エピソード40:釣り合わないんですか?
「二人ともいってらっしゃい。楽しんでおいでね」
「はーーい、マスター! いってきます!!」
「マスター、いってきます。じゃあ真央ちゃん、行こうか」
俺たちはマスターに見送られながら、喫茶 Night viewを後にした。そう、今日は真央ちゃんとショッピングモールへお出掛け。
真央ちゃんが俺の妹の誕生日プレゼントを一緒に選んでくれるというのだ。
「真央ちゃん、本当にありがとう」
「私の方こそです。それより、二人でお出かけってデートみたいですよね? ね、センパイ」
真央ちゃんお得意の語尾にハートマークがつきそうな、そんな甘い声で問い掛けてくる。
確かにデートと言われればそうかもしれないんだけど……なぜか、俺たちは喫茶 Night viewの制服のまま。
だから正直、買い出しって感じが否めない。
「なんか……お店の制服のままだと」
一瞬『うふ』っと笑った真央ちゃんは『お店の制服でセンパイとお出掛けできるのは、私だけですから』っと、そんなことを口にしていた。
うちの制服は俺も真央ちゃんも、ブラック基調のほぼほぼスーツスタイルだ。パンツではなくスカートではあるのだけど、特に男女でペアってこともなく。だからこんな風に外に出ても、大きな違和感はない。
そう思ってるのは俺だけかもしれないんだけど。
ショッピングモールまでの道中。妹のことをあれこれ質問されながら二人で歩いていくと、後ろの方から女性の声がした。
「あれ? 真央じゃない」
俺と真央ちゃんが立ち止まり振り返った先には、真央ちゃんと同じ高校の制服を着た女子3人組がこちらに向かって歩いてきていた。
「真央、デート? やっぱり彼氏がいたんだぁ」
「コスプレ? 何かのイベントへ行くの?」
「あ! もしかして……言えない関係? まぁ私たちは、これからリザーレ高校と合コンなの。じゃあねぇーー」
去り際に合コンなのっと口にした女子生徒が、なぜか真央ちゃんを嘲笑うように『しっかりオタク君に貢がせたら』っと、わざと俺にも聞こえるように、そう伝えていた。
嵐のような藤女3人組は言いたいことだけを口にした感じで、足早に俺たちの前から去っていく。
そんな彼女たちの態度、というか最後に真央ちゃんへ話し掛けていた女子生徒は、鈍感な俺でも蔑まれた感が否めない。明らかに悪意が籠っていたから。
真央ちゃんは、どう感じたんだろう。
どう見間違えても、さっきの3人より真央ちゃんの方が可愛いんだけど……俺が横にいた所為で、あんな事をーーーーって
「真央ちゃん?」
サービスだと言ってくれた日のように、真央ちゃんは俺の腕へと抱きついてきて。
「ほら、センパイ。やっぱりデートに見られましたよ。失敗しちゃったなぁ……もっとラブラブなところを見せつけてやれば良かったです!」
俺は真央ちゃんが、無理してそんなことを口にしてるんじゃないかと思い、確認するように顔を向ける。
パチッと目が合うと『彼氏ですって』っと、にっこりと微笑んでいた。そんな真央ちゃんを見て、ごめん俺の所為でって伝えようとした言葉を一度飲み込む。
そして『俺が真央ちゃんの彼氏だなんて、さすがに釣り合わないよ』っと、そう返答した。
「もぉ、どうしてそんなこと言うんですか? そんな先輩は嫌いです」
真央ちゃんはわかりやすくほっぺを膨らませ、組んでいた俺の腕から離れていく。なぜかそのまま軽く走り出したかと思うと、2~30メートル先にいる老婆に声を掛けていて。俺も真央ちゃんをすぐに追い掛けた。
「おばあちゃん。どちらまで行かれるんですか?」
「おや、可愛いお嬢ちゃん。あそこのバス停までね」
「お荷物、重そうですね。良かったらバス停までお持ちしますよ」
「そんなの悪いからいいのよ。あたしは大丈夫だから。お嬢ちゃんは優しいねぇ」
そんなおばあちゃんの返答に真央ちゃんは『私、こう見えても力持ちなんですよ』っと、ちょっと前にも聞いたような言葉を口にしていた。
「おばあちゃん、俺で良ければ持ちますから。ぜひ、お荷物を貸して下さい」
「あら、彼氏さん? 優しくて素敵な彼氏さんね、お嬢ちゃん。申し訳ないけど、お願いしようかしら」
にこにこしたおばあちゃんからそんなことを言われ、俺はさっきのこともあってか、何も言葉にできず、ただ荷物だけを受け取った。
ふと真央ちゃんの方に目を向けると、露骨に顔を逸らされた。そんな真央ちゃんはおばあちゃんにまた声を掛け、二人で楽しそうに会話をしている。
真央ちゃん……本当に思いやりのある子なんだな。
「おばあちゃん、ここですね。バスが来るまで私も一緒に待ちますよ」
「お嬢ちゃん、いいのよ。荷物は椅子に置くから。これ以上あなたたちのお邪魔はできないわ。それに少しだけどとっても楽しくて、これ以上はお別れが寂しくなっちゃうの」
「私もとっても楽しかったですよ」
俺は『そうだ』っと財布から喫茶 Night viewの名刺を取り出した。
「もしよければなんですけど、俺たちはこの店で働いていますので。いつもいるわけではないんですけど、本当にもしよければ」
「まあ、お二人とも喫茶店の店員さんだったのね。素敵ねぇ、必ずお邪魔するわ。今から楽しみ」
「おばあちゃん、私も楽しみに待ってますね」
おばあちゃんは嬉しそうに俺から名刺を受け取ってくれて『お嬢ちゃんと彼氏さん、本当にお似合いね』っと、目を細めながら、そう伝えられた。
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「センパイ、ダメですよ。親切に付け込んで営業するなんて」
「そ、そんなつもりは」
「嘘です。また、おばあちゃんに会えるといいなぁ」
「そうだね」
そんな会話しながら歩いていると、真央ちゃんの歩くペースがゆっくりとなる。何かを考えるようにちょっとだけ俯き『お似合いって』っと、そう呟いた。
「私とセンパイは、そんなに釣り合わないんですか?」
唐突な真央ちゃんの言葉に、俺はなんて返事をしたら良いのかわからなくて。ただ立ち止まってしまう。
もしかして
俺の勘違いかもしれないんだけど。本当は違うかもしれないんだけど。
真央ちゃんは……
藤女とリザーレの合コン結果
「ちょっとありえないんだけど」
「うんうん」
「最低! 人数揃わなかったんなら、先に言ってよ」
「ごめん、ホントごめん」
「まあでも、せっかくだし5人で遊ぼうよ」
「もううちらそんな気分じゃないし」
「そんな連絡もくれない人たち、信用できないって」
「もう二度と連絡してこないで!」
どうやらリザーレが人数を揃えられなかったそうな……
 




