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エピソード啓二&美香:100万ドルの笑顔 ④


『ゴォーーーール!!!! 1年5組 小栗おぐり選手、本日、3点目です!! 鮮やかにDF(ディフェンダー)を抜き去りゴールネットを揺らしました』


『ここで試合終了ですね! 3年3組を破り、決勝戦へは1年5組が進出しました!』



 リザーレ高校の球技大会は学年5クラスが総当たりとなった後、各学年で勝ち残った1クラスで抽選が行われ、決勝トーナメントとなる。


 総当たりは20分一本勝負。トーナメントからは5分のハーフタイムを挟んだ、20分ハーフで実施される。本来、高校サッカーの試合時間が40分ハーフであることを考えると、試合時間は半分。それが意味するのは、一つのチャンスの重要度が上がるということ。


 うちの球技大会では放送部が実況を入れたりと、ちょっと演出が豪華だったりもする。なにより決勝トーナメントからは、学校のグラウンドではなく、すぐそばにあるスタジアムで試合が行われる。


 そのスタジアムとは、俺たちの代の中体連県予選が行われたあの場所。



「小栗君、やったな!」


「おーー! いよいよ決勝戦だ」



 俺とあべっちが勝利を喜んでいる時、数人に声を掛けられる。



「小栗、さすがだな! 完敗だったよ」


「キャプテン」



「やめてくれよ、もう俺はキャプテンじゃない。引退した身だからな。最近、サッカー部のちょっと良くない噂を俺たち、耳にしてるんだけど」



 引退した3年生の元キャプテンから、率直に尋ねられ、俺とあっべちは下を向いてしまう。



「結局、俺たちの代は小栗が入ってくれても、公式戦で1勝もすることができなかった。でも、お前らの代は違うと思ってる。弱小と言われたうちの部でも、公式戦、念願の勝利を手にできるって。ただそれも、人がいての話だよ。俺たちはサッカーへ真摯に取り組むお前らを支持するから、小栗のやりたいようにやればいいよ」


 そう言うと手を差し出され『決勝戦、負けるなよ』と、握手を求められる。


 

 俺も『必ず勝ちます』と、元キャプテンに手を差し出し、がっちりと握手する。


 そのまま3年生たちは、フィールドから去っていった。



~~~~~~~~~~



 球技大会サッカーの部、決勝戦当日。



「みんな、ここまで本当にありがとう」



「感謝するのはまだ早いよ小栗」


「そうだぜ、小栗。サッカー部じゃない俺たちまで練習に参加したんだ。優勝しようぜ!」



「小栗君、どのみち俺たちには勝つしかないんだ。2年生を倒して、必ず優勝しよう!」


「みんな、あべっち……そろそろ控室を出る準備しようか」



 ちょうどその時、案内係が俺たちを迎えに控室へとやってきた。



『1年5組、こちらへ!』



~~~~~~~~~~



 雲一つない空。


 控室から入場ゲートまで来た俺が見えた景色。清々しい気持ちになる反面、俺の隣にはアイツがいて。



「小栗、決勝までよく来たな。褒めてやるよ。お前が調子に乗るのもここまでだがな」


「約束は守ってもらいますから」


「フン、どこまでも生意気な野郎だ」



『両チーム 入場!!』



 一列に並び、俺を先頭としてグラウンドへ入る1年5組。スタンドから大きな歓声と拍手が俺たちを迎えてくれる。


 グラウンドからスタジアムを見て右側が1年5組の応援席。左側が2年4組の応援席。明確に区分されている訳ではないけど、だいたいはそのように座られていた。



「おぐりくーーん!! ファイトォォ!!」



 右側の応援席から、一際大きな声が聞こえる方に顔を向ける。俺の行動に気づいた相沢あいざわさんが手を振ってくれていた。



「小栗君、絶対に負けられないね」


「あぁぁ、もちろんだ。あべっち、ゴールマウスは頼んだぜ」



 2年4組と向かい合わせとなった。現キャプテンを中心に、どこか余裕を感じさせるようにニヤニヤとしながら、俺たちを嘲笑っているようだ。



「小栗君、予想通りサッカー部は全員フィールドプレイヤーで、GK(ゴールキーパー)はサッカー部じゃない」


「一か八か。コイントス次第だな」



『整列! 今から決勝戦を始めます。 礼! 両チーム、キャプテン』



 レフリーに呼ばれた俺とアイツは、お互い睨み合ったまま向かい合う。コイントスの結果、俺がキックオフ。アイツはコートチェンジ無しを選んだ。


 俺はあべっちを振り返り、運が味方したことをアイコンタクトで伝える。こくりと首を動かしたあべっち。ゴールキーパーグローブを身に着け、より大きくなった拳がギュッと握られていた。



『両チーム、ポジションについたようです。いよいよ決勝戦、キックオフ!!』


 レフリーが『ピィーーーー』っと長い笛を鳴らす。俺はキックオフにたずさわらず、センターサークルのすぐ後ろで構えていた。



「小栗に回してくるぞ! 一人で突っ込んでくるから引いて陣形を整えろ!! みんで囲むんだ!!」



『さっそくサッカー部キャプテンの千葉ちば選手から指示が入っているようですね』



 センターサークルにいる二人。ちょんと横パスを入れた後、大方の予想通り、真後ろに構える俺へとバックパスが入る。


 そして俺は、転がってくるボールへ向かって勢いよく走り出す。



 そのままーーーー



『小栗選手、せ、センターサークルから思いっきり蹴りこみました! シュート!?』



 アイツが『なにぃぃ!?』っと大きな声を上げているのが聞こえる。



『ボールは勢い落ちずに、ぐんぐんゴールへ!』



 頼む!! もう来ないワンチャンスなんだっと、俺は相手ゴールへと迫るボールを見ながら、そう念じる。



 応援席から『いけーー!!!!』っと相沢さんの声援が届く。



『ゴールキーパーが精一杯手を伸ばしてジャンプする…………が、届かない! 届かない!!』



 GK(ゴールキーパー)をすり抜けたボールは『ガン!!』っと、ゴールバーの下を叩き、地面へと跳ね返る。



 ダメか……



「決まってぇーーーー!!!!」



 スタンドから相沢さんが、悲鳴のような声を上げる。



 ボールはまるで、その勢いに押されたかのように、そのままゴールネットに吸い込まれた。



『ご、ご、ゴォーーーール!!!! まさかのセンターサークル付近からの超ロングシュート!!』



「しゃぁぁ!!」



 俺は握り拳を高々と掲げ、ガッツポーズする。チームのゴールマウスでは、あべっちが両手を上げ、俺に応えるかのようにガッツポーズしていた。


 スタンドを振り向くと、相沢さんも握り拳を突き出すように身を乗り出していて『おぐりくん、ないすぅーーーー!!』っと、ボルテージMAXの声援が届く。



 そんな相沢さんへ、俺もガッツポーズから少し腕を下ろし、そのまま人差し指を彼女へと向けた。



 ちょっとカッコつけた俺の姿に、スタンドからより一層歓声が沸く。が、すぐに相手陣地から、そんな声援をもろともしないような怒声がして。



「おぐりぃぃぃぃ!! やってくれったな!!!!」



 俺を睨みつけたアイツは、自チームを集めていた。それを見て俺もすぐさまチーム員を集める。



「小栗、ナイッシュゥ!」


「やったな、小栗」


「いけるいける!」



「いやいや、喜ぶのは全然早いよ。地力は断然相手が上なんだ。まだ始まったばかりだ」


「「「 オウよ!! 」」」



「次の作戦にいこう」


「小栗告白大作戦プランBだな」



 そんな恥ずかしい作戦名を聞いて、サッカーの練習にあまり参加してなかった数名までも『なにそれ、なにそれ』っと、声を上げる。



「優勝したら、小栗が相沢さんに告るってプランだ」


「マジ?」


「それ負けらんないじゃん!」


「というか、まだ付き合ってなかったの?」



「頼むから、試合に集中してくれ!! いくぞ!!!!」



「「 お、オウ!! 」」



『両チーム、少しチーム内でコミュニケーションを取ったようです。ん? 2年4組はGK(ゴールキーパー)を交代するようです。サッカー部員が代わるようですね』



 予想通りだ。フィールドのサッカー部員を減らして、GKを補強して来た。



『さあ、試合再開です。スコアは1-0。1年5組がリードしています。2年4組のキックオフでスタート』



 レフリーが再び『ピィーーーー』っと、ホイッスルを鳴らした。



 俺は予定通り、マンマークで現キャプテンにへばりつく。スタミナなら絶対に負けない! どれだけコイツに走らされたことか。



「小栗ぃぃ、邪魔すんじゃねぇよ!!」


「あんたを絶対フリーにさせない!!」



『千葉選手、小栗君の徹底マークから逃れるようにスピードを上げています! 右へ左へ!! しかし! しかし小栗君、ぴったりくっついています!!』



「俺が小栗を引き受ける! お前らで点を取れ!! 小栗抜きなんだ、全員上がれ!!」



『再び千葉選手からチームへ指示が飛んでいます。サッカー部員の多い2年4組に対して、1年5組はどう立ち向かうのか!』



「みんな、焦るな! 一人だけボールを追おう! サッカー部へは必ずマンマークを! フリーにさせるな!!」



『守護神の阿部君(あべっち)から、チームへ指示が出ます。1年5組は引き気味に先制した1点を守り切る作戦でしょうか?』



 ボールを持った相手には、一人がプレッシャーを掛けるように追い回す。抜かれたら、また違うプレーヤーがプレッシャーを掛けにいく。サッカー部へはマンマークを徹底。かなり、スタミナ重視の作戦だが、技術で上回る相手にはこれしかない。



『2年4組、激しいプレッシャーと徹底したマーク。引いて守備に徹している1年5組を相手に、攻めあぐねているようです』



「お前ら、何突っ立ってプレーしてるんだよ!! 動け! スペースを活かせよ!! 相手は素人だぞ!!!!」


 俺を振り切れないでいる現キャプテンの苛立ちが、チーム員への檄となる。



『誰もいないスペースへふわっとしたボールを蹴りこんだ。ミスでしょうか?』



 まずい!!



「二人でボールを追い掛けるんだ! 引いてゴール前固めて!!」



『阿部君から再び大きな指示! ボールを追うように2年4組が走り出していました!! 1年5組も二人で懸命に向かいますが、間に合いそうにない!!』


『ボールを収めた2年4組! 追ってきた一人をかわして、そのままゴール前へセンタリング!!』



 俺は咄嗟に『あべっち!!!!』っと叫ぶ。



『ゴール前へハイボール!! 2年4組、ゴール前で構えている!!』



 ゴール前へ高く上がったボール。ただうちには、サッカー部の守護神がいる。数名で競りに来たサッカー部を押しのけて、長身のあべっちはパンチングでボールを跳ね返した。



「ナイス!! あべっち」


「馬鹿かお前ら!! 相手には阿部がいるんだぞ! グラウンダーだ、グラウンダー! 高い球上げてどうするんだよ!!」



『阿部選手、パンチングで凌ぎましたが、ルーズボールは再び2年4組! 明らかに動きが良くなっています!!』


『1年5組が追いつけないような早いパスワーク! 再びサイドへ切り込まれた!! 前半も残り時間わずか』



 完全にボールへと目が移ってしまっているチーム員は、マークを外してしまっていて。



「ボールと人を見るんだ!!」


 っという、俺とあべっちの指示も間に合わず。



『地を這うようなグラウンダーの早いボールが、ゴール前へ蹴りこまれました! 2年4組、走りこんできている! そのままシュート!!』



 バン!!っと、大きな音がする。



『阿部君、横に飛んで片腕をボールに当て弾き出した!! ファインセーブ!!!!』



 目まぐるしく変わるゲーム展開に、うちのチーム員は対応できずに少し固まってしまって。気づいた時には、あべっちが必死に守ってくれたルーズボールを、俺は追ってしまっていた。



「小栗君、来ちゃダメだ!!」


「あっ!」



『先にボールを拾ったのは2年4組。そのままパス! フリーになっいる千葉選手へボールが渡った!! 左側のスタンドからこの日一番の大声援!!!!』



 ヤバイ……予感そのままに



『千葉選手、打った!! 阿部君は体勢がまだ整ってない』



 無情にもアイツの蹴ったボールは、サイドネットに突き刺さって。



『ゴォーーーール!!!! 1-1同点!! 試合は振り出しに戻りました』



 左側のスタンドから上がる『キャーーーー!!!! 千葉さん』っと、黄色い声援がグラウンドを包み込む。それに反して俺のチーム員は、疲労の色が濃さを増していった。



『ピーーピィーーーー』っと、レフリーが笛を鳴らす。



『ここで前半戦終了です。スコアは1-1のまま、5分のハーフタイムを挟み、後半戦へ』


仲良し4人組のハーフタイム



「追いつかれちゃったね」


『うん』っと静かに声を出す私。そんな時、隣にいる葉月はづき


美香みかが気落ちしちゃダメだよ! まだ後半もあるんだから」


「うんうん。美香、応援しようよ!」

「そうそう。これからこれから!」


3人に励まされた私は、再び大きな声を届けようと


「おぐりくーーん!!!! これからだよ!! ファイトォォ!!!!」


二人も一緒に


「1年5組!! 頑張って!!!!」

「これからだよ!! がんばーーーー!!!!」


っと、声援を送ってくれる。そして二人組から


「ほら、葉月も」

「葉月も一緒に」


「わ、私は……恥ずかしいので……ちょっと」


「じゃあ葉月、手だけでも振ってあげて」


私の言葉に頷いた葉月は、恥ずかしそうにグラウンドにいる1年5組へ手を振っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  なかなか楽には勝たせて貰えないみたいですね。  熱い試合、読んでいる私も熱くなりました。  士気が下がっているのは、怖いですね。  気迫で相手に負けてはいかんですよ。
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