盗人と貴族と・・・
歓楽街が立ち並ぶ一角の最上階、日の差し込まない煤け節々に穴の開いたホコリまみれのボロ家に小さな子供の影がうつろう
「ぉぉぉ・・・すげぇ乾パンがこんなに!真水も!これで10日はいきていける!生きて・・・生きて・・・なにするんだろうな俺」
「ニャーン」
「ちっ!またてめぇか!そんなガリガリの体拵えたってやれるもんはねえんだよ!そんなに生きたきゃ貴族にでも頼みな!」
「チュンチュン」
「くそ鳥が近寄るな!焼き鳥にすっぞ!」
バタバタと擦り寄ってきた動物たちが慌てて離れる
「さっさと食わねえと腐っちまうな」
「くちゃくちゃ・・・ゴクゴク」
「おい!そっちは調べたか!?」
ビクッと子供は姿勢を低くする、歓楽街の下ではガチャガチャと鎧を打ちならしながら走る衛兵の姿が目に映る
「はっ!いませんでした!」
「貴族の格好をした中肉中背の男だぞ!?」
「なんだ俺じゃねーのか」
「ん?待てよそーいや俺がぎった相手も貴族を探してたな」
奪ったポーチの中をあさると中から手配書が出てくる
「ビンゴ!住所も書いてある・・・へえ貴族から横領した金をもってトンズラしたのか」
少し考えた後ひらめいた様子で口を開く
「横領した金を家に隠していたとしたらまだ隠したままどこかにいったんじゃねーか?とりあえず下見だな」
~富裕地区門前~
「夜なのに門番がいるのかよ」
「おい子供がこんな時間になにやってる?」
「っ!?」
後ろを振返ると金髪の華奢な体躯で盗賊姿の子供が立っている
こいつはリュカ、昔俺の面倒を見てくれたらしく
それを恩に着せ兄弟面してくる面倒くさいやつだ
「お前もついに自分で獲物を見つけたか、嬉しいぞ」
「これは俺の山だお前には一金貨だってやらないぞ・・・」
「はっ寂びしいね、でもさお前一人で抜けられんの?あの門」
「今考えてんだよ」
「抜け道しってるんだけど」
「先にいえ、そういうことは・・・でどこだ?」
「それが人に物を頼む態度?」
「教えろ」
「く・だ・さ・い」
「教えろください」
「これは国語の勉強からだな」
「そんな時間っ・・・」
憤慨しようと振返ると、リュカはトコトコ富裕地区の外れに走り出しながら「抜け道はこっちだよ!」と誘う
「おい、こんなとこはいるのか?」
「そうだよこれラエクの外まで繋がってるから便利なんだまぁ、いやならさっきの門番とこにカチ込めば?」
「へっやれたらやってるよ!」
リュカが案内したのは鈍く輝る翠色の異臭をはなつ下水道だった
「リュカ今日大通りを凱旋してたのって何かしってるか?」
「なにって、3大国の武道大会でしょ?」
「今日来てたのはタルクっていう怪力おじさんだよ」
「あ、もう着いたよ」
数キロ進んだ先の梯子を上がり落とし戸を開けるとそこは、彫像や細かい細工の支柱・甲冑、宝石の嵌められた標榜・国連旗、天使と人間が描かれた天井画のある講堂に辿り着く
「おい、もっといい出口は無かったのか?」
「何言ってるの?私だってここに用があるからきたのよ?先にこっちを手伝って」
「用?」
「脱獄の手伝い」
「脱獄?」
「そぅ、あの格子から講堂の地下牢に行けるの」
「また、地下か」
コツコツ
「なぁ、灯りは無いのか?」
「あなた夜目は利かないの?」
「無茶言うな、」
ボウっと小さな火が牢屋の奥で光るのが見える
「あいつか?もうさっさと連れて行くぞ」
「あっちょっと待って!」
牢屋の格子に手をやると奥から金髪の華奢な貴族の格好をした子供がでてきた
「・・・」
「貴族みたいだけど誰だ?」
「お前が盗みに入ろうとしていたバレアス家の息子だよ」
「リュカお前貴族の知り合いがいたのか?」
「事情を話してもいいけど、お前も手伝えよ?」
「は?嫌だよ」
「そいつの名前はリコ・バレアス、親が騎士団に卸すはずだった武具を野党に売って・・・」
「嫌だっつってんだろ」
「富裕地区の衛兵の巡回経路・・・知りたくないの?」
一行は講堂から裏手に出る
暗闇から外に出るとそこは夕暮れに照らされた雲を衝く無数の巨塔がそびえ立つ、ラエク城だった
「おい、ここ本丸じゃねえかよ!」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてねえよ!」
「それより早く、行った方がいいんじゃない?」
「・・・そうだな」
ヒュゥゥゥゥバン パラパラ
バレアス邸に急ぐ中、城の表ではパレードのバラやケシ模様の花火が上がる
「ありゃいいな!」
「あぁ!今回の件が終わったら酒屋に行くとしよう」
赤いレンガに黒く溝が描かれた外壁とラエクの国旗が飾ってある家に着く
「表札はバレアスじゃないな・・・偽名義か?・・・多分ここだ、はいるぞ」
「・・・」
「おっと、アンタはお尋ね者なんだ文句いうなよ?」
「別に・・・」
「リュカ、外で衛兵がこないよう見張っててくれ!」
「わかった、早くね」
家の辺りを見回すと寝室の棚を下から順に開けドレッサーを慣れた手つきで開けるが宝石一つでてこない
「おい、どうなってる!」
厚さ1cm、長さ10cm、横幅5cm程の見たこともない素材で出来た物体を見つける
「なんだこれ?鉄板?」
「やばい!隠れろ!隠れろ!」
リュカが何の前触れもなく覆いかぶさってくる
「はやく!その布団で体を隠せ!」
「・・・衛兵だ」
「は?」
外からガチャガチャと甲冑の音を響かせる音が聞こえる、その様子を緊張の面持ちで布の隙間から見守る、衛兵が通り過ぎようとしたその時、衛兵が止まる
「なんで止まるっ!みられたのか!?」
「いや、結構遠かったし・・・」
「頼むぞ・・・いってくれぇ」
その瞬間、兜がクルッとこっちに向く
ガバッと身を奥に押し込め祈る、見り捕かまれば両腕を切り落とされ晒し台に送りにされる事を彼はしっていたからだ
願いが届いたのか、再びガチャガチャと甲冑の音が鳴り遠くにさって行く
「何もなかったならさっさと出るよ!」
「あぁ…いやさっき箱を見つけたんだが…あれ?ない?」
「なにやってるの!?行かないなら私達だけで行くからな!」
「わ、わかったよ!くそ!収穫なしかよ!」
両者が憤慨するその様子をバレアスが眉をひそめながら見つめる
「なぁ!」
「なに!?」
「お前も一緒に来ないか?」
「は?」
「どうせラエクの市民権だって持ってないんだろ!?」
「関係ないだろ!」
「市民権が無ければ、身元が証明出来ねぇって事だ!つまり、仕事につくにも、結婚するにも、家を借りるにも難が付くんだぜ!?」
「もの心ついた時から盗みやってんだ!そんな奴がそんなもん…」
バレアスが口をだす
「私が用意しよう」
「は?」
「私の父バレアス卿は市民を貴族にするぐらいの力はある」
「そいうこと!こんな掃き溜めのような生活してたら大人になる前に死ぬぞ!?」
「・・・確かにな」
「よし!それじゃ・・・」
「はっ!勘違いすんな!ドブネズミにもプライドくらいある!第一リュカ、おまえなんでそんな貴族と仲がいいんだ?」
「・・・仲間じゃないやつに話せないな」
「交渉決裂だな」
「おい、貴族サマその腕輪とペンダントよこしな」
「なにをいってる!?」
「お前等はお尋ね者だろ?口止め料がないんじゃ衛兵にお前のことをチクって日銭を貰うしかねえだろ」
「お前・・・」
「リュカ、構わない・・・」
「っ!リコ様っ!」
カチャカチャとリコは金属を身からはずし手渡す
「ありがとよ、それとじゃあなリュカ・・・お前の事はよく知らなかったが頼りになったよ」
「あぁ・・・ここでお別れだドブネズミ」
「ひでえな、おい」
「リコ様さぁこちらです、お父様の元へ急ぎましょう」
リュカは振返り呟く「バカやろうが・・・」