エピソード23:まだ内緒ですよ
「マスター、この眼鏡ってそんな俺に似合ってますか?」
「えっ!? ……いやぁ、なんて表現すればいいんだろうな」
ここはお馴染み、喫茶 Night view。
土曜日の今日は、真央ちゃんがお休みでバイトは俺一人。今、ちょうど14時を過ぎたぐらい。忙しい時間も終わり、店内も少し落ち着いた時間が流れている。
『カランカラン』
「いらっしゃいませ! って、彩乃さん!?」
「うふ、大地君のバイト姿を見に来ちゃった」
ポニーテールがよく似合う彩乃さんは、顔を少し傾けながら俺へと微笑んでくれる。
「なんか照れますね。彩乃さん、お一人ですか?」
「んーー? ラブはお家でお留守番しよんよ」
「そ、そうですよね」
『カランカラン』
「あっ、いらっしゃいませ!」
「ヤッホー、店員さん」
「店員さん、またその眼鏡してるぅ……ん? 彩乃じゃない?」
「あら、二人とも。ここにはよく来るん?」
「ん? 彩乃さんのお知り合いなんですか?」
「あ、彩乃さん? 大地君、彩乃さんって……」
「彩乃、どういうこと?」
彩乃さんは『うふふ、ひ・み・つ』っと、人差し指を唇に当て、ニコニコしている。
それから俺の顔をジッと見つめて……
「大地君、なぁにその変な眼鏡は?」
『いや、その』っと口籠っていた俺から、彩乃さんは眼鏡をそっと外して。俺の胸ポケットへとその眼鏡を仕舞い込む。
「こっちの方が素敵だよ、大地君。しんけんカッコイイ」
「彩乃さん……」
『お客さんを待たせちゃってるぞ』っと、俺の背中をポンと叩き、彩乃さんはそのままカウンター席へと向かっていった。
「す、すみません。こちらのテーブル席へどうぞ」
常連さんである二人組の女子大生へ声を掛けたのだが、どこか虚な感じで。
「だ、大丈夫ですか? あれ? もしもーーし?」
「もしもーーし?」
・・・・・・・・・・
「マスターさん、ダージリンをホットで頂けますか」
「はい、畏まりました。お嬢さんは大地君と……あぁ! ワンちゃんの?」
「はい。うちのラブが、大地君に助けて頂きまして」
「いやぁ、凄い勇敢で賢いワンちゃんですね。新聞やテレビでもお見掛けしましたよ」
「本当のヒーローは、大地君ですから」
真央ちゃん、これは大ピンチかもしれないぞ……
・・・・・・・・・・
「マスター、ピーチティをアイスで一つときな粉ミルクをアイスで一つお願いします」
「はいよ」
マスターといつものやり取りをした俺は、カウンターに座っている彩乃さんが気になって。ふと横を向くと、視線が重なった。
「大地君、思った通り制服、似合いよんよ」
「恥ずかしいです」
ネイビーのオフショルニットに白のフレアスカート。ジャージ姿とは違う、初めて見る彩乃さん。少し動く度に揺れるポニーテールが、まるで俺をくすぐってくるようで。
見惚れてしまっている自分が、なんだか照れ臭くなる。
「どうしたの? ぼぉっとして」
「あっ、いや……」
「そうそう、今日は何時にあがるん?」
「今日は4時までなんです」
「その後っち、予定ある?」
「いえ、特には。あっ! ラブちゃんとお散歩ですか?」
「大正解」
そう口にした彩乃さんの優しい笑顔につられて、俺も自然と笑顔を向けていた。そんな俺に『ふふふ、大地君には笑顔が似合うね』って言葉が返ってくる。
俺は恥ずかしさで、堪らず彩乃さんから視線を外して俯いた。
「はい、ダージリンティをホットで」
「有難う御座います、マスターさん」
「大地君、ピーチティときな粉ミルクをあちらのお嬢様方に」
「は、ハイ」
俺はマスターから受け取ると、女子大生二人組のテーブルへと足を運んだ。
・・・・・・・・・・
「大地君、大人気ですか?」
「そうですね。ご想像通りだと思いますよ」
「ふふ、そうですよね。バイトではいつもあんな眼鏡を?」
「いや、最近ですかね。学校ではいつも、あの眼鏡を掛けているみたいですけど」
「そうなんですか……」
「私はてっきり、女性避けかと思っていたら、そうでは無いみたいで」
「マスターさん、女性避けは意味がないですよ。大地君、本当に優しいんです。川で二人……ではなくて、男の子とラブを助けた後、私のことまで気に掛けてくれて。本人、そうとう疲れてたはずなのに」
「確かに……彼は優しい子です」
「そうでなければ、川へなんて飛び込めないんですけどね。うちのラブも、大地君のことが大好きなんです」
「も? ……も?」
「あっ! ……ふふふ、まだ内緒ですよ、マスターさん」
「お客様の秘密を守るのも、マスターの仕事ですから」
「さすが人気の喫茶店ですね」
「お褒め頂き有難う御座います。趣味が高じて始めた、古びた喫茶店ですよ」
喫茶 Night viewのNight viewとは、夜景の造語だとか……。
それから
彩乃「マスターさん、ご馳走様でした。とっても素敵なひと時でした」
マスター「そう言って頂けると感無量です」
彩乃「大地君のバイト姿も見られましたので。ね、大地君」
大地「抜き打ちテストみたいですよ」
彩乃「なぁにその言い方は」
大地「いや、なんかそんな感じがして」
彩乃「ふーーん」
大地「彩乃さん……」
彩乃「待ち合わせは、何時にしようか?」
大地「1回家へ帰ってから、シャワーを浴びたら出られますよ」
彩乃「大地君、この前のこと、忘れたんかな?」
大地「え?」
彩乃「うちは好いちょんよ」
大地「は、恥ずかしいですよ……」
彩乃「じゃあ、5時に待ち合わせ」
大地「はい、5時で」
彩乃「マスターさん、有難う御座いました」
マスター「こちらこそ。お気をつけて」
彩乃「大地君、また後でね」
大地「はい、彩乃さん、気をつけて」
大地「マスター、どうされたんですか? 俺の顔に何かついてます?」
マスター「い、いや……」
真央ちゃん……これは大ピンチだぞ……
はい。大ピンチです。
実は昨日のエピソードで、書き溜めていたストックは消化されてしまいました。
明日の17時更新予定ではありますが、正直お約束ができません。
せっかく本当にたくさんのご評価、ブクマ、ご感想をを頂戴しているので、エタらせずに最後まで書き切りたいと思っています。
少し構想も練りたいなとも考えております。
引続き温かいご支援を頂けますと幸いです。いつも有難う御座います!!




