の自分について考えるのを無意識に忌避してるのかな? だから、自分がどういう存在なのかからも目を逸らして教会に行くことを無意識に避けている…
[気になる点] >騎士団は四つある。王族の護衛をする近衛騎士団、王城や王都を守る第一騎士団、剣術がメインで魔物と戦う第二騎士団、剣術に加え魔法も使い魔物と戦う第三騎士団、この四つだ。 この並びから、…
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