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165-閑話:温泉6

「はぁぁぁ、温泉終わっちゃったぁぁ」

「二泊三日って、あっという間ねぇ」

「本当だねぇ」

『やっと帰れるにゃ……』


 湯布院から帰る車の中、後ろ髪惹かれる思いで車を運転する。

 温泉に入っていない虎鉄は、特に楽しかった訳でもなかったようだ。


『がんばんにょくはぁ~、気持ち良かったにゃー。あさくにゃー、お家にがんばんにょく作ってにゃぁ』

「無茶言うな! んなもんどうやって作っているのか、知らないぞ」

『にゃー……頼りない人間にゃねー』


 くっ……なんてふてぶてしい奴。

 見てろよ!

 絶対岩盤浴作ってやるからな!!


 そんな思いを秘め、福岡02ダンジョンへとあっさり帰って来た俺たち。


「家まで送っていくけど、どうするかい?」

「今日はこっちの家に泊まりますぅ~。食堂にも顔出しておきたいですしぃ」

「私もこっちに泊まる。部屋が埃被ってないか心配やし」


 02ダンジョンの地上は、すっかり駐車場と化していた。

 冒険家や支援協会の人の車だ。


 ダンジョンのある地上部分には、ごくたまにだがモンスターが湧く。

 今までの報告だとスライムがほとんどで、次いでゴブリンだ。

 スライムもゴブリンも、生息する階層によって強さが異なるが、ネットに書かれている情報を見る限り、レベル5の冒険家でもあっさり倒せる強さしかないという。


 とはいえ、実はスライムは厄介だったりするんだよなぁ。

 は、はは。25階でお亡くなりになった愛車を思い出したぜ。


「ここにもモンスターって湧くんやろ?」


 荷物を下ろす俺の隣で、セリスがそんな声をかけてきた。


「まぁたまー……にらしいよ。俺も見たことないけどさ」

「どんなん出ると?」

「んー、ネットの掲示板とかで発見情報書き込まれるけど、スライムとゴブリンで8割だね」

「弱いスライム?」

「そう。だいたい地下のダンジョンの、1階から3階に生息している奴しかでてこないんじゃって話もある」


 荷物を持って地下へと降りて自宅へと帰って来た。

 玄関の鍵が掛かっているので、武君は畑のほうにでも行っているんだろうな。

 大戸島さんが合鍵で中へと入ると、すぐに『にゃ~ん』という声が。


『かーちゃぁぁ~ん』

『んにゃ~』


 ミケが息子を出迎え、お互いゴロゴロと喉を鳴らして舐め合っている。

 ここまで見れば感動的な親子の再会かもしれないが──


『にゃっにゃっ』

『あっ。これはダメにゃっ。これはあっしが食べるために買って貰ったやつにゃー』

『んにゃっ。にゃーっ』


 虎鉄はサービスエリアのお土産コーナーで見つけた、ホタテの貝柱を手に持っていた。

 カッチカチに乾燥させた奴だが、どうやって食べるつもりだろうなぁ。

 やっぱりふやかしてやらなきゃいけないのか?


 そのホタテを賭け、親子のバトルが始まっていた。






「あぁぁ、やっぱりこっちの家のほうが落ち着くねぇ」

『ヒョ~ッホホホ』

「ほんと。うるさい弟もおらんし、あれこれ聞いてくるお母さんもおらんけん……」

『ヒャハハハハ』

「うるさいばい! なんで家の中に化け野菜おると!!」


 あぁぁっ。また俺のマイフレンドたちが刈り取られていくぅぅっ。

 うぅ、うぅ。お前たちのことは忘れないからな。いつかどこかで役立ててやるから。

 セリスが刈り取った化け野菜を持って部屋に戻ると、先日虎鉄に刈り取られた化け野菜たちと同じ箱の中に入れてやった。


「あ、浅蔵さん?」

「寂しかったんじゃないのぉ?」

「浅蔵さん、正気に戻ってください!!」


 な、なんか俺、心配されてる?

 いやいや、正気だから大丈夫だって。


「俺、ちょっと上の協会に行ってくるよ」

「はぁ~い。じゃあ夕飯の買い出しに行ってきますねぇ」

「え、買い出し? ここから一番近いスーパーでも歩いて30分ぐらいかかるよ?」

「やだなぁ浅蔵さん。野菜ならその辺にいっぱい実ってるじゃないですか~。さっきの化け野菜は無しにして」


 あ、あぁ。そうか。畑から新鮮野菜を直接仕入れるってことか。

 肉成分は食堂から分けて貰ってくるらしい。

 今日は久々に大戸島さんの手料理か。


「じゃあ行ってくるよ」

「あ、私も行っていい?」

「あぁいいよ。今後の攻略対象のダンジョンの話をするだけだからさ」


 家を出て階段を上り、当たり前のようにゲートを越えていく。

 少し前まではこのゲート前で、拡声器を使って職員を呼んでいたものだけど。

 その拡声器も今はここにはない。

 用があれば俺が直接行って、話を出来るようになったからな。


 二階建てのプレハブ小屋が二棟あって、そのうちの一つが支援協会の事務所を兼ねた施設だ。もう一つは冒険者の宿泊施設になっている。

 事務所のほうに行って、小畑さんがいないか尋ねた。


「お、帰ってきたのかい? どうだった」

「えぇ、何年ぶりかの温泉でしたから、気持ち良かったですよ」

「天気も良かったですしね」

「そりゃあ良かった。それで、何か報告でも?」


 宿の人から聞いた、大分県のダンジョンについて話すと──


「うん。ダンジョン開放候補の一つとして挙がっている所だ。日豊本線も使えるし、宇佐駅から送迎バスを出せば他県からの冒険家も移動も楽だからね。それに──」


 温泉地まで足を伸ばすこともできるから、と、小畑さんは笑顔を浮かべる。


「温泉はいいだろうなぁ」

「えぇ、良かったですよぉ」

「俺も宇佐の施設長になりたかったなぁ」


 小畑さんはそう言って、窓の外を眺めた。

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