夜を歩く
ふと、目が覚めた。
珍しくのども乾いていない。
眠りなおす、という気にはならなかった。
なんせ、気分がいい。
こんなに気持ちがいいのに、寝てしまってはもったいないだろう。
そう思ったわたしは寝間着姿のままベランダに出た。
マンションの五階から見える夜景はとてもきれいで、自分が普段暮らしている街とはとても思えなかった。
ぼぅっとみていると、なんだかもっとよくみてみたくなって、ベランダの外に出ることにした。
ベランダの縁に立つのは随分と苦労したが、そこまで行ってしまえば踏み出すのは簡単だった。
一歩、二歩、と確かめるように歩きながら周りを見ると、やっぱりその夜景はとてもきれいだった。
普段は見ない家の屋根がなんだかとても素敵に思えた。
一通り辺りを見た後で夜空を見上げると、そこにはきれいな星がたくさん浮かんでいた。
その星々があまりにきれいで、小さくて、優しかったものだから、つい欲しくなってしまった。
このまま歩いていけばあれに手が届くだろう、そう思って歩き出した。
夜の風の冷たさは心地よくて、いくらでも歩いて行けそうな気がしていた。
けれど、いくら歩いても星はつかめなかった。
そしてある時、わたしは恐ろしいことに気が付いてしまった。
このまま歩いていると、夜が明けてしまうのだ。
それじゃあ星は手に入らないじゃないか、そう気づいたわたしはとっても残念だったけれど、今来た道を戻って自分の布団にもぐった。
次の日の朝も、のどは乾いていなかった。