エピソード42:大地センパイ
「センパイ、せっかくだからプリ撮っていきましょうよ」
「懐かしいな。せっかくだし撮っていこうか?」
真央ちゃんはめずらしく少し照れながら『実は、妹さんにお礼のお手紙を書いてきたんです』っと、そう話をしてくれた。
「それは妹も喜ぶよ。ありがとう、真央ちゃん」
「センパイはもう写真、妹さんへ送られました?」
あっ……そういやまだ送ってないな。
俺が真央ちゃんへ渡すシューズやウェアの準備を妹の海に依頼したところ、なぜか真央ちゃんを見てみたいとの要望があった。真央ちゃんにその話を伝えると、俺とツーショットで写真を撮ってくれたのだ。
「い、いや、まだ送ってないんだ。というか、正直に忘れてました」
「なんかそんな気がしました」
「ごめん、真央ちゃん。せっかく俺と映ってくれたのに」
俺の予想と反して真央ちゃんはニコニコしながら『今日撮ったシールをお手紙に貼ろうかな』っと、嬉しそうにしていたんだけど、すぐに何かをひらめいたように
「そうだ、センパイ。ちょっと前のバイトの時みたいな髪型にセットできますか?」
「できるけど、どうして?」
「妹さんのお手紙に貼るので、その方がいいのかなって」
「た、たしかに」
海は今の俺のスタイルを知らない訳だし。俺だと気づかないかも? さすがにそれは無いか。
「センパイは今日、発送されるんですよね?」
「そのつもりだよ」
「郵便局の近くにあるゲームセンターで撮りませんか? その方が便利ですし」
「そうだね、ここと喫茶 Night viewの中間ぐらいだしな」
真央ちゃんは『私は先に向かってますので、センパイは準備が終わり次第来てくださいね』っと、そう口にした。
「え? すぐ終わらせるから、一緒に行かない?」
「うふふ。それはとっても嬉しいんですけど、待ち合わせもいいなって」
あまりにも嬉しそうに話す真央ちゃんへ『準備したら向かうよ』っと、俺はそう伝えたのだった。
~~~~~~~~~~
「やばいな、けっこう待たしちゃってる」
真央ちゃんと別れてから、予定外に時間が経ってしまった。
というのも、セットが終わり急いで出た俺は、荷物をトイレに忘れてきてしまった。『お荷物、私が持って行きますよ』と言ってくれた真央ちゃんの好意を断ったのに、俺はやらかした。
真央ちゃんにプレゼントするポーチも紙袋に入っていたから、っていうのもあるんだけど。
忘れたことに気が付いたタイミングで、真央ちゃんへ一度電話をしたけど繋がらず。一応、SMSも入れてみたけど、既読にすらならない。
ただ気が付いてないだけであって欲しい。
なんとなく嫌な予感もした俺は走ることに集中する。ちょうどゲームセンターと手前の建物の路地から急に人が飛び出して来た。
俺は『うわっっ』っと声を上げながら、ギリギリかわすことに成功する。
「きゃぁ!! ご、ごめんなさい」
「すみません、わたしたち急いでいて」
「ま、まおが……警察に電話した方がいいかな!?」
ん? まお? 真央ちゃんか?
よく見ると路地から飛び出してきたのは、ショッピングモールへ行く前に出くわした藤女の1年生3人組だった。
3人とも悲壮感に溢れ、今にも泣きそうな顔をしている。震えている子もいた。俺は彼女たちが逃げないように静かに声を掛けた。
「真央ちゃんはどこにいるの? 何があった?」
「えっ? なんで真央のこと」
「あっ! 服が……か、彼氏さん!?」
「私たち、知らない男性に絡まれていて、真央が庇ってくれて、それで」
彼女たちが出てきた路地の方に目を向けると『来ないで下さい』っと、真央ちゃんの声が聞こえ、俺は一目散に路地へと駆け出した。
~~~~~~~~~~
俺が路地裏に着いた時、真央ちゃんは3人の男に逃げ場のない壁へと追い詰められていた。怯える真央ちゃんと目が合う。
「センパイ」
「遅くなってごめん!」
真央ちゃんを取り囲んでいた男たちが振り返り、標的が俺へと移る。
「なんなんだよ、お前!!」
「俺はその子のセンパイだ! お前らこそ何やってるんだ!! 一人の女の子に寄って集って」
「はぁ? 最初に俺たちの邪魔して来たのはこの子なんだよ」
「邪魔? 嫌がってる子たちへ強引に迫ってたのを止められただけだろ?」
俺の言葉に激高した一人が『ちょっと顔がいいからって』っと、殴りかかってくる。その動きに連動するようにもう一人の男も動き出していた。
俺は一人目の男の拳を体を反らすように避け、前のめりにバランスを崩したそいつの後襟を捕まえる。『ぐえ』っと醜い音を吐いていたのも気にせず、そのまま向かってきている二人目の男へと、思いっきり投げつけた。
「ぐわっ」
向かってきていた二人目の男にクリーンヒットして、そのまま二人とも後ろに倒れこんでいた。俺はそのまま一人残っている男へと近づいていく。
「このまま退散してくれるとありがたいんだけど」
「うるせぇぇ!!」
明らかに不安そうな顔をした三人目の男が、引くに引けなくなったのか? 同じように俺へと殴りかかってくる。
俺は相手の拳を掌で受け止めると、そのまま力を込めた。『イデェェェェ』っと、男が声を上げた時
「真央! 警察に連絡したよ!!」
そう叫びながら、3人組の女子生徒が駆けつけてきた。
「どうする? 警察が来る前に、そこの二人を連れて行ってくれると助かるんだけど」
「わ、わかった、わかったから。は、はなしてくれよ」
男は泣きべそをかきながら、悲痛な声を上げていた。俺がパッと拳を開放すると、倒れている二人に声を掛け、そのまま3人は消えるようにいなくなった。
俺はすぐに真央ちゃんへ駆け寄り『大丈夫か?』っと、声を掛ける。
「センパイ……ありがとうございます。実は私、こし、腰が抜けちゃって」
安堵からなのか、真央ちゃんは恥ずかしそうに、そう呟いた。よく見ると、真央ちゃんの足はぷるぷると震えている。俺は『ちょっと我慢してね』っと小声で話し掛けた。
そのまま膝の裏に手を回し、肩を抱くように持ち上げ、真央ちゃんをお姫様抱っこする。
「きゃっ、センパイ? 私、重いから……恥ずかしいです」
「イヤだと思うけど、座れるところまで連れて行くから」
真央ちゃんはぎゅっと俺の首に手を回しながら『イヤじゃないです、大地センパイ』っと、伝えてくれた。俺はそのまま裏路地を抜けるように歩みだす。
「お、おもたくないですか?」
「真央ちゃんは軽いよ。あっ! こう見えても俺、力持ちなんだよ」
ちょっと揶揄うように、真央ちゃんのマネをすると、いつものようにわかりやすく『もぉ』っとほっぺたを膨らませていた。
俺たちの進む先にいる真央ちゃんの同級生3人組は、じぃーーとこちらを見つめていた。その視線に気が付いた真央ちゃんは
「大地センパイ、ちょっと……恥ずかしいです」
「ん? 見せつけてやるんじゃなかったの」
そう口にした後、俺はニヤっとしながら真央ちゃんの顔を覗き込む。なぜか顔を隠すように、真央ちゃんは俯いてしまった。
謝罪
「警察、すぐ来るのかな?」
「本当は連絡していないんです。そう脅したら、いなくなるかなって思ったから」
「そっか、助かったよ。じゃあ俺たちはこれで」
俺は真央ちゃんを抱えたまま、そのまま立ち去ろうとした。すると
「まお、ごめん! 今まで本当にごめんなさい!!」
俺の背中に涙声で大きく叫ばれた声がぶつけられる。俺は振り返ることをせずに、そのまま真央ちゃんに問い掛けた。
「もう歩けそうか?」
「はい! 大地センパイ、ありがとうございます」
俺は真央ちゃんを下ろしてから『向こうで待ってるから』っと伝えて、その場を後にした。




