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白昼夢。

すっかり暗くなった公園に冬の風が吹く。

さっきまで身体に突き刺さっていた凍てつく風はどこか心地よく感じていた。

幼馴染の優しさに触れた。人は簡単なものだ。人の優しさに触れただけで心がこんなに軽くなるとは思わなかった。

こんな優しさが幼馴染が持っているような優しさが、ほんとに僕にあるのだろうか。幼馴染はそう言ってくれた。

少し心が軽くなってもそれでも、時間は有限だ。もし僕に幼馴染のような力があるのだとしたら、天使のあの子を支えてあげたい。

その気持ちは僕の中でじわじわと滲んでいた。


夕日も沈んで真っ暗な街灯の光だけが照らす道。相変わらず冷たい夜風が吹く。

桔梗のふわふわとした背中を尻目に僕は公園を後にした。

家に着くまでの見知った道を僕は歩いていく。雪は止んだが、相変わらず道には轍ができるほどに雪が積もっていた。

僕が歩を進めると、しゃくしゃくという耳心地がいい音を奏でる。時折、車が横を通り、少し水を含んだ雪の音が鳴り響いた。改めて思う。冬の音だ。

その音と重なるようにポケットに入れていたスマホがブーと音を立てた。


【さっきはありがと!】


スマホを開いてみるとさっきまで一緒にいた桔梗からのメッセージが来ていた。

いかにも陽キャが使うような絵文字とみかんの絵文字が添えられていた。トレードマークかとツッコミたくなる。

そういえば、桔梗はみかんが大好物だったと思い出す。今思うと、桔梗がみかんの香りの香水を使っているのはそこからきているのかもしれない。

というかさっき別れたばかりなのに早すぎないかと心の中で思う。思わず後ろを振り返ってしまいそうになったくらいだ。


【別に何もしてない。むしろこっちがありがとう】


【いやいや、私と遊んでくれたじゃん】


【あれは、遊んだって感じじゃないだろ】


【じゃあ、つゆはブランコは遊びじゃないと?】


【ブランコはおまけ。メインは雑談】


【ブランコがおまけというつゆが怖い】


冗談交じりのさしあたりのないメッセージを綴っていく。

その時々に綴られるつゆというあだ名。先の話を聞いた後だからか、あだ名にさえ心地よさを感じていた。

僕は家までの道のり、時折、横を通る車に雪解け水をかけられないように気をつけて歩きながら、そのメッセージに続けて文字を打ち込んでいく。


【というかあまりにもさっきすぎるだろ】


【こういうお礼のメッセはすぐがいいの!】


【すぐっていうレベルじゃないと思うけど】


【ほんとつゆってそういうところ細かいよね!一人で帰るのさみしいかな~と思ってメッセしてあげたの!!】


【余計なお世話だ】


【ほんと冷たい~】


蓮の声が聞こえてくるかのようなメッセージが送られてくる。

このメッセージを見て付き合ってからどんどん蓮に寄って行っている気がしなくもないなとふと思った。

まあ、元々、桔梗と蓮は性格的にも似たり寄ったりなところはあったかもしれないし、蓮に寄っているというよりかは、むしろ蓮と付き合ったことで

そういう部分がさらに強調されたという方が正しいのかもしれない。


【また、明日な】


長くなりすぎてもあれなので、僕はさしあたりのない切り上げのメッセージを送る。

桔梗もおそらくなんだかんだ言いつつも僕に気を遣ってメッセージを送ってきてくれてるんだろうと思った。

さっきの件で別れたばかりだから、桔梗も思うところがあるのだろう。

この寒い中、手袋を外してメッセージを送ってきてくれてると思うと桔梗への申し訳なさが少し襲ってきたのと、

以前、瑠璃に対しても似たようなことを思ったなと思い出した。

ほんとに周りに恵まれてるな。僕は。


【うん!また明日ね!明日は最終登校日だよ!遅れないように!!】


【そういう桔梗も寝坊するなよ】


最後にそのメッセージを送ると、くたびれたクマのスタンプが送られてきた。

こんなのが今の陽のオーラを纏う女子界隈で流行っているスタンプなのだろうか。

桔梗の最後のメッセージからふと思い出す。

そういえば明日は、冬休み前の最終登校日だ。

普段なら少し心が躍る冬休みだが、僕にとっては記憶が無くなってしまう冬休みだ。いくら少し気持ちが軽くなったといっても頭に纏わりつくのは仕方のないことなのだろう。

ふと、瑠璃の言葉を思いだす。「隼人の時間を私に頂戴。」という言葉を。そしてあの時の瑠璃の真剣な表情も。

記憶が無くなると同時に、瑠璃との契約も解除を迎える。どこか明日の最終登校日が僕の中で重みを増している感じがした。


そんなことを考えながら歩いているうちに帰路についた。

外気温にやられて凍てついた鉄製のドアノブを開けると、母さんがキッチンから晩御飯を作る音が聞こえてくる。

つい数日前の僕なら、この音を聞くのも後少しかなんて考えたかもしれないが、どちらかというと、今は、瑠璃のことに頭が寄っていた。

瑠璃のことが知りたい。僕は桔梗と話してから、その気持ちが膨らんでいる気がする。

今、知ったところであと数日のこと。そう。それはその通りだと自分でも分かり切っていた。

それでも僕が瑠璃のことを知りたいと思うのはほんとに好きなのだろう。彼女のことが。


「あ、おかえり。遅かったわね」


「あー、うん。ちょっと桔梗に捕まってた」


「あー紗南ちゃんね。相変わらず昔から仲いいわね。良いことだわ」


帰りがいつもより少し遅くなったから、心配はされるかと思ったが、桔梗の名前を出すと母さんはすぐに納得した。

小学校の頃からだが、桔梗と一緒に帰るときはよく寄り道したり、遊んだりして帰ってよく母さんを心配させていた。それは向こうの親も同じかもしれないけど。

それに対して、別に母さんは、桔梗のことを悪く思っているわけじゃない。

むしろその逆で、小さい頃は、引っ込み思案な僕を連れ出してくれる唯一の数少ない友達ということもあったから、紗南ちゃんは大事にしないとだめよとよく言われてたくらいだ。

高校生に上がって聞いたことだが、コミュニケーションの勉強の相手になると母さん的には思っていたらしい。桔梗も同じ年齢なのになぜか桔梗の立場が先生みたいに思われてるのにはちょっと気に障るところはあったが、実際、その通りというか納得してしまうところはあったのでその時は何も言い返さなかったけど。


「早く手洗いしてきなさい。晩御飯もうすぐできるから」


「うん、わかった」


その後は普段通りの日常を過ごした。母さんも変に気を遣わなくなったように思う。

それは親としての優しさなのか。それとも僕の性格をわかっていて考えすぎないようにしてくれているのか。どちらにしても悪い気はしなかった。

冬にはぴったりのおでんという晩御飯を食べて、その後は、特に特別なことをするわけでもなく。お風呂に入って湯冷めしないうちにすぐに部屋のベッドに潜り込んだ。

明日は、最終登校日。そして学校で僕が僕でいられる最後の登校日でもあるわけだ。

桔梗に寝坊するなよというメッセージを送っておいて、こっちの方が寝坊するなんてことがあったときには桔梗にからかわれる未来が容易に想像つく。

そしてその隣で同調するようにからかってくる蓮の姿も。考えるだけで気が重くなった。

そのためにも今日は早く寝ようという算段だ。

冬のベットは布団が少し冷たくなっている。自分の体温の暖かさが布団の中を暖めるまでは寝れそうにない。


【隼人。起きてる?】


そんなことを考えていると携帯から音が鳴った。

開いてみると、瑠璃からメッセージが飛んできていた。今日は、僕にしては珍しくメッセージをよく開く日だと思った。


【起きてるよ。どうかした?】


【ううん。ちょっと隼人の声が聞きたくなって。ねぇ、今から通話できる?】


桔梗からそんなメッセージが来るなんて珍しかった。

好きな人の声が寝る前に聞けるなんて僕は少しだけ心が舞い上がった。


【うん、もちろん】


僕の返信は一択だ。

そう返信をすると、しばらくして、携帯が震えだす。

緑の通話ボタンをスライドさせると、どこか安心するようなふんわりとした声が携帯から聞こえてきた。


「もしもし隼人?」


「うん、珍しいね。瑠璃がこんな時間に」


「少し寝れなくてね」


ふと時間を見ると時計の針は、22時を指していた。

一般的な高校生なら、22時はまだこれから!というのが一般常識なのかもしれないが、瑠璃は見た目通りというか

夜は22時くらいには寝るという生活を送っているらしい。高校のクラスメイトと話しているときに、珍しがられているというか、

お嬢様みたいというようなことをクラスメイトから言われていたような気がする。

まぁ、解釈一致と思う人が大半だとは思うけど。僕もそう思うその一人だし。


「何してたの?」


「僕は、別に何も」


「ほんとかな~」


くすりと笑った瑠璃の声が聞こえてきた。

携帯越しだけど、瑠璃の小さく微笑んだ顔が思い浮かんだ。


「ほんとだよ。明日は、最終登校日だし、寝坊したらだめだから早めに寝ようかなと」


「なるほどね。つまりもうベットに入っているってことだね」


「うん、そういうこと」


「ねぇねぇ、嬉しい?」


「うん?どういうこと?」


「だって寝る前に彼女の声が聴けるんだよ?」


「あ、そういうことね。うん。うれしいよ」


随分と今日は瑠璃が前のめりで喋ってくる気がした。

たまに瑠璃はこのようなトーンで喋ってくる。この瞬間の瑠璃は天使というより小悪魔という感じが似合うなと思った。

時折、布団が擦れるような音が聞こえてくるから瑠璃も布団に入って寝ころびながら、通話をしているのだろう。


「そういう瑠璃は何してたんだよ」


「あ、彼女のことがそんなに気になるんだ~」


以前、カフェでした時のようなからかい声が聞こえてきた。

以前の僕なら、瑠璃のからかい声を否定してたんだろうと思う。

でも、桔梗と話してから僕の気持ちは変わったんだ。

結んだ契約を僕だけが都合よく使うのは何か違う。やっぱり契約はお互いメリットがあるからこそ結ぶことだ。

初めにこの契約を結んだときに、僕は瑠璃に言った。この契約は僕にしかメリットがない契約だと。瑠璃には何もメリットはない。悲しい思いをするだけの契約だと。

それはやっぱり違う。僕が勝手にそう決めつけていただけだ。僕にしかメリットがない契約にするのかは、僕次第だ。


「うん。そうだよ。瑠璃のことが好きだから知りたいんだよ」


「え...。」


時が止まったように瑠璃の戸惑った声が僕の部屋中に響いた。

瑠璃はいつものようにからかったつもりだから、こんな返答が返ってくるのは予想外だったのだろう。

むしろ瑠璃は少し恥ずかしがるような僕を想像していたはずだ。


「ど、どうしたの急に。隼人。隼人らしくないよ」


「瑠璃。好きだよ」


「っ...」


瑠璃の息を飲む音が携帯から小さく聞こえた。

瑠璃のほっぺたが真っ赤に染まっているのが容易に想像ついた。


「僕は瑠璃のことが好きだから。瑠璃のことが知りたいんだよ。今日、改めて気づいたんだ。僕は瑠璃に色んなことをもらってばっかりだって」


そう。小さい頃から僕は周りに恵まれていた。

瑠璃だけじゃない。僕が悩んでいたら、一緒に寄り添ってくれる桔梗も、クラスで暗い場所にいる僕を無理やり外に引きづり出してくれる蓮も。

僕の周りにはみんながいたから、僕という人が築かれていったのだろう。


「そんなことないよ。前にも言ったでしょ。私は何もしてないよ」


「ううん、してるよ」


「契約のこと?それならほんとに私のわがままなの」


「契約云々じゃない。瑠璃はこうなってからずっと気遣ってくれてた。記憶が無くなると分かった日も、その次の日に外に連れ出してくれた時も。僕はほんとに瑠璃に感謝してる」


「ほんとに感謝されるほどの人じゃないよ。私は」


ほんの少しだけ瑠璃の声のトーンが暗くなる。

その声のトーンにこの前、瑠璃が家に来たことを思い出した。

テレビに映る僕をこんな状態にした張本人。それを目にした瑠璃はいつものおとなしい瑠璃とは違う明らかに別の雰囲気を纏っていた。

あの時、瑠璃は何を思っていたのだろう。


「ねぇ、隼人。私のこと好き?」


確かめるようにもう一度、僕に答えを求める瑠璃。

前、家に来た時もそうだったけど、どこかか弱い声で瑠璃は話す。


「何度でも言う。僕は瑠璃のことが大好きだよ」


「ほんとに?」


「うん、ほんとだよ」


「じゃ、じゃあ、今日、私が翡翠君に勉強教えてた時に何も感じなかった?」


放課後、瑠璃に投げかけられた質問を再度投げられる。

今思うと、あの時の僕はほんとに鈍感だった思う。でも、今は違う。


「今日の放課後の時の質問の答えだね。ごめん。あの時は何も考えれてなくて。瑠璃と蓮が二人きりになってたと思うともやっとしたよ」


「それは嫉妬してくれてたってこと?」


「うん、そういうことになるかな」


「そっか。よかった」


かみしめるようにどこか安堵したように瑠璃が答える。

少しの静寂が部屋の中を走った。この静寂が少し気恥ずかしくなり、僕は瑠璃に問いかける。


「瑠璃は何か好きな食べ物はあるの?」


「あ、私のこと知ろうとしてる」


「知りたいって言っただろ」


「ふふっ。いや、わかりやすいな~と思っただけ」


「からかうのは勘弁してくれ」


「ごめんごめん。私の好きな食べ物はね~。んー、そうだな。いざ聞かれると難しいね」


「そうか?」


「そうだよ。私は、卵焼きかな」


「卵焼き...なんか以外かも」


「そう?」


「うん。なんかイメージと違ったかも」


「隼人の中で私はどういうイメージなの?」


「うーん、紅茶とか?」


「それ、私をお嬢様かなんかと勘違いしてない?しかも食べ物じゃなくて飲み物だし」


「確かにそうかも」


時計の針は深夜0時過ぎを指していた。結局日が変わるまで、瑠璃と通話をしていた。ベットの布団はすっかり僕の体温を吸収して暖かくなっていた。

あの後は、瑠璃の趣味とか、好きな小説とか瑠璃に関することを僕が質問して瑠璃が答えるみたいな会話をしていたけど、

聞くたびに瑠璃は小さく笑いながら答えてくれていた。ただ、時折見せる少し暗そうな瑠璃の声が気にかかっていた。

ただ、それを聞いたところで瑠璃は答えてくれない気がした。前家に来た時もそうだった。

いくら記憶が消えてしまうということより、瑠璃のことに頭が傾いていたとしても、瑠璃のことを知れば知るほど、あと数日でこのことも忘れてしまうと思う自分が少なからずいた。

それまでに、いや、記憶が消えてからも瑠璃のことを支えてあげたい。瑠璃のことを知る度に僕の気持ちは強くなっていっているようだった。

瑠璃のふんわりとした声を思い出しながら、僕は自分のベットの上でゆっくりと眠りについた。


ベットの脇から、ピピピという朝ということを知らせる目覚まし時計の機械音が聞こえてくる。

微睡みに呑まれつつも僕は、眠たい気持ちを抑えて、上半身を無理やり起こした。冬の朝という寒さが余計にベットから出たくない気持ちを募らせる。

普段の寝起きよりもだいぶ眠い気がする。昨日、瑠璃と遅くまで通話していたのが原因だろう。

ベッドに座りながら、靴下を履こうとしていると、時計の近くに置いてある携帯から音が鳴った。


【おはよ。ちゃんと起きれた?】


瑠璃からメッセージが来ていた。

朝から彼女からのメッセージ。さっきの眠気が少し和らぐくらいに嬉しくなっている自分がいた。


【うん、起きれたよ】


【よかった。昨日、遅くまで通話してたから】


【心配してくれてありがとう】


【じゃあ、いつもの橋で待ち合わせね】


【うん、りょうかい】


瑠璃とのメッセージが可愛らしいスタンプで終わる。同じ女子でも桔梗とこれほど違うものかと思う。

携帯の明かりの影響か眠気から覚めて意識がはっきりしてくる。

残り3日。着実に記憶のリセットは僕に近づいてきていた。


「はやとー。朝ごはんできたよー」


階下から母さんの声が聞こえてくる。

僕はそのいつも聞いている言葉に返事をしてベットから立ち上がろうとした。

その時。頭の中に突き刺すような違和感が襲った。

まただ。2回目だからもう分かる。これは夢現象だ。僕はベットの脇にゆっくりと座りなおして、この現象を受け入れる。

前と同じようにくらっとした目まいが襲い、視界が徐々にチカチカする。前と同じようにホワイトアウトしたかと思うと声が頭の中に響いてきた。


『...やとくん。はやとくん』


僕を呼ぶ声が聞こえてくる。

その瞬間、以前も見た真っ白な情景が流れ込んできた。

前の夢現象よりもどこかはっきりしているような感じがする。誰だろう。話しかけてきているのは見覚えのない大人の女性だった。

真っ白なワンピースに身を包んだいかにも清楚な大人の女性という感じの雰囲気を纏っていた。


『もし私になにかあったら、あの子のことお願いしたいの』


なんのことだ。

僕はこの人を知らない。いや、覚えていないだけなのか。

あなたは誰かと聞きたくても、声を発しようとしても僕の声は発せられなかった。

前と一緒だ。僕はこの世界には干渉できないらしい。

ただ、明らかに前と違うことがある。この女性は確実に僕に話しかけてきているということ。ここにいる高校生の僕に話しかけてきている。

以前のように子供の頃の僕がいてその僕と会話をしているというような感じではなかった。


『私はあの子を守りたいの。支えてあげたいの。助けてあげたいの』


その女性は誰かわからないあの子のことを僕に縋るように頼んできているようだった。

誰なんだ。あの子っていうのは。もどかしさが残る。僕の記憶をいくらたどってもこの女性のことがわからない。


『ほんとは私がするべきことなんだと思う』


『こんなお願いをあなたにするのは違うんだと思う。でもお願い』


その女性は瞳に一滴の涙を流しながら震えた声で懇願してきた。

知らないはずなのにその女性の姿を見ているとどうにも心が疼く感じがした。


『どうかあの子を支えてあげて』


その言葉を最後にもう一度ホワイトアウトが強くなり気づいたときには、僕は現実に呼び戻されていた。

いつも通りの部屋。さっきの夢現象が嘘かと思うくらいの日常がそこにあった。

静寂が流れて、神経が研ぎ澄まされているせいなのかいつもよりも窓の外の冬の風の音が鮮明に聞こえる気がした。

この夢現象は過去の大切な記憶の可能性があると病院の先生は自論で言っていた。

過去に僕は、あの女性とあったことがあるということになる。だったらいつだ。記憶を辿っても覚えていないということは、物心つく前の話なのか。

考えてもわからないことだらけだ。


「はやとー、遅刻するわよー」


再度、先ほどより少し声が強まった母さんの声が聞こえてくる。

その声に呼び戻され、考えても今はわからないので、整理していた頭を一旦リセットして、僕はベットから起き上がり、1階に歩を進めた。

2階から降りる階段の踊り場の窓からは優しい陽の光が差し込んでいた。相変わらずの寒さではあるが、最終登校日はどうやら晴天のようだった。



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