26:図鑑レベル。
階段まで引き返すのを止め、18日目の夜はスーパーで過ごすことになった。
ダンジョン内は常に明るく、実は階段での野宿ではアイマスク必須という。
スーパーの中なら、ホームセンター同様に暗い。
持参した懐中電灯を点け、まずは店外から中の様子を伺う。
「斜めになってるだけあって、店の中はぐちゃぐちゃだな」
「寝れますかね?」
「まぁ斜めと言っても、ほんの少しだしね。このぐらいなら大丈夫だろう」
感知の反応は店内からは無い。安心して中へと入り、座れそうな場所を探して回る。
緩やかな傾斜だが、棚にあっただろう商品はほとんど床に散らばっている。
足元を確認しながら中へと入っていき、バックヤードへと続く扉を見つけた。
「なんだか少し臭いません?」
「たぶん……生物が腐ったんだと思う」
「お惣菜とお魚コーナーは地面の中ですねぇ。でもお肉コーナーが……」
そう言って大戸島さんが見つめる先をライトで照らすと、精肉コーナーという文字が見えた。
生肉……腐ってんだろうなぁ。
バックヤードの中も悲惨なものだった。幸い、こっちには生物は無かったようで、店内より空気はマシだ。
「事務所がありますね」
「そこなら休めそうかもしれないな。行ってみよう」
事務所は4畳半ほどの広さで、これではポケットを開くことは出来なさそうだ。
中は机やパソコンが散乱していたが、いくつかを事務所の外へ出せば寝るスペースの確保ぐらいは出来る。
「今日は店内にある物を貰って食べよう」
「はぁーい」
一つしかない懐中電灯だと不便だ。店内にも売ってあるだろうから、まずは三人でそれを探しに行く。
感知の反応は遠い。
ホームセンターでもそうだったが、どうも建物付近にはモンスターが集まらないようだな。
まぁ警戒は怠らないが。
「ありました。電池もレジの方に」
「OK。じゃあ二つ用意しておこう」
セリスさんと大戸島さんも、それぞれ懐中電灯を手に歩く。
それから買い物カゴを持って、散乱した商品群から今夜のメニューを探し出す。
「ふりかけご飯、いいなぁ」
「あ、じゃあふりかけはポケットにも入れますか?」
そのつもりで既にふりかけを大量ゲットしてある。
サバの味噌煮やシーチキン、タラバガニ、今どきは缶詰でいろいろ食える。
「豚の角煮……美味そう」
地上に出るまで肉料理に飢えずに済むよう、いろいろ持って行こう。
「浅蔵さん、楽しそうですね」
「え? そ、そんな風に見える?」
「はい。だって、顔、笑ってますもん」
「そ、そうか。うん、でもまぁ楽しいかもしれない。だってさ、普段だったらこんな缶詰、買わないからね」
手にしたのは高級黒毛和牛の煮物。おひとつ680円。
「高級缶詰も食べ放題なんだよ! これが喜ばないでどうする!!」
「えっと……あ、浅蔵さんって、普段はどんな食事なんです?」
「んー……米は自分で炊いてるよ。その方が安上がりだからね」
「おかずは?」
「コンビニやスーパーの総菜ってね、美味しいんだよ」
「料理、しないんですか?」
「ひとり用の総菜とか、いろいろあるし……あ、でもチャーハン作れるよ! あと冷やし中華だって作れる!」
薄焼き卵を細く切った物が売ってるしね!
あ、やめて。同情するような目で見ないでっ。
「そんな目で見るなら、俺が見つけた高級黒毛和牛あげないからな!」
「え? ずるい! 浅蔵さーん。今度ご飯おごりますから、私にもお肉くださ〜い」
ふ。セリスさんだって、やっぱりお肉欲しいんじゃないか。
あれ? そういえば大戸島さんは?
まさかひとり!?
いくら店内だからって、ひとりは心ぱ――。
「ふふふぅ〜♪ 手料理作戦ですねぇ〜♪」
「うわぁっ!?」
「はわわわわっ。な、なに言ってるのよ瑠璃!?」
「ふふぅ〜ふぅ〜♪」
……いつから居たんだ、この子は。
食後、図鑑で地図を確認。
見開きのページに表示されている部分は、全体の1/8程度か。
スマホのように指を操作すると、地図は拡大表示される。全体表示だと道は線でしか表されないが、拡大すれば水溜まりの位置すら把握できる。
道幅がこれまでの階層の中でも一番広く、小さな水溜まりなら上手くスルーできた。
今のところ見たのはウォータースライムだけか。
氷水のように冷たい水鉄砲を放つ……そんな説明書きがあった。
繰り返し吐きかけることで体温を奪い、弱ったところで覆いかぶさりじわじわ溶かして食べる!?
……あんなのでも、一応はモンスターなんだな。
「図鑑ですか?」
スライムの説明にぶるっていると、セリスさんがやってきて図鑑を覗き込む。
「えっ。スライムって、人間を食べると!?」
「あぁ。最弱モンスターだけど、それでもやっぱりモンスターだったってことだね」
「……油断しないで、倒さなきゃいけないときはさっさと倒した方がいいですね」
「そうだな。サクっと倒せるなら、そうしたほうがいいだろう」
こういう説明を読むことで、モンスターの脅威というのを再認識させられる。
それは良いことだ。
慣れることで油断するのが一番怖いからな。
「浅蔵さん。その図鑑って、レベルがあるんですよね?」
「ん? 図鑑というか、スキル? いや、やっぱり図鑑なのだろうか」
ステータス板を見たときには、確かにレベルの表示はあった。
25階で見たときはダンジョン図鑑2になっていたから、スキルレベル2ということだ。
23階で見たときもまだ2だったような。
図鑑を閉じ、再び表紙を捲って先頭ページを開いた。
ん? 最初の基本情報ページで、クエスチョンマークだった所に文字がある!
しかもこれは……。
「あ、見てください浅蔵さん。ここ」
「え?」
「ここ、【ダンジョン図鑑3】ってなってますよ。これ、スキルレベルが3ってことですかね?」
「……そうか。だから文字が解放されているのか」
「解放?」
「そう。DBP交換で出来ること。ここの項目、最初に見たときは、モンスターの取り出ししか書かれてなかったんだ」
その下に「?????」と、マークだけが並んだ項目があった。
今はその項目が二つ、文章に差し替えられているのだ。
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・・ボスモンスターを除く、通常モンスターの取り出し。*1
・・地図のコピー機能追加。
・・アイテムのコピー機能追加(超劣化版)
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「アイテムコピー……これ、ヤバいだろ」




